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 May First week

 三菱自動車が揺れています。

 事の始まりは4月20日、メディアに向けて平成25年6月以降に生産した軽自動車の燃費に不正があったことをあきらかにしました。対象車種は「eKワゴン」と「eKスペース」でしたが、この両社の売上は16万台弱であり、そのすべてに不正があったようです。しかしさらにこの状況を悪化させるのが、日産自動車にOEMで提供していた「デイズ」と「デイズルークス」であり、これらの販売台数は自社をはるかに上回る47万弱であったことです。三菱自動車は、対象となる車の生産と販売は停止しましたが、問題の根深さが次々とあきらかにされています。

 今回の燃費の不正ですが、自社の内部告発ではなく日産からの指摘だったという点がこの問題の特殊性を物語っています。日産がOEM供給された車種で燃費の再検証をしたところ、三菱自動車が提供している数値とは明らかに異なる数値となるため、日産側から計算方法と内容について指摘を受けたようです。社内で検証したところ、タイヤと道路の摩擦に関するデータが他のデータと入れ替えられており、実際より高い燃費であるようになったようです。

 さらに問題なのは、社内の調査を続けると、これ以外にも明らかに不正がみつかりました。25年前から国が提示する測定方法ではない独自の測定方法で基礎のデータを算出しており、途中制度の改定があっても不正が改められませんでした。この間発売された30車種のうちの3車種程度しか国の提示する方法に従っていなかったようですから、かなり悪質な行為が続けて行われてきたようです。

 今回の件は、三菱自動車にとって致命的なできごとになる可能性があります。記憶に残っている方も少なくないと思うのですが、三菱自動車は多数の乗用車のリコールが必要な品質上の問題を社内で隠蔽し、国の報告を意図的に行いませんでした。さらに悪質なのは、他の理由で持ち込まれた車種について持ち主に無断で補修を行い、品質上の問題はなにも発生しないように済ませようとしました。2000年に内部告発によりこの悪質な品質問題の隠蔽が発覚し、大きな社会問題となりました。社内の調査によって隠蔽の事実と具体的な方法が判明し、関与したとされた役員が訴追される事態となりました。

 しかし社内調査は不完全であり、その後トラックやバスで立て続けに死亡事故が起きたことで乗用車以外にも悪質なリコール隠しがあったことが発覚し、当時国内四位の売上を誇った三菱自動車の低迷が始まります。国内入札から閉め出され、ユーザーから敬遠された三菱自動車は、その信頼回復に10年以上の歳月を必要としました。

 大きくシェアを失った三菱自動車は、2013年に日産自動車と軽乗用車部門で提携を行い、OEMの方法で日産自動車に軽乗用車を提供するようになります。三菱のブランドは痛んでいても、日産自動車がバックアップすればそのシェアを広げることができると考えた提携だったと思います。実際日産ブランドでの軽乗用車販売量は自社の販売量の三倍と、大きなシェアを獲得することが出来ました。

 しかし今回の件で完全に信頼を失った三菱自動車は、関連車種の販売中止に追い込まれました。もちろん日産ブランドの車種も販売中止となったため、その売上の大半を失ったことになります。さらに既存のユーザに対する保証なども今後発生する事が予想されるため、売上がなく損出だけが大きくなるでしょう。リコール隠し後の売上損失によって社内留保の多くは失われているでしょうから、事実上万策尽き果てた状態と思いますし、倒産も視野に入ってきたと思われます。

 もともと三菱グループは、グループ内企業を絶対につぶさない、というのが社訓となっていますが、さすがに延命させても今後の展望がまったく見込めないため、今回だけは三菱自動車を見限る可能性が高いと思われます。となると、倒産までのカウントダウンは、以外と短いかもしれません。

 この影響は日本の製造業に大きな陰をもたらすでしょうし、関連する企業が連鎖倒産しかねない問題といえます。自動車産業は非常に裾野が広いですから、多くの社員がその職を失うことも考えられます。もちろん希望に胸を膨らませて三菱自動車に入社した多くの若者も、入社早々に転職を検討しなければならない事態にもなりかねません。会社の一部の人間の短絡的な考えがこの事態を引き起こしたと思うと、これによって職を失う多くの人々にどれだけ大きな損失をもたらしたかを真剣に考えて欲しいと思います。

 しかしこのような事態は、組織が大きくても小さくても常に起きえることを我々は思い知らなければなりません。何かが起きたとき、ほんの少しの慢心やずるい心が、その事態を隠したり事実を改ざんしてしまうきっかけになるのです。公明正大な人間はそれほど多くないでしょうし、そのときは大きな事態になることを予想する人間もほとんどいません。だからこそ、何かが起きたときにこういった事態を引き起こしてしまうのでしょう。

 こういった問題は、実際の製造業よりもソフトウェアのほうがずっと危険なように私には思えます。ちょっとした油断や自分自身の甘さが、このような問題を引き起こす可能性があるからです。さらに問題かも、と一瞬頭をよぎっても、その後の残業やさまざまな報告や対処を考えると、何も起きないと思い込んだ方がストレスが少なく済みます。だからこそ我々は、我々が提供するものが社会にどれほど大きな影響を与えるかを常に考え、慢心や怠惰からこういった問題を起こさないよう自らに言い聞かせなければなりません。

 失った信用は、ほとんどの場合二度と取り戻せません。三度も信頼を失った企業の末路がどうなるかを冷静に見守りたいと思いますし、その轍を決して踏まぬよう我々は自らの仕事を見直す必要があるようです。