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 February Fourth week

 早いもので今年の1/6が終わろうとしています。二月最後のWeekly Reportですが、週末から関西出張のため少し早く更新しておきます。

 先日帝国データバンクから、「人手不足に対する企業の動向調査」に関する結果が発表されました。それによりますと、正社員に関しては「企業の43.9%で正社員不足」であり、「非正社員でも企業の29.5%が不足している」との結果になっています。正社員の場合は大企業ほど人手不足感が強く、それが中小企業の人材確保にも影響しているとのことです。昨年11月のデータでは有効求人倍率は1.41倍となっていますから、上記の不足感は真実なのかも知れません。

 結果として、企業内での一人あたりの労働量が増え残業に繋がります。したがって企業はコストカットの目的で残業代の支払いの上限を持ったり、残業の申告をさせないといった方法をとることになり、今後も違法の残業問題は続くのでしょう。さらに非正社員でも不足感がありますから、コストカットを狙ったブラックバイトの機会は減らずむしろ増加傾向にあるかも知れません。

 しかしどうにも不可解なのは、これだけ失業し再就職が叶わない人材がいたり、新人として就職活動しても数十社も内定すら受けられないのはなぜかという点です。それほど人材が不足しているのならば上記のことはおきにくいはずですし、女性の再就職だって容易なはずです。しかしそれが難しいのがなぜかというのが、一番の問題でしょう。

 まず一番考えやすいのは、不足している業界に偏りがあるということです。3K、4K、5Kといわれる製造業では、人材不足が恒常的に続いているのかも知れません。3Kを嫌う若者が職についても、その環境に嫌気がさしすぐ離職してしまうというのが考えられる一つの理由です。ところが確かに建設業は不足業種の5位に入っていますが、いわゆる製造業は入っていないのです。非正社員の分野でも、主に小売業での不足があるだけで、製造業はランキングに入っていません。したがってこの考え方はどうも説得力が欠けます。

 次に考えられるのは、低報酬であるから希望者が少ない、ということです。確かに上記の非正社員で考えると、小売業の不足は顕著です。しかしこの分野に関しては、外国人労働者が多く働いている現状を考えると、必ずしも不足しているとは思いにくい状況です。日本人に限るのであればそうかも知れませんが、外国人労働者を考えると決して不足しているわけではないように思えます。

 となると他に考えられるのは、地域格差がこの数字を作ってしまうという点です。首都圏や主要都市以外のところでは、求人数が圧倒的に少なく求職が難しいのは事実でしょう。逆に首都圏や主要都市では求人数が多くなり、日本全体で平均すれば上記のような数字になるのかも知れません。「大手企業を中心に不足感が強い」と帝国データバンクの分析していますから、大手企業のある首都圏や主要都市での人材不足がこの問題の根幹かも知れません。ただし新人に限っていえば、就職活動で人気なのは首都圏や主要都市のはずですから、数十社も受検して一社も内定がとれないなどといったことが頻発することはないと思われますし、転職や女性の再就職ももっと容易になるように思えるのです。

 と考えていくと、どうもこの問題、根深い理由があるように思えてきます。すなわち企業の側からすると、要求スキルを満たす人材で平均よりもはるかに低コストの人材を募集していますから、なかなか応募もなく採用に至ケースは少ないということです。さらに便利に長期で働いてくれて、業績悪化の際には簡単辞めてくれる人材を探しているといえますから、募集人員を満たすのは至難の業でしょう。逆に求職する人材にとっても、自分の要求する水準の労働環境や賃金を提供してくれる企業が少なく、さらに楽でスキルアップも保証してくれる企業がない、ということなのかもしれません。すなわち両者とも自分に都合の良い条件を求めており、それで折り合いが付かないのが現状の本当の原因のように私には思えてしまいます。

 この仮説を前提に、まず企業側の原因から考えてみると、現在の企業はとにかくコストカットが重要になりすぎています。昔の企業は好景気な時に積極的な人材採用や投資、新製品開発などを行ってきました。それらは短期的な営業成績には繋がりませんが、次の財を生み出す大切な投資でした。一方昔の企業は景気が悪くなると採用を減らしたり投資を削減することで、企業の存続を図ろうとしてきました。つまり景気のいいときに企業として太り、景気が悪くなれば贅肉を落として痩せる、というのが過去の企業が取ってきた方法だったのです。しかしバブル崩壊後、企業は景気が良くなっても積極的な投資をせず、むしろ効率化の名の下に贅肉をひたすら落としてきました。結果として筋肉質の企業ができあがりますが、不景気になると削るものがなくなります。となると筋肉である事業や社員をリストラするしかありませんから、非常に筋肉質で脆弱な体になってしまったといえるでしょう。これが現在の東芝の姿であり、多くの企業が陥っている状況のように思えます。

 この最たる業界が、今回正社員の人材不足の1位となった放送業界のように思えるのです。昔は正社員でるテレビ局員が番組を企画・制作し、よりよいコンテンツを提供してきました。同時に若い頃から現場で鍛えることで、企画・運営能力に優れた人材を長期間かけて育成し、優秀なコンテンツを自社で生み出してきたと思われるのです。しかしバブル崩壊と近年のメディアの多様化によって、自社でコンテンツ作成するよりコストの安い番組製作会社を頼るようになり、人材の育成が徐々にないがしろになっていきました。同時にそこでの成長が望めなければ、優秀な若者や実力あるベテランが他の業界を重視するようになります。結果として優秀な人材の採用も出来なければ企業内にも残らず、放送のブランド力を年々落としているように思えるのです。テレビ局を考えても、他メディアの成長で視聴率は年々低下していますし、優秀な人材の流出と外部製作会社の活用によって番組が画一化し、メディアとして業界全体が枯れてしまってきているように思えます。

 この状況は、正社員不足第2位である情報サービス業界も同様でしょう。現在の大手企業では社内で人材をじっくりと育成するといった風潮が徐々に失われています。低賃金な業務はオフショアに発注し、新人クラスでも十分な教育なく現場に出して旧態依然のプロジェクト環境でただ労働力として酷使するだけでは、優秀な人材は育ちませんし残ることも少なくなります。そのような業界でチャンスがあるのはベンチャーや新しいIT分野ですから、情報サービス業の大手にはどんどん人材が枯渇していくと思われるのです。

 今大企業にとって大切なことは、目先の事態にとらわれず長期的な人材育成をする姿勢だと私には思えます。短期的な育成と活躍は短期的なコスト削減に繋がりますが、次の成長分野である新しい事業やサービスを生み出し育てる人材を育成できないことを意味します。旧態依然としたビジネスモデルで高機能低賃金の要員を募集するのではなく、明日の世界を念頭に置いて必要な人材を育成する。都合のいい採用ではなく、本当に必要な人材を自らじっくり育てる姿勢が、今後のIT業界では非常に重要なテーマになると、私には思えます。

 この問題、AIを絡めたもう少し複雑な仮説もあるのですが、長くなりますので続きは近いうちに...