Onomura System Consulting Office       

osco top


.
Weekly report
next

back

 

 

 

 

osco top

 January Fourth week

 日本が誇るべき、鉄道システムの問題がまた起きてしまいました。

 事の発端はJR東のCOSMOS。 もともとはJR東海で利用されていたCOMTRACの発展版のようであり、日本の鉄道の大動脈である新幹線の運行管理を行ってきたシステムになります。新幹線は日本の鉄道の中でも相当に高水準の運行を行っており、遅れや運休が日本の中でも比較的少ないシステムでもあります。今後日本が真剣に輸出を検討すべき商材の一つであり、鉄道車両よりも多くのノウハウが詰まっているとも言われています。そのCOSMOSに起因する問題によって、今回新幹線が停止してしまう事故があり、これが我々大規模システムの構築に関わっているIT技術者に、さまざまな問題提起を行ったように思います。

 問題の原因はこれから具体化されるようですが、概要は以下のように言われています。

 ・積雪でダイヤが狂い、ダイヤの再編成処理が起動する
 ・再編成処理中に運行制御の画面が点滅し、操作者が故障と判断
 ・運行システムを停止し、故障原因の追及を行う(当然新幹線も停止)
 ・故障原因が判明せず、バックアップも起動に時間がかかる
 ・結果的にシステムは自動回復し、新幹線も動き出す

 その後の調査で、現在までに以下のようなことが解っているようです。

 ・COMTRACからCOSMOSに移行する際、処理限界件数をやや下げている
 ・導入時には1日200便強だったものが、現在は1日300便以上の新幹線が軌道を走っている
 ・システムの限界値である600件/分の処理が必要となり、仕様されていた画面の点滅が発生する
 ・操作者は画面の点滅を故障と判断したが、それは仕様であり、再編成処理の負荷が高まった際には
  画面が点滅するよう設計されていた
 ・その事象は故障ではないと知っているH社の技術者は現場にいたが、判断者と技術者の間のコミュニケー
  ションがとれておらず、結局故障でもないシステムを止めてしまった

 すなわち事実として今回システム的な故障はなく、停止の原因は人間の判断の問題だったようです。

 COSMOSのダイヤ再編成時の処理限界は、600件/分だったようです。IT技術者であれば理解できると思いますが、1秒あたり10件という処理能力が高いか低いかは別にしても、それが処理の限界であれば、技術者としては他の処理よりも再編成処理にコンピュータ資源の割り当てを増やそうと考えるはずです。画面の描画はCPUの処理能力をかなり消費しますので、どうもこのシステムを設計したIT技術者は、画面描画計算のレスポンスを下げ、その分再編成処理にコンピュータ資源を割り当てたのでしょう。その結果として、再編成処理が限界近くまで稼働したときに、画面の点滅、すなわち描画をサボる瞬間がサイクリックに訪れ、それが故障と判断されてしまったようです。

 この問題を見たとき、このシステムを設計したH社をそのまま責める気にはなりません。限界のある環境で、IT技術者として最善の努力をした結果であり、まさか操作者がこのような判断をするとは考えていなかったのでしょう。もちろんJR側の操作者の判断も、事情を知らなかったのであれば仕方がないといえます。しかしながらこの点が、私にとって非常に悩ましい問題のように感じるのです。

 すなわち、設計のミスでもなければ、運用の問題ともいえない。むしろ最も効率よく処理を行い乱れたダイヤを復旧しようとしたのですから、非常に付加価値の高いシステムともいえるのです。ということは、「後向き品質/前向き品質」の両面において問題はなかったといえますが、それでも実際には問題が生じてしまいました。画面の点滅という結果に設計者の配慮が足りなかったのは事実ですが、それでも処理的には問題がないのですから、設計者は責められない。すなわちこれは、「感性品質」の問題のように私には思われるのです。故障を連想してしまうような設計、これは明らかに感性品質の世界であり、それを防ぐ明確な尺度は存在しません。トイレのドアに、赤字で「Gentlemen」、青字で「Lady」と記すことで誤りを誘発するのと同じように、人間の感性で故障と判断してしまうような設計がなされていたということなのです。となれば、やはり我々はこの問題に対し、本気で追及を行い、一刻も早く感性品質についての論議を進めなければならなくなったといえるのです。

 さらに頭が痛くなったのは、これを理由に「クラウド化」が進む可能性が高くなったということです。これまでのシステムはこうやって資源の限界を意識した設計が必要でしたが、クラウドのPaaSやHaaS、IaaSは、こういった問題を解決してしまう可能性があります。もちろんプログラムなどの仮想化設計は不可欠ですが、それでもそれが実現できれば、こういった問題はなくなります。私はクラウドは、パブリッククラウドから普及すると考えていました。しかしこのような事象が起きると、プライベートクラウドも大きく普及が始まる予感さえしてきます。

