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■感覚の伝達 (2004/7/20)

 「耳が抜けない」

 娘が水中でハンドシグナルを送ってくる。圧平衡とよばれる、水圧と耳穴内の圧力を平衡させるための動作が、上手くいっていない。これができないと、水深2m以上には潜れないため、ダイビングを行うときは必ず身につけなければならないテクニックである。

 早めの夏期休暇は、那覇で取っている。ちょっと短いことは残念だが、それなりに楽しめる休暇であり、3日ばかりダイビングを行っている。高速ボートで慶良間に行き、ダイビング。日本とは思えない水のきれいさと魚影の濃さが、沖縄という土地をつくづく感じさせてくれる。

 「耳が変だ。」

 再度ハンドシグナルを送ってくる娘。小学生なので肉体も未発達なのか、どうも耳抜きが上手くいかない。通常の5倍程度の時間をかけ、ゆっくり潜降。そのうちになれてきたのか、やがてすいすいとダイビングを楽しみだす。初心者とは思えない体のコントロールに、子供の無限の可能性を感じる。泳ぎは確実に、プロである私(ちなみに某大手ダイビング団体の現役インストラクターでもある)よりも上手いし早い。ちょっと油断すると、追いつくのにえらい苦労をする。

 浮上後は、リバースブロックに苦しむ娘。頭蓋骨内のサイナス(死腔)に漏れ出た空気がたまり、圧力の低い水上で思いっきり膨らんだ空気が、逃げ場を失って頭痛を引き起こす。これがリバースブロックである。時間がかかればやがては直るが、それまではちょっとした苦痛がつづく。(離陸後の飛行機でなる方もいるのでは...原理はまったく一緒です。)耳抜きが上手くいかず、思いっきり息を吹き込むことから、この現象がおきやすい。やはり耳抜きが問題である。

 しかし娘と話していて、一つのことに気づく。耳抜きを始めるタイミング、耳が抜けた状態、とは??

 ダイビングの講習では、「痛くなる前に」「耳が少し変だと思ったら」耳抜きを始めるように教える。耳抜きが上手くいけば、痛さがなくなる」とも教える。しかしその痛さ、少し変だとはどのような感覚かは、伝えられないのである。つまり人間の五感はほとんど主観の世界のものであり、本当の意味でその強弱や感覚の性質は、人に伝達できないのである。

 基本は神経細胞を情報が伝わり、脳が感知することで感覚を認識する。神経が未発達であれば、痛み等の感覚をもたないことになるし、脳が壊れていれば、その感覚をすることができない。私も怪我で、手の一部の感覚がきわめて薄い。つまり、電気信号なのである。

 となると、ここにITの可能性が生まれる。人の感覚を伝達する仕組みはできないのだろうか。もちろん激痛などを制限するリミッタの機能は不可欠であろうが、感覚を増幅するアンプ機能と、伝達する機能をもったテクノロジは、未来を変える。たとえば高熱の素材を加工する場合でも、触覚だけをつたえて熱感を伝えなければ、現在とは違った加工が可能になる。宇宙服をきて作業をおこなっても、手先の微妙な感覚は維持できる。ダイビングの耳抜きの感覚を、経験者が未経験者につたえることができる。これは、本当に便利なテクノロジである。
 逆に、殴られたり刺されたりしたときの感覚を、学校で教える。どのぐらいの痛みがあるものか、それがどれほど苦痛なのかを教えることで、教師や友達に殴られなくても痛みを知ることができるし、粗暴犯罪の抑止効果が働くであろう。これを戦争に当てはめ、決して前線に出ない一国の宰相に全員の痛みを味合わせれば....

 使い方は選ぶ必要がある。しかしこのようにITは、未来を変えることができる。武器と同様、使い方には慎重な検討と論議が必要だが、その発達は妨げてはならないはずである。この発達に向けて、技術者は邁進しなければならない。