iPadがいよいよ発売されました。東京の直売店には1000名を超える行列ができたようですし、販売は順調ということでしょう。一説には全世界で800万台の販売が予測されるようですし、電子書籍のみならず携帯端末として大きなシェアを得そうです。新聞ではiPadを利用したアプリケーションやサービス提供の話題が多く載っていますし、一般的な電子書籍やブラウザとしての利用方法だけでなく、さまざまな業界や企業の業務で利用されるようです。
しかしこの状況を考えたとき、これまでIT機器の市場を占めていたさまざまな専用端末の需要がなくなるということに気づきます。無線のバーコードリーダやハンディターミナルなどの機器は、さまざまな業務で利用されています。それらの機器はiPadやiPhoneなどよりは堅牢に作られていますが、その分値段は高めです。またアプリケーション開発も専門業者に依頼しなければなりませんし、修理等も限られた業者しかできません。となるとそれらを企業で導入すると、初期コストのみならず運用コストも相当にかかることになります。
ところがiPadなどの機器がそれらの代替になると、専用端末の需要が減少します。機器として価格は安く可用性は遙かに高いですから、コスト削減と利便性追求を第一に考える多くの企業では、それらの魅力は非常に大きなものです。さらに世界中の企業がさまざまなアプリケーションシステムを提供していますし、それらを自由に選択・組み合わせて利用できる環境は本当に便利といえます。依頼して実現するまでに数ヶ月かかり、多大なコストがかかるオーダメイドのアプリケーション開発が、今後敬遠されることは間違いないでしょう。となると結果的に、既存市場であった専用端末やそれに付随するさまざまなアプリケーション開発市場が、大きく市場を失っていくことになり、IT業界はまた大きな不況と変化の波をかぶることになります。
クラウドについても、同様のことがいえます。これまで業務のシステム化は、基本的にオーダメイドのシステム開発で対応されることが一般でした。さまざまな独自の業務手順等に対応するためには、システム開発を行うしか方法がないとかつては考えられていたのです。しかしその独自の業務が、企業の効率化などの足かせになることがわかっていきましたし、業界独自のやり方も国際化の中でどんどん一般的なやり方に更改されていくようになります。そしてERPの出現により、オーダメイド開発よりはパッケージを利用したカスタマイズの方がさまざまなメリットを享受できることがわかります。やがて多くの企業がパッケージに向かい、そしてそのパッケージすら必要のなくなる、クラウド環境が出現してきたのです。
しかしクラウド環境は、クラウド業者のみがその多くの利益を確保される仕組みです。クラウドをビジネスベースで行うとなると、たくさんの企業が契約を交わす必要がありますし、同時に大領のデータ処理を行えるデータセンターとストレージが必要になります。逆に契約企業が増えてビジネスが安定すれば、後はたいした手間も必要なくなります。同じ仕組みをたくさんの企業が利用するのですから、法律や制度改定の時だけ抜本的な手直しをすればよく、あとはここの企業のオーダーについて小さな改訂を加えればいいだけになります。すなわち、力のあるクラウド業者が今後市場を寡占し、多くのIT企業の市場が失われていくことになると思われるのです。
実際米国のクラウド業者は、多くのIT企業と提携を始めています。しかし内情を聞くと、そのマージンはきわめて低く、提携した日本のIT企業にはほとんどメリットがないそうです。逆にクラウド業者はIT企業の既存客や関連会社にそれらのサービスを導入させ、独占的に利益を上げようとしているようです。日本のIT企業は、クラウドを扱わないと顧客に逃げられてしまいますが、扱ったとしても結果的にはほとんど利益につながらない、さらに自社でクラウドを始めるには顧客が少なすぎる、といった問題が生じ、結果として売り上げを失っていくことになりかねないと思っています。
このように新しい技術や製品や、既存の市場の状況を劇的に変えます。この大きなうねりに対してどのような対策を積極的に講じるか、さらにどのような生き残り策を講じいつから動き始めるか、日本のIT企業がいま大きな試練を迎えています。真剣に考えて動き出している企業が少ない現在、多くのIT企業の動向が真剣に気になります。
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先週面白かった日経産業新聞の記事は、以下の通りです。
・スマートフォンかざすだけ 商品の詳細情報表示 博報堂DYMP
・鳩山政権のIT戦略 縦割り排し実現できるか
・タブレット端末競争号砲 フュージョン社「joojoo」発売 iPadの牙城に挑む
・米IT2社 中堅相次ぎ買収
・ES細胞の心筋細胞変化 カメラ画像で拍動判別 阪大が評価技術 新薬候補の試験向け
・EV充電器 従来の半額 日産、自治体需要も開拓
・巨人、米VB精神に学ぶ ソニー→グーグル TV立て直し協調いとわず
・アンケート調査 高機能携帯端末使い簡単に VRI 複雑な質問にも対応
・コンクリ部材 ICタグで品質管理 鹿島、完成後でも照会可能
・"帝国”拡大 摩擦も呼ぶ iPad28日上陸 世界で800万台予測も
・NECカシオ 端末6割増 世界出荷12年度に1200万台 シャープなど追撃
・ノキアとヤフー提携発表 携帯ネット事業一体化 グーグルやアップルに対抗 新興国でも激突
・液晶TV 電子看板に返信 NTT東、自治体向け発売 専用端末地域WiMAX対応も
・オムロンの生産管理システム 複雑な運用を交通整理 組み合わせ40分の一
・NYの映画チケット 一時20ドルの大台に 「3D商機」一部劇場値上げ
・「黒いダイヤ」高騰 北海道産ナマコ 市場価格5000円超 中国で消費拡大
・日立情報システム 新人全員が海外研修 総合職190人 グローバル化の騎手に
・ゲーム・アニメ型「iアド」 広告自体がコンテンツ アップルが変える グーグルの牙城に挑む
・iPad広がる舞台 手術・接客、直感操作で進化 低コスト、娯楽以外開拓
・魚釣り楽しむリハビリ ハドソン札幌医大とゲーム開発
・印マヒンドラ 新興EVメーカ買収 技術・24カ国の販路手中に
・エイサーもタブレット端末 まず7〜9月期に電子書籍専用 年内に多機能型
・ゲームソフト主戦場に? アップルが変える 在庫抱えず海外に配信
・iPadで読める電子書籍続々 36誌の一部、無料で 価格、紙の6〜7割
・クラウド事業強化 日立が横断組織 売上高目標、15年で5000億円
・日産、独自HVで巻き返し 環境車、EVに加え選択肢
今週は、どんな一週間なのでしょうか。