 このように今回の事件が、我々IT産業に投げかけたテーマは非常に重いものですし、火急のテーマともいえます。多くの技術者が他山の石と思わず、これらの問題をどう考えるか、早急に論議を始めるべきと私は考えます。

 閑話休題。

 この週末に、今話題の「ソーシャル・ネットワーク」を見に行ってきました。この映画はご存じの通りソーシャル・ネットワーキング・サービスの雄である「Facebook」のCEO、マーク・ザッカ ーバーグを取り巻く様々な事実を元に作られた映画ですが、前評判通り非常に面白い内容でした。

 もちろんすべてが事実ではなく創作や脚色もあるのでしょうが、ネットワークビジネスを取り巻くスピード感とさまざまな人間の思惑、そして企業と個人の成長が非常に上手に描けており、良質なドラマに仕上がっていました。背景となるソーシャルネットワークや新しいITがどのように人々に受け入れられていくのか、こういった新しいテクノロジーをビジネスにするときに、通常ビジネスと異なるどのようなやり方が必要なのかを学ぶことも できますので、ITビジネスに関わる多くの方にご覧いただきたい内容でした。私も主人公であるマーク・ザッカーバーグという人物に非常に興味を持ちましたし、断片しか知らなかったFacebookの創生期を知ることが でき、さらに今後のITビジネスを考える上でさまざまな収穫がありました。

 しかしながら、私にとって苦く辛い過去を思い出すシーンも多く、ベンチャーというものはどの時代でも、どこの世界でも同じようなシーンが繰り返されることを痛感しました。エドゥアルド・サベ リンとの友情と確執、ショーン・パーカーのような時代の寵児の栄枯盛衰、そして若者の夢に群がる多くの金と大人のエゴ、すべて私自身が直接目にしてきた、あるいは直接体験してきたことであることが不思議であり、心のかさぶたが少しはがされた気持ちにもなりました。それでも駆け抜けてきた時代の爽やかさは今でも感じられますし、この歳になるとすべてのことが少しずつ許せて、どこか懐かしくなるのも不思議な感覚ではあります。

 ということで、お暇がありましたら、「ソーシャル・ネットワーク」をご覧いただくことをお勧めします。ただし相当にスピードの速い映画ですので、クリアな頭でご覧いただくことをお勧めしますが...

========================================

 先週面白かった日経産業新聞の記事は、以下の通りです。

・携帯回線で車に警告 日本エリクソン 伝達0.5秒以内
・「プロマネ」の腕、SIの収益直結 管理徹底より全体像描け
・アマゾン、物流新拠点 愛知・宮城で年内に稼働
・教育の国際化 国際教養大、留学を義務に
・即起動、ブラウザーだけ搭載 クロームOSの衝撃 アンドロイドと機能接近
・通信インフラ 海外へ反攻 NEC、中国で携帯基地局開発 「LTE」に商機
・複数機器に一斉配信 自治体の災害情報迅速に NTT−AT 操作1回、防災無線と連動
・ソニー、生産・調達コスト減 キャッシュフロー改善 攻めの戦略も必要
・アップル、空白の先に果実? 株価下落の懸念 戦略・後継「次」が焦点
・ゲームなどのITベンチャー ニフティ、海外進出支援 クラウドでサーバ環境
・培養細胞管理にICタグ 異業種参入戦略と商機 富士ソフト 軟骨再生
・技術者流出どう防ぐ 半導体・液晶の失敗に学べ
・マラソン大会で"快走” ICタグ開発 マイクロ・トーク・システムズ 記録測定の手間省く
・新幹線運行トラブル 「システムの容量超過」JR東
・IBM 情報解析事業柱に 関連技術に重点投資 コンサル人員倍増 サービスシフト加速
・事務機の運用管理受託 顧客基盤争奪し烈に キャノンやリコー 先行ゼロックス追撃
・中林「歩行補助」拡充 杖など品目数4割増 高齢者生き生ジェロントロジー
・電子版「紙」と同時刊行 凸版「動く雑誌」受託強化
・高機能携帯 漏洩を防ぐ 法人需要開拓へ安全性強化 KDDIアプリ審査 ドコモも追随
・太陽生命、保険審査を自動化 診断書の病名を標準化 金額表示、支払いミス防止
・復刊文化、出版に定着 「赤尾の豆単」から対象の絵本まで 少部数印刷を活用
・鶏の健康、センサーで管理 産総研が開発 体温・羽ばたき計測
・総務省、医療にIT 国主導の科学技術へ
・「787」引き渡し、7度目の遅延 ボーイング、調達見直しも
・小波、新分野へ連携強化 ハドソンを完全子会社化 高機能携帯・SNSに的 

 今週は、どんな一週間なのでしょうか。