■三井住友銀行の野望 (2/5/2006)
このところの新聞報道では、いよいよ日本経済も復調傾向のようである。バブル崩壊の象徴であった金融機関の業績が軒並み上がり、いよいよ不良債権処理も終盤を迎えたようである。これによって一時低姿勢だった銀行も、また傲慢な態度が見え隠れしてきている。
その中でもっとも傲慢な施策に出るのが、三井住友銀行である。傲慢な暴挙としか言えない一方的な施策によって、2月20日以降社会的大混乱を引き起こそうと画策している。口座を持っている方は、今すぐ以下のホームページで、ご自分のキャッシュカードが2月20日以降どのようなことになるかをご確認頂きたい。
http://www.smbc.co.jp/kojin/atmkaitei/index.html
そう、この暴挙をご理解されたであろうか?簡単に言えば、2月20日以降、これまでの三井住友銀行のキャッシュカードでは、50万円/1日しか引き下ろすことはできず、振込も100万円までになってしまうのである。これは個人だけでなく、中小企業等の口座もまったく一緒であり、暴挙としかいいようのない身勝手な決定である。
さらにひどいことに、この連絡はたった1枚の葉書で行われる。それも@ローン等の広告と見間違えるばかりの安物の圧着葉書であり、ほとんどの利用者は見ることさえしないだろう。(多くの講座受講者に聞いたが、その葉書の存在を知っていた方は皆無であり、うちの家内も気付かなかった。)しかし三井住友銀行は、「送ったのに気付かない方が悪い」という傲慢な態度に出ている。
考えてみて欲しい。ちょっとした会社であれば、締め日等に合計100万円以上の振込を行うことなどあたりまえである。たとえば手取り30万円の給料で5名を雇用していれば、給料日に150万円の振込が必要になるのではないだろうか?建具屋や内装業者でも、資材の仕入に100万円以上かかることなどざらである。皆さんだって、ボーナス月に50万円以上を引き下ろしたり、車の頭金として貯金を50万円以上下ろすことがあるのではないだろうか?月末等のATMに並ぶと、そういうった商店や中小企業の方をたくさん見かけるし、複数の口座でお金を移動させていることをみることができる。これが一切できなくなるのである。下手をすれば未払いで取引停止になり、会社の存続が危うくなる企業も出るし、入金されなかったことで資金がショートし、自殺に追い込まれることだってありうる。人の生命に危険を及ぼしかねない暴挙を、いま、三井住友銀行は行おうとしている。
「いや小野村さん、よく見てくださいよ。生体認証型ICカードなら、合計1000万円までいけますよ。」
そのとおり。しかしこれがくせ者なのである。このカードは従来の磁気ストライプをもっていないのである。したがってこのカードにすると、三井住友銀行の生体認証型ICカード対応ATMでしか、一切の操作はできなくなってしまうのである。他の銀行やコンビニでお金をおろすことはもちろん、三井住友銀行の無人ATMコーナでも一切の操作はできない。生体認証型ICカード対応ATMは、有人店舗に敷設されているATMコーナにのみあり、その台数も2台程度である。現に飯田橋支店に行ってみたが、10台以上あるATMのうち、対応機はたったの2台である。さらにまずいことに、一般の利用者はその機械で磁気ストライプ型のカードを利用出来るため、その2台が空くのを待つのに相当な時間がかかる。他のATMは次々回転するにもかかわらず、列の一番前で次の人を先に誘導しながら待たなければならない、まさに銀行の行列整理業務までさせられてしまうのである。「お前らごときに1000万円も扱わせてやるのだから、面倒を我慢するのは当然であるし、銀行業務を手伝うことぐらい当たり前だろう!」というのが三井住友銀行の考えのようである。
