■規格抗争再び (1/27/2008)
HD-DVDとBlu-rayの次世代DVDの覇権争いが、早くも終盤を迎えている。もともとDVDという製品は、事実上東芝が米ワーナーブラザースと共同で開発した規格であり、これによりコンテンツビジネスの状況が大きく変わった。HD-DVDはその後継規格といえるものであり、現行DVDとの互換性を保ちつつハイビジョンの記録が可能といった工夫をして世に発表された。もともとはSONYやPanasonicが中心となって次世記録メディアとしてBlu-rayが提唱され規格統一を行っていたが、東芝はそれらの規格を受け入れず、独自規格であるHD-DVDの確立してしまった。このことがコンテンツ企業を巻き込んだ規格争いを発生させてしまったが、今回は世の中に普及する前にその抗争が終結しそうな状況である。
もともとこの抗争の状況を激変させたのは、朋友であるワーナーブラザースの変心である。当初よりHD-DVDを支援してきたワーナーブラザースは、Blu-rayの発売とともに両陣営の支持にスタンスを変えた。ところが2008年になって、当初の方針に反してBlu-ray単独支持に変わってしまった。これによりHD-DVD陣営の立場が非常に苦しくなったため、大幅な製品値引きという大胆な方策を講じてきたのである。今回の東芝は、の行動は、黎明期にある製品が十分に成長しないうちに価格切り下げを行い、市場を確保しようとしていう点に特徴がある。後に具体的に説明するが、これらのメーカーは成長期に高額で商品が取引されることにより投資コストを回収してきたにもかかわらず、今回はそのコストを回収できないまま低価格路線に打って出たことが興味深い点である。もちろん覇権争いに勝つために市場を確保しようとしてるのだが、コンテンツの供給力の弱いメディアが生き残ることは極めて難しいと思われる。
もともとこういった記録メディアは、ビデオカセットに端を発している。β-maxやVHSといったビデオカセットは、テレビ番組の記録という目的で世の中に発表された。しかしその機能は徐々にホームビデオという写真や8mmといったフイルムメディアの世界を浸食し、やがてレンタルビデオやセルビデオといった映画や映像コンテンツを提供するメディアとして進歩してきた。やがてその世界は逆転し、コンテンツの提供メディアとしてそれらは考えられるようになり、DVDという新しいメディアがその状況をさらに変えていった。現在のレンタルビデオは徐々に市場を縮小し、現在はレンタルDVDが主力に移行しつつある。またネットワークとPCを利用したストリーミング聴取も年々増えており、コンテンツを流通させる経路は10年前に比べると非常に多岐にわたってきている。
かつて多くの技術製品は、技術の成長期に新しい機能が次々開発・搭載され、その都度高額で商品が取引されてきた。ここでメーカーは多額の投資コストを回収し、利益を確保することが出来たのである。やがて技術が成熟期に入ると、価格競争が始まる。価格競争により利益は減るが、その成長の過程で投資コストは回収されているため、マーケットシェアを拡大することで安定的に利益をあげるようになる。そしてやがて新しい技術が生まれ、市場の縮小と共に世の中から駆逐され撤退していくのが、こういった技術製品のライフサイクルであった。
過去の歴史をふり返ると、ビデオカセットであるVHSは1976年に世に現れ、その後β-maxとの熾烈な争いを生き延び、事実上2007年までの30年間を生き延びた。その影で1975年に世に出たβ-maxは10年間の覇権争いに敗れ、1985年頃から急速にマーケットシェアを失っていった。
1980年に世に出たLD(レーザーディスク)は、1983に出現したVHD(1983-1989)と5年ほどの覇権争いで勝利を収めているが、その直後に現れたDVDに2000年頃事実上駆逐されてる。DVDに関しては1990年代末からたった10年間で普及し、現在は成熟期を迎えている。当初はDVD−ROMというLD同様読み取り専用のメディアであったがその過程で記録メディアとして変革し、現在はさまざまな方式で記録が行えるようになっている。
これらの事実を整理してみると、
・VHS:30年
・LD:20年
・DVD:10年+α
と、その市場でのライフサイクルが年々短縮していることがわかる。(LDは個人の記録メディアとしては利用できなかった)
現在の状況を考えると、記録メディアは年々高容量が求められており、記録容量の低いメディアは劣勢に立たされる可能性が高い。となるとHD-DVDとBlu-rayは当面生き残れそうな感じはするが、現在の技術の発達はそれを許さない可能性がある。というのもまずはライフサイクルの観点で考えてみると、技術の発達速度が年々早まっていることから、HD-DVDとBlu-rayの規格抗争の覇者であっても長くて10年程度しか持たない可能性が高まっている。
【次号に続く】