今年も残り二週間となりましたが、新型コロナウイルスの感染拡大がとまりません。
先週は東京都の感染者数が過去最大を大幅に更新する822名となりましたが、全国でも過去最大の3211名の感染が数えられました。第二波の頃は一日300名の感染者数でも畏怖していましたが、現在では国民もすっかり慣れてしまい人出は相変わらずになってしまったように思います。注意していればかからない、という慢心が一番危険なのですが、多くの方が「とはいってもこれまでかからなかったのだから、今後も大丈夫」と思っているように思います。企業の姿勢も緩みがちであり、出社日数が増えたり今後は集合を前提にと考え始めているきらいもあり、非常に危険な状況です。
現状新型コロナウイルス関連の医療機関は完全に満床状況であり、今後命の選別が起きそうな気配です。医療機関や病院への通院を敬遠する傾向が強く病院経営は逼迫状態ですが、その中で緊急的な治療が必要な患者に対して医療サービスが提供出来なくなるレベルまで患者が増えています。国民の顔色を見ながら政治を行うのではなく、真に国民のためになる政治を行ってほしいものですが、現総理の無能状況ではそれも難しいのでしょう。一日も長く総理の座にとどまることをばかり考えているようであり、1年もたたずに自らカウントダウンを始める総理などはやく辞めてほしいものです。
そのような中先日ショックを受けたのは、三菱航空機のスペースジェット開発人員の削減のニュースでした。YS-11以降初めての国産旅客機である「スペースジェット」の開発について、来年以降開発人員を1/20となる150名体制に縮小するようです。表面的な理由は「新型コロナウイルスの感染拡大による需要の喪失」としていますが、もともと400機の受注を受けながらも期日を大幅に遅れても完成できなかったのですから、事実上の失敗を意味すると思います。これにより航空産業に再び返り咲くという日本の航空業界の夢はもろくも崩れたことになりますし、今後再参入することも事実上不可能になったといえるでしょう。
スペースジェットが初飛行を行ったのは5年前の2015年でした。YS−11の引退以降国産のジェット機が空を飛ぶ姿を見ることができなくなりましたが、その後ようやくこのスペースジェットがその役割を果たすことになりました。しかしその後も開発は続いたものの各種の認証を得ることができず、事実上開発が頓挫してしまいました。投資額が一兆円近くになったものの、それを支える受注を受けられなかったのが原因ですが、よくよく考えてみると原因と結果が異なるように思います。つまり受注がないから作れないのではなく、完成しなかったから受注されなかった、というのが事実と思います。エアバスのA380ような超大型機の時代は、とうの昔に終わってしまいました。ボーイングが長年製造し続けた747型を諦めたように、世界の航空業界は小回りのきく中小型機に主軸が移っています。その中でもスペースジェットのような小型機は機首が少ないため、三菱のスペースジェットは大いに可能性がありました。しかし完成できない航空機を待つ航空会社はありませんから、結局その他の小型機に需要は流れ三菱の野望は潰えてしまいました。
その原因は、やはり日本の製造業にあるように私には思えます。世界一の完璧な部品を組み立てて、世界にない完璧な製品を作る。これが日本の製造業の矜持でした。しかし時代はハードウェアからソフトウェアに変わっているのであり、高精度な部品の集合体による高性能な完成品は、コストの面でもスピードの面でも競争力をなくしてしまったことに、我々は気づかなければなりません。
部品の不具合で製品の機能が十分に発揮できない場合、高精度な部品の再設計と製造が必要になります。不具合が見つかりそれを改良してテストするまで、設計から製造、テストまで膨大な時間と費用が必要なことがわかります。それを試作として何度も繰り返し完成させていくためには、さらに膨大な時間と費用が必要になります。さらに完成したとしても、当該部品をすべての製品に適用するためにはさらに時間と費用が必要となりますから、完成までの時間と費用は指数関数的に大きくなっていきます。ところがハードの不具合をソフトウェアで改善するとなると、時間も費用も一瞬です。テストは何度でもできますし、変更の幅も自由です。
例えばテレビのリモコンで考えてみましょう。12個のボタンでチャンネルを切り替えても、BSやCSの放送局の数が増えるとボタン数を増やさなければならないことになります。同じ面積に100個のボタンを付けることは事実上不可能ですし、リモコンを大きくして100個つけても、放送局が増えれば対応出来なくなり新たに設計・製造を行う必要があります。しかし上下のボタン2個でリモコンを作ってしまえば、チャンネルの変更は昇順・降順にボタンを押すだけですからチャネル数は無限になります。どんなに放送局が増えてもその周波数を拾うようソフトウェアを変更するだけですから、ハードウェアの設計・製造も不要であり、すべてのリモコンをネットで一瞬でチャネル数増加の更新をするだけです。
このように今の世界のモノ作りは、基本的な機能を持った製品をさまざまなソフトウェアで動かすことが基本になってきています。それは高精度で高性能な製品を作れない世界の製造業の技術の限界があったからこそ、生まれた発想です。日本は無理辺に難しいと書くような製品を技術者の努力で常に完成させてきました。だからこそ、ソフトウェアで簡略かつ自由に作る発想が生まれなかったですし、世界に学べなかったのです。
残念ながらこの考えを持てない日本の製造業は、世界の競争で負けていきます。同時にそういったソフトウェアをつくれないIT業界も、世界に負けていきます。経産省は日本の国力を組込ソフトウェアの開発力といっていますが、日本の技術者の根本的発想を変えない限り、スペースジェットのような失敗を繰り返し日本の経済力を失っていくことは、残念ながら間違いなさそうです。