Onomura SCuba diving Office

 

Diving Message (1/10/2009 update) 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
  • ダイビングナイフ考

【1/10/2009】

 2009年1月5日から銃刀法が改正され、昨年の秋葉原事件の影響からかダガーナイフ等の両刃の剣の所持が禁止されました。(警視庁ホームページ

 ダイビングナイフはロープや漁網の切れ端などの浮遊物や改造などによる水中拘束を回避するために所持するものです。ウェットスーツの脚部につける方もいますが、ダイビング事故を考えると本当はBCやBCのジャバラホース等につけるほうが、万が一の場合に手の可動域に届きますので合理的といえますので、私自身はそうしていました。職業としての潜水士を規定する法律では、水中作業中のナイフの携帯を義務づけてもいます。

 しかしながら今回の銃刀法の改正によって、刃渡り5.5cm以上のナイフの所持が禁止となりました。これは正当な目的の有無にかかわらず、一切の両刃の剣の所持を禁止するものであり、事実としてほぼすべてのダイビングナイフの国内での所持が禁止となります。これまで販売されてきたダイビングナイフは、残念ながらそのほとんどがこの規制の対象になるため、今年の7月4日までにすべて破棄する必要が出ます。私自身も仕方なく、パラオツアーまで使ってきたこれまでのダイビングナイフを廃棄しましたし、現在規制で問題にならないものを探しています。

 今回の銃刀法の改正は、殺傷事件等の可能性を低める効果をうたっているようですが、現実としてはあまり意味のない改正です。なぜならば片刃のナイフや折りたたみナイフはこれまで同様に所持を認められているため、殺傷事件の可能性は低くなりません。包丁などに影響させず攻撃性の高いナイフの所持を禁止しようとしたのはわかりますが、バタフライナイフや飛び出しナイフ同様あまり意味のある規制とは言えないでしょう。刃先の短いナイフよりも刺身包丁のほうがずっと殺傷力が高いことは一目瞭然でしょうし、農具の鎌の危険性は誰にだって理解できると思います。

 逆にダイビングにとって、ナイフは極めて重要な道具です。その土地をよく理解したダイビングガイドを潜ったとしても、浮遊物の危険等はかならずしも回避できるわけではありません。私自身は海藻にフィンのストラップがからまり、仕方なくナイフで切断したことがあります。仮にその時ナイフが使えなかったとすると、気持ちが焦ったことは事実だと思います。また意外と海底には釣り糸が絡まっており、それらに万が一絡まった場合は早急に切断しなければ、大けがにつながる可能性があります。(手袋をつけず強い流れの時に釣り糸に指が絡まったら....考えただけで恐ろしいですよね。)
 もちろんダイビングナイフは、こういった切断以外のシチュエーションで利用するケースも多いと思われます。タンクをたたいて水中の他のダイバーに注意などのコミュニケーションしたり、流れが強いときに、海底にペグ代わりに刺して使うこともあります。場合によっては、小型の海中生物などを指し示す、指示棒のかわりとして利用するケースもあります。

 もちろん一般の人が考えるように海中生物を攻撃するために利用するではないため、先が鋭利である必要はまったくありませんし、切断の目的からするとナミ刃(チーズ切りのような刃にでこぼこをつけたもの)のほうがずっと使いやすいといえます。ロープを切るという目的では、刃をえぐったロープカッターがついたものが望ましいでしょう。しかし万が一の状況で生命の危機を回避するためにナイフを利用することを考えると、刃の方向を意識しないで済む両刃はありがたいですし、刃こぼれ等が起きた場合を考えると両刃のほうが重要と思われます。

 なにより一番問題となるのは、こういった危険を伴うスポーツの道具も、犯罪防止とひとからげに規制してしまう点だと思います。私自身凶悪犯罪の増大は感じていますが、だからといってその道具に使われたものを単純に規制する考えには納得できません。自動車を使った凶行があっても自動車が規制対象にならないですし、包丁を使った凶行は昔からありますがそれでも規制対象になりません。なぜならば自動車や包丁は、それを必要とするシチュエーションが多いためです。本来ダイビングナイフもこれと同様の性質ものであり、単純に犯罪防止の観点から利用できなくするというのは問題が多いように感じます。私もインストラクターとして初心者にダイビング講習を実施していますが、少なくとも他人の生命も守る義務がある職業ダイビングのプロフェッショナルに対しては、届け出制などの方法をとってでもその利用は認めるべきと考えます。

 ともあれ法律は法律。ダイビング器材を所有されている方は、ぜひとも早期に銃刀法に抵触するダイビングナイフ(残念ながら事実上ほぼすべてのダイビングナイフ)の廃棄をお願いします。