二週間ぶりのWeekly
Reportです。本当に歳は取りたくないもので、ちょっと忙しい事象が続くと、あっという間に日常生活が破綻します。かつては徹夜や短時間睡眠で挽回できたのですが、この年齢になるとさすがにその対応はできませんし、しても効率が悪いか翌日の仕事が不能になるだけですから、本当に面倒です。とはいえ丸11年ほぼ毎週続けたこのページ、今後も体力の続く限り続けたいと思っています。
さて懸案の豊洲市場が開場しました。地下水の汚染から始まりレイアウトの悪さなどさまざまな問題が判明しましたが、結局1年以上遅れで開場したようです。小池都知事は責任を持ってこの問題を解決する、と公約していましたが、結局なし崩しで問題はうやむやになり、あまり効果が見えない土壌の入れ替えとコンクリートによる表面のコーティングだけで問題を片付けてしまったようです。あれだけ騒ぎ立てたマスコミもすっかり好意的な報道になっていますが、小池新党もその後の失速が甚だしく、結局は政治的なパフォーマンスだけで問題の解決を向かえてしまったようです。
跡地の築地は早速解体が始まりました。オリンピックの物流拠点に向けた再整備が急がれるのでしょうが、大量に生息するネズミの問題等課題は山積しているようです。粛々と解体が進み、その後の利用についての前向きな検討がなされることを期待していますが、都心の一等地ですので様々な利権が絡み水面下の暗闘があるのでしょう。いずれにせよ都民やそこで働く人々に役立つ街になって欲しいと願っていますし、アイディアのある未来の街ができることを期待したいと思います。
しかし豊洲市場ですが、これまでに報道されているとおりそこで働く人々を無視した設計になっており、市場の効率性や利便性、そして安全性の観点で今後が不安視されます。まずはレイアウトの問題ですが、水産仲卸棟、水産卸売棟、青果棟が完全に分離されました。それぞれの建物の間には大きな道路が走っていますので、相互の行き来は困難を伴います。築地は国鉄の操車場の跡地ですからフラットな一体構造でしたが、今度は複数階の小規模ビルになっているためこのような事態が生じています。
次の問題は複数階の階層構造になっている点です。これも仕入れを行う人間にとっては上下への移動が必要になりますので、非常に面倒であるだけでなく階段やエレベータの混雑が予想されます。スロープも車両の速度が落ちますので渋滞の原因になるでしょうし、これまでと同じ速度で仕事を消化するのは難しいでしょう。
建物でいえば、ビルのため通路間が狭い点が問題です。荷物を運ぶターレーと呼ばれる市場専用のトラクターが頻繁に移動していますが、店頭に荷下ろしをするために停車するだけで通路が狭まり、2台が交差するので精一杯のようです。もともと店のレイアウトも狭くなっているため、店頭の通路に商品を仮置きすると、荷物、ターレーで二重に場所を取りますから、結局通行の幅が確保できません。ターレーが渋滞すれば作業は確実に停滞しますし、そこを移動する仲買人も通行が難しくなります。年末等の物量が増えるシーズンになればなるほど、この問題は見過ごせなくなる可能性が高いと思われます。
さらに建物の構造上の問題で、車両に積載できる重量が限定されています。市場にはフォークリフトも走っていますが、豊洲市場側は2.0t、2.5tフォークリフトの積載重量を800kgまでと制限しています。フォークリフトは構造上爪先に荷物を載せるため、重心がどうしても前に来ます。そのため2.5tフォークリフトは自重が4tほどあり、これにより2.5tの荷物を載せても前に倒れることなく作業ができます。2.5tフォークリフトとは自重ではなく積載重量が2.5tということですから、800kgでは性能の1/3しか物を運べません。豊洲市場は築地と違い階層構造になっていますから、重たいフォークが上階層を通ると床が抜ける可能性があるためこの規制が行われたようです。800kgを守れば作業効率は1/3になるので時間内で仕事が終わりませんし、規制を破って1t以上の荷物を運ぶと、床が抜けることはなくてもひび割れ等がすぐに発生するでしょう。いずれにせよ、解決の難しい根本的な問題です。
これ以外にも階層構造、三棟分離構造ですから、仲買人等仕入れを行う人々の導線が大きく変わります。スーパーマーケットで買い物をする場合も、まっすぐの導線で買物ができる方は少ないはずです。野菜売り場を通り魚をみると、ブリと一緒に煮込む大根が必要なことに気づいて野菜売り場に戻る、弁当のおかずを肉売り場で考えていると、ハンバーグに使う玉ねぎがないことに気づく等といったことは、日常でしょっちゅう起きることです。ましてやよりよい物をより安く仕入れようとする方々にとっては、さまざまな店を比較することは必須のことでしょうし、これが階の上下を伴うのであれば非常に効率が悪くなります。結果市場での滞留時間がかかり、駐車場の回転も悪化します。
さらに駐車場の台数も少なく、道路の渋滞も起きています。電車はゆりかもめで5時以降にしか発車していません。となると、多くの料理人や業者などが今までと同じ仕入れを同じ時間で行うことはきわめて難しい、ということは誰でも気づきます。
今回の件が政治パフォーマンスに使われたためこういった問題を一般の方々に理解させることが難しくなってしまいましたが、そこで仕入れを行う方々にとっては死活問題が山積していることになります。
このように考えてみると、結局は利用者を無視した机上の空論で豊洲市場が設計されたと思わざるをえません。かつて私は製造業のコンサルタントを行なっていましたが、羽田界隈の倉庫であれば、二階、三階で大型のフォークリフトが行き来しているところはざらにあります。サッカーコートほどの大型倉庫も普通にありますし、柱の間隔が狭くないと重量に耐えられない、といったこともあまり聞いたことがありません。香港では、30階建てという文字通りの工場団地もありましたが、20階で大型プレス機が動いたり、大型のフォークリフトと荷物を運び上げるエレベータも存在していました。さらに保冷倉庫は水分も多いですし、荷物の重量もかなりあるはずですが、それを問題とする倉庫も見たことがありません。要はその目的で設計、施工するだけであり、ニーズが明確であればそれを実現する方法はいくらでもあるはずなのです。
大型の構造物にし、一階を駐車場、二階をトラックヤードにすることも可能でしょうし、三棟が別でも工場のように敷地を1つにすれば、それぞれの行き来も問題ありません。逆に道路を地下化あるいは高層化してしまい、棟と棟の間にアーケードをかければ行き来の問題も解決できたはずです。ようするに、利用者側のニーズをきちんと汲み取って設計すれば、いかようにも対応ができたはずなのです。
今回の件は、我々ITエンジニアにも大きな教訓を残してくれます。利用者の本当のニーズを汲むことなく要求定義に失敗してしまうと、このような結果が待っています。テスト段階や移行段階で問題が噴出しても、結局抜本的な対策はありません。利用者が多ければ多いほどニーズは多様化するからこそ、その抽象化も必要になります。ひょっとすると、その分析と抽象化、要求の定義は、もはや人力では不可能なのかもしれません。となるとこの解決にも、AIとビッグデータが必須になるかもしれません。パブリックコメントのように全てのユーザから声を聞き、そこから傾向と抽象化された要求を形作るためにはAIが必須となるでしょうし、こういった積極的取り組みを行ったプロジェクトほど、今後の成功の確率は上がるように思います。
今回の件を関係ないとするか他山の石とするかは、その仕事に携わるエンジニアの自由です。しかし世界につながる新しいものを生み出す我々だからこそ、この問題から真剣に学ばなくてはならないと考えるのは、ポンコツの老頭児ゆえの不安なのかもしれません。