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Weekly report

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 June Second week

 先週、先々週と研修が続き、すっかり疲れてしまいました。年齢的に無理が利かないのは解っていますが、それでも連続した講座をこなす体力が落ちていることは本当に痛感します。そんなわけで更新が一日遅れてしまったことを、お詫びしたいと思います。

 さて先週も新人研修を行っていましたが、やはり気になるのは「考える力」の低下です。私は「考える力」を、「論理的思考」「発想力」「想像力」の三つと定義しています。「論理的思考」はその名の通り、論理的に筋道を付けて考えることです。「発想力」は、思いつきではない根拠のある新しい考えがひらめくことです。そして「想像力」は文字通り想像する力であり、新しい技術が使われている現場を想像したり、困っている人の行動を想像するという力です。

 この三つの力を総合的に使いこなすのが考える力なのですが、すべての世代においてこの力が落ちているのというのが実感です。東日本大震災の際にも、大手町に詰めかけた高学歴のキャリア組が、被災した福島第一原発の対応を行っている姿を見ても、この三つの力が相当に落ちていることを感じざるを得ませんでした。思いつきのような対策を次々講じた割に対策の効果は低かったですし、その対策を講じるための根拠や理由も希薄でした。そして何よりその愚策の積み重ねによって水素爆発が起きる可能性を軽視しましたし、その結果として人の住めない膨大なエリアを作ってしまうことを想像できなかったのは愚かとしかいいようがありません。まさに考える力の低下がもたらした結果であり、もう一度我々はその力を取り戻さなければならないと痛感した瞬間でもあったように思います。

 このようにすべての世代において考える力が低下しているのは事実なのですが、それでも中年以降、すなわちインターネットの普及前に社会に出た人間は、それらの力を取り戻せる可能性があると私は考えています。なぜならインターネットがない時代においては、考えることができなければ何も学習できませんでしたし、想像力がなければなにも解らなかったからです。たとえば調べものをする際にも、その事項をどこの何で調べるべきか、そこにない場合はどうするべきかを考える必要がありましたし、想像を巡らせる必要があったのです。その上でそれをくり返すことによって新しい発想が生まれ、別の方法で調査を出来たり知ることが出来たりしたように思うのです。

 ところがインターネットの普及と共に、この力が全世代から失われます。考える時間は数秒で良く、後は思いついたキーワードを試行錯誤的に入力していけばそれなりの結果が得られます。内容を正確に記憶する必要はなく、また入力をすれば同じ結果を得られます。となると、論理的に考えなくても思いつきで結果が出ますし、結果を覚えて再考する必要もなくなります。結果として論理的思考力と発想力が徐々に弱くなります。

 さらに動画の影響もあると思います。想像を絶する動画が無限にありますから、自分の頭の中で創造する必要はありません。全く新しい想像を絶する映像も映画が提供してくれますし、その断片がインターネット上にあふれています。自分の想像力を駆使するよりも、リアルで斬新な映像を見た方が楽しいですし、刺激も強いことは間違いありません。

 しかしその結果が、どうも年々新人さんの「考える力」に影響を与えているように思われるのです。国内の超一流大学や大学院出身者を数百名集めたSIerさんの新人研修でも、やはり相当に考える力が弱いと思いました。特に驚くのは、「想像力」の欠如です。ケーススタディをやらせても受検用の問題集を解いているように取り組みますし、実際の状況を想像する方は皆無でした。文字通りに内容を理解し、文脈と語彙から答えを探すようにケーススタディに取り組むだけで、実際のビジネスやITを想像しながら状況を理解しようとする新人さんはいなかったように思いました。

 ケーススタディは実際のビジネスを模して作成してありましたし、想像すればするほどさまざまな不明点や疑問点が沸くように作成されています。しかしほとんどの受講者は、想像の欠如の結果として単に思いつきの質問で不明点を埋めようとしますし、質問内容も頓珍漢なものばかりでした。在庫管理の問題でしたが、実際の倉庫の状況を想像したように思えませんし、日々の売上や客単価も情報として理解するだけで、実際の店舗でそれだけの商品を購入するとどのような重さになるとか持って帰るのが大変といった想像は皆無のように思えました。

 このように想像力の欠如が補われない場合、実際のビジネスの現場に行ってなにも理解出来ない可能性があります。顧客のいうことを鵜呑みにし、何も考えずに情報システムに展開するようになるでしょうし、現在多くの企業が求めているイノベーションのアイディアもまず生まれないでしょう。むりやりアイディアを出させても思いつきであり、根拠や理由があるものではない可能性があります。ましてや新しい情報技術を利用したアイディアなどはまず無理でしょうし、これでは世界の競争に確実に負けてしまいます。

 この責任は若者にあるのではなく、そういった考える力を育てなかった学校や社会に理由があります。我々年寄りはそれに気付き、まずは自らの考える力を高め、その上で若者が考える力を効果的に身につけられるような仕組みを考えていかなければなりません。いよいよ私も、「考える力」を高めるべく、20年ぶりの努力を開始するつもりです。