4月第2週目のWeekly reportです。
自動車産業の凋落が、日々メディアを賑わします。金融恐慌の波はやはり高額商品に影響し、自動車の販売量が激減しました。その結果裾野の部品メーカや素材メーカなどが大きな影響を受けていますし、もちろんガソリン産業や駐車場産業も決して予断を許さない状況になっています。しかし日本の自動車産業の衰退を見るたび、自動車産業そのものの曲がり角を感じてしまいます。
もともと日本では、クルマは資産と考えられていました。クルマを持つことが一種のステータスであり、その価格や高級感、希少性が一番重要と考えられてきました。したがって同じ車種であれば高いグレードが売れますし、一度購入すると日々ピカピカに磨き上げ、それをカバーを掛け保管するような文化がありました。またクルマを利用する目的はドライブであり、クルマを持ち、それを使ったレジャーをすることが基本にありました。
しかしクルマが一般家庭に普及していく過程で、首都圏を中心にインフラが飽和してしまいます。ドライブに出かけても高速の入り口までの道が渋滞しますし、高速道路やドライブインも混雑します。目的についても駐車場は満杯、食事や観光をしようと観光スポットに向かうとその細い道も渋滞しており、やたらと高い駐車場しか空いていません。さらに疲れた体で運転する帰路も、自宅そばのインター付近から高速や一般道が渋滞する。これが現状です。ましてや都会であれば、週末にかかわらず慢性的な渋滞と混雑であり、通行量や駐車場代も非常に高額になってしまいます。
このようにクルマを利用するという観点で現在の日本を眺めると、少なくとも都会は決してインフラが整っていないことに気づかされます。では近所への買い物目的と考えると、その利用価値の割にクルマの保有コストが非常にかかっていることが気になります。2年に一度の車検や税金、万が一のための損害保険、そのクルマを保管する駐車場代など、その保有そのものにも非常に大きなお金と手間がかかってしまうのです。さらに都会に住んでいれば、交通インフラが非常に密に発達していますので、特にクルマを持つ必要はなくなります。買い物で重たい者を購入するのであれば、ネットで買って送ってもらえば済みます。都会付近の観光スポットであれば、間違いなく電車かバスが走っていますし、万が一の場合はタクシーもあります。どうしてもクルマが必要であればその時にレンタカーを借りればいいですし、ホームセンターなどでは購入物の大きさによって無料でクルマを貸してくれるところさえあります。となると、自分でクルマを購入する必要性がほぼ無くなってしまうのです。
となると、それらを凌駕する付加価値と魅力がない限り、クルマは売れなくなることは誰もでも想像できることになります。
実際最近の若者はクルマを所有し無いどころか、免許すら取ろうとしません。クルマを購入し保有するぐらいのお金があるのなら、もっと他のことに使いたいというのが現在の若者の姿です。
こうやって考えてみると、金融恐慌が起きようが起きまいが、早晩クルマは売れなくなる運命であったことに気づかされます。つまりクルマそのものの価値が変わろうとしている現在、もう一度その目的と存在意義を考え直さなければならない時期に来ているのです。クルマのもともとの目的は、「移動」と「運搬」です。となると、その二つの目的を達成する代替手段とのバランスの中に、クルマの存在意義があるはずです。さらに代替手段が提供できない何かを価値として持てば、またクルマに魅力が生まれることも事実なのです。
わたしはその価値を、「サービス」と考えます。クルマが移動と運搬という基本目的以上にいま具備すべきは、サービスなのです。つまりクルマを利用する側に対してクルマ自身がさまざまなサービスを提供することが、クルマの生き残る秘訣と思うのです。たとえばドライブを考えると、目的地で楽しく過ごし、その道すがらが快適で思い出が共有できることが大切であることに気づきます。となると、渋滞のない一番短時間で移動できる道を選択して欲しいと思いますし、目的地に関する参考情報をさまざまな形で提供して欲しいと思うはずです。さらにそのコストが最小になるような条件も付加して欲しいですし、疲れたときはクルマ自らが自走してくれるというのが理想のはずです。昔からSF映画でこのようなクルマが見られましたが、いまのITを考えるとその実現はそれほど難しくないことに気づかされます。大切なのはそういった潜在的ニーズを自動車会社そのものが見つけ出すことですし、それを実現するためにさまざまな業界に働きかけることだと思うのです。そうすればよりよいクルマ社会をもう一度作り出すことが出来るでしょうし、それが産業や日本を復活させるキッカケになると考えます。
ヘンリー・フォードや本田宗一郎が思い描いた夢を一歩進める、自動車界の新しいリーダの出現を、世界は待っているのかも知れません。そしてそれは、ひょっとするとIT業界から生まれる可能性があるのではないかと、私は思っています。
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今週面白かった日経産業新聞の記事は、以下の通りです。
・楽天、TBSに株買い取り請求 攻防3年半 無念の退却
・脳波でロボット操作 ホンダ
・突然の「急旋回」に波紋 エンブラエル4,200人解雇 大統領が「仲裁」に
・モーターショー曲がり角 不況直撃、車離れも 東京開催、出展企業が半減
・2人の「CEO」 GM嵐の60日へ オバマ大統領 自動車Gメン指揮 ワゴナー氏を更迭
・産廃処理記録を電子管理 オリックス環境が参入 ソフトウェア貸与や入力代行
・IT研修事業の子会社商号変更 キャノンMJ
・IT市場マイナス成長 国内今年度見通し 企業の投資抑制響く サース移行見送りも
・AED、個人市場開拓カギ メーカー啓発に躍起 使い方・価格に課題
・中高級時計値下げ 「らしさ」残しコスト削減 セイコー加工工程を見直し
・日産 「空白の6年間」重く 費用・特許参入「狭き門」
・NTT「光」戦略見直し スカパー!との共同出資解消 新たにCS有料放送視聴 チャンネル多様に
・ロ政府、自動車産業支援 国産車保護鮮明に
・韓国勢、ハイブリッド投入へ 現代などLPG型 今夏にも
・クルマ販売現場の未来 淘汰の足音 重苦しく 市場縮小の流れ逆らえず
さて今週は、どんな一週間なのでしょうか。