さらにひどいことに、このカードを作るためには、平日に最低2日銀行窓口に通わなければならない。本人を証明するための資料を持って、複数の記入用紙にアホのように住所と氏名を繰り返し書かされ、非効率で遅い事務処理にいらいら耐えて、やっとカードの申込が完了できる。私自身2枚のカードと代行者カード(生体認証だから、本人以外は使えない。本人以外に処理を依頼する場合は、その代行者を同行し同時に代行者カードを申請する必要が生じる)を作成するために、2時間という気の遠くなる時間がかかった。さらにマヌケなのは、申し込んでから10日程度カード作成に時間がかかる上、カードが届いたらそのカードをもって再度銀行に行って静脈パターンを登録しなければならないのである。認証機器の精度も低く、結局指2本×2枚+代行者の指2本×2枚で1時間以上の時間がかかる。もちろん認証のための書類を相変わらず書かなければならない。たった2つしかない窓口をこれだけ占有するのであるから、混んでいる支店なら1日仕事になることは間違いない。おまけにうちの家内のカードは結局利用出来なかった。調べてもらうとICチップの異常だそうである。かわいそうに上記のアホ手続きを、はじめから再度繰り返している。それも、書類は全部再作成である。
上記を前提とすると、2月20日以降にこの事態に気付いた場合、皆様は会社を休んで殺気だった窓口でいらいら時間を過ごすことを、2週間にかけて2回も行わなければならないのである。また21日以降は一般の窓口も、通帳と印鑑による引き出しや振込が殺到することになる。怒号や暴力さえ容易に予想される事態であるから、小さいお子さんは少なくとも当面は連れて行かないことが賢明である。それにカード発行も、通常ですら10日程度かかるのだから、上記の事象が出て発行枚数が増えれば、処理時間が延びることは容易に想像である。となると、1か月後の支払も危ないのではないだろうか...
これらの傲慢を、三井住友銀行は「預金者保護のため」という美名にすべて覆い隠すのである。ジャパンネットバンク等は、不正によって無過失のまま預金が引き下ろされた場合、全額を負担することを宣言している。しかし三井住友銀行は、たった50万円までしか保証しない。したがって1日50万円以上おろさせなければ、万が一の場合も文句が出ないだろう、銀行自身が保証する責任も低くなる、というのが彼らの考え方である。本当にアホのエリートが自分の都合だけで考えそうなことである。
他銀行は、上記に追従していないのが、これまた笑える。当然上記と同じことは他行も考えているだろうが、三井住友銀行の失敗を参考にして展開を図ろうとしている点は容易に想像ができる。本当に無責任で下らない行動に出るのが、銀行という産業である。
安直はIT化は、多大な混乱と人命に危険を及ぼす。上記の仕組みに仕様上の問題が満載されていることは、どんなSEでも気付くだろう。1000万円のために生体認証ICカードを発行するのであれば、そこに同時に磁気ストライプも入れればよい。磁気ストライプ利用なら50万円まで利用出来るし、静脈認証機能を使うと1000万円までというのが普通の仕様だし、磁気ストライプは従来通りどこのATMでも利用出来る、静脈認証は当面銀行だけ、というのであればこれも納得するだろう。それがそんなに難しいことではないことは、どんなSEもにわかるはずである。
顧客の満足は、直接的顧客の満足だけを意味するのではない。直接的顧客が満足しても、本当の顧客が満足出来ない仕組みを、我々は作ってはならない。SIerが銀行相手にATMの仕様を固める場合は、銀行の満足だけでなく、銀行のお客様、つまり真の顧客の満足も考えなければならないのである。それができないのであれば、甘んじて下請になるべきだし、銀行を説得出来ないのであれば、自ずから下請である。IT企業の地位向上のためには、譲ってはいけない誇りを持たなければならないのである。
私は今回の件が、どのような事態になるかを静観したいと思う。倒産したり自らの生命を断つ人々が出ないことを、心から祈っている。
三井住友銀行の口座をお持ちの皆様、早急にご対応を。あなたに残された時間は、あと2週間である!!