■ライブドア狂想曲 (2/5/2006)
今年の1月16日夕刻、ライブドアに強制捜査が入った。時代の寵児として一躍有名になった堀江氏が逮捕され、確実に日本の変化を見せつける事態となった。
日本は大人の社会である。同じく歴史をもつ欧州も、大人の社会を持っている。大人の社会では、ルールに乗っ取った活動が要求されるし、その活動の結果既存のルールが障害となるときのみ、ルールの撤廃や緩和を求める権利が生じると考えられてきた。たとえばヤマト運輸のこれまでの活動が、これに当たるであろう。
しかしライブドアは、前身のオンザエッジの名の通り、ルールの縁(へり:Edge)で活動を行ってきた。つまりルールにはずれていないのだから問題はないはずというのが、彼らの論理であったように思う。
このような考え方をとるのは子供の社会であり、その代表が米国である。子供故にその成長力で世界を席巻してきたし、新たな仕組みを次々に産み出している。しかしその反面矛盾も多く、新たな仕組みも変化とともに劣化が激しいのが特徴である。さらに、往々にして子供同様自分勝手な論理をごり押ししようとする。例えばイラク戦争がそうであるが、まさに自分勝手な論理で仲間を引き入れ、事実が判明した後はやはり身勝手な論理を組み立てたのが米国である。子供が、「あいつナイフを持ってみんなをやっつけるつもりだぞ、その前にやっちまおうぜ!」という論理で仲間をつのり、相手をやっつける。その後身体検査をすると、ナイフは見つからない。しかし「いや、もともとあいつは悪い奴なんだから、今はなくてもいずれはナイフを持ったよ。だからみんなのために、やっつけてよかったんだ。」と説得するのが、彼らのやり方である。その裏で、仲間に入らなかった奴は、陰湿にいじめるのが常である。
同様のことは、京都議定書問題や解禁間近に起きた米国産牛の輸入問題でも見ることができる。牛肉問題は、輸入再開の前提となったルールがあったにもかかわらず事件が起きると、「ルールはどうであれもともと肉そのものに問題はないんだから、背骨ごときでガタガタ言う方がおかしい」という論理にすり替わってしまっている。京都議定書についても、「米国経済の繁栄は世界のためであり、したがって米国は環境保護は二の次にしてよい」という考えを示している。
ライブドアのやり方は、まさに子供社会の米国流であり、このやり方が大人の社会では目新しく見えたのは事実である。フジテレビなど大人の会社は、子供のごり押しと我が儘に翻弄されてしまったし、世間はそれをおもしろがった。その子供が元気であり注目を集めると、そのやり方を賞賛する大人が出たり、外野としておもしろがる子供も多かった。
しかし結局このような事態になったところを見ると、ライブドアそのものは子供のやり方で、単に金儲けを目的にしていただけだったように思われる。子供の論理で新しいビジネスを考えるのではなく、単に注目を浴びてお金儲けをする、小ずるい大人子供のような会社だったのかもしれない。ITを利用して何かを変えようとするモチベーションよりも、お金儲けのモチベーションが強く、結局子供の論理も終焉を迎えることになったようである。もともと楽天やyahooと違い、ITに関する確たるビジネスをもたないライブドアは、結局IT企業ではなかったということなのだろう。
ただし今回の一件は、株式市場や企業経営という我々ビジネスに携わるあらゆる人間にそれらの仕組みを再確認させるよいキッカケだったように思う。投資家の自己責任や、その前提となっている財務諸表を保証する監査制度、それらの依頼を行う株主の存在、また一切を規正する様々な法律。こういったものを再確認し、今後気をつけるべき点を発見させてくれたよいケーススタディであったことは間違いない。となると我々は、この一件を客観的に観察し、様々なことを学ばなければならないし、これからもこういった問題を発生させないため、どのような仕組みが必要で、その中のどこをITでカバーすべきかを考えなければならないのである。もちろん日本版SOX法は、これらを志向している。
しかし今回の一連の騒ぎでちょっと驚いたのは、私の知り合いがもろにこの事件にかかわっていた点である。報道によると、昔私の所属していたコンサルティング会社に出入りしていた某公認会計士が、今回の粉飾決算の中心人物の一人のようである。宮内氏が設立したライブドア配下のコンサルティングファームの代表を、問題の弁護士である監査役と一緒に務めており、その立場で税理士である女性取締役の指示で、粉飾の帳簿を作成したようである。さらにもともとライブドアを上場させたコンサルタントのようであり、その時所属していた監査法人でそれ以降の帳簿を監査したというようである。しかし違法行為に手を貸すとは、さすがの私も唖然とした。問題の監査法人には、その公認会計士の弟子である私の友人が経営に参加しているようであるから、本当に心配な事態となっている。
今回の件で一番恐ろしいのは、これが「マンション偽装問題」の証人喚問直前に実施されたことである。その後の各種報道を見てわかるとおり、ライブドアによって政治家を中心とした偽装問題関連人脈の解明がかすんでしまったのは事実である。さらにライブドアの事件によって、小泉首相が敷いた改革路線の問題を提起することができるし、新興勢力に対する牽制となることは間違いない。本当にこれを仕組んだ人間の頭の良さに、感心するばかりである。