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 March Second week

 入学試験の不正行為が、大きな問題となっています。

 この事件は、京大の入試問題がYahoo掲示板に投稿され解答例をもとめるというものであり、その投稿時間などから試験時間中の出来事と判明し社会問題化したものです。最初に騒がれたのは「2ちゃんねる」といわれていますが、ともあれ通報から事件が発覚し、その後の調査で複数の大学の入試問題が同様に掲示板に投稿されていることがわかり、にわかに世間が騒ぎ始めました。

 当初はどうやって限られた時間内に掲示板に情報を載せたかが、大きな焦点となりました。携帯電話のカメラで撮影した試験情報を外部に送信し、協力者が投稿したという説、携帯電話はシャッター音が大きいため、消音対策を施したスマートフォンによる同様の方法、あるいはカメラの文字認識機能を利用したテキスト化による投稿、あげくはトランスミッター付きの眼鏡のフレーム偽装されたカメラを利用し、付近の協力者が投稿した説など、あらゆる方法が推測されました。しかしふたを開けてみれば、携帯電話の早押しで投稿を行ったのであり、ある 意味ローテクな方法がとられたことが解ってきたようです。(もちろん事実かどうかは、今後の調査で明らかになるでしょう。)

 カンニングは許されるべきものではありませんし、まじめに努力を重ねた受験者が強い憤りを感じるのは当然のことと思います。明確な刑法犯ではなくても、社会秩序や道徳的観点からも許されるべきものではありません。しかしそれでもあえて誤解を覚悟で言えば、今回の若者にある種の才能を感じたのは事実ですし、その才能を実際に実行に移した行動力も、ある意味評価できるのが今回の事件の特徴と私には思われるのです。もちろんデジタルネイティブらしい想像力のなさにも、改めて驚かされもしましたが。

 社会のルールを守ることは、当然のこととして大切です。しかしながらそれを変える出来事がなければ、時代の変化が起きないことも事実です。世の中は高度 にIT化されているのですから、こういった事件が起きるのは時間の問題だったはずです。実際海外では携帯を使ったカンニング事件が発生しているのですから、日本の試験制度は旧来のままでよいということにはならなかったはずなのです。ところが実際は、「こういったことは起きない」と考えられていましたし、「起こす人間がいない以上、対策の必要はない」とされていたのです。試験に必要な物以外は鞄にしまう、カンニングに備えて巡回をするという過去の常識として必要なことは行われていたのでしょうが、それでもこういったITを利用した事件が起きる前提ではなく、慣例として行われていたのに過ぎなかったといえるのです。

 その常識に気づき、今回は間違った方法といえますが携帯を使ったカンニングを企て実行した若者の着想と実行力は、私にはある種の才能に思えてしまうのです。「それにしては、あまりに陳腐な誰でも思いつく方法では」という反論は、理解できます。しかし多くのテクノロジの第一歩は、そんなものです。現在世界中でブームとなったTwitterといえども、実はチャットとそれほど大きな違いはありません。いやいやTwitterはより多くの人間が閲覧できるようにした点がすごい、というかもしれませんが、それはテクノロジの進化によってもたらされたといえます。となれば、Twitterといえども、スタートはある意味誰でも思いつくものであったといえるのです。しかしそれをサービスとして実現し、社会に提供する行動力は評価されるべきものです。そのためには多くのリスクを背負わなければなりませんし、当然失敗もあり得たはずです。さまざまな協力や努力も必要であったはずなのです。今回の若者も、同様の葛藤があったはずですし、当然ためらいもあったと思われます。それでも彼にとってより確実な方法は携帯を使ったカンニングであり、それを実行するための予行演習を模試で行い、その上で実行に移しているのです。

 また、試験中に回答者に「御礼」を述べているのですから、ある意味社会常識的には素晴らしく礼儀正しい若者といえるのかもしれません。その発露方法は確実に誤っていますし、カンニング 自体は許されるべきものではないのかもしれませんが、それでもその若者の行動を単純に非難できないなにかがこの事件にはあるように思えるのです。それどころか先述したとおりの高度なITを駆使した方法をとっていれば、それは確実に称賛に値したようにさえ思えるのです。

 このような意味で、今回の事件が既存の試験制度に投げかけた問題は非常に大きなものといえます。ここでも私が主張しているとおり、試験というビジネスそのものが「プレIT」から「ポストIT」への変革を要求され始めたということなのかもしれません。カンニングは昔からつきもの(私の時代は、机に勉強させるのが一般的でしたっけ..)でしたが、その方法が劇的に変化したということであり、今後はそれを前提に試験を実施しなければならなくなったということなのです。まさにインターネットの無料ニュース配信が新聞社の存亡を怪しくしたように、今回の件が試験制度そのものを変革させるきっかけになったようです。もちろん当面は、携帯電話の持ち込み禁止や会場入り口での預かり、試験会場の巡回の徹底などといった消極的対応が中心になるのでしょう。しかし抜本的には、試験のあり方を問い直すよいきっかけですので、入試試験そのもののあり方を論じ始めるべきなのでしょう。

 残念なことに、学力と投資は比例関係にあります。現状高学歴の大学ほど、親が富裕層であるケースが増えています。予備校などで十分な知識やテクニックが補強されれば試験に合格しやすいのは事実ですし、それが本人の能力と関係ないものであっても、結果的には学歴が保証されることになります。予備校のノウハウそのものがそうですが、試験に出やすい問題や傾向を分析し、それを解答できるような知識やノウハウが提供されることで試験には合格しやすくなるのです。つまり結果的に、他人の支援のもとに合格が保証されているのであり、その意味でリアルタイムで答えだけを要求した今回の件も、本質的にはさほど違いがないように思えてしまうのです。

 となれば、こういった他人の知識やノウハウに頼ることのない、独創的で深い思考力や発想力を評価するような試験を考え始めなければならないと私は思います。さらにネットワークの活用やコラボレーションといった、今までの試験評価制度では評価されなかった能力の評価も大切になるのでしょう。事実ビジネスの世界で大切なのは、ネットや書籍にある知識ではなく、まさに現実に発生している様々な事象や条件を前提にした革新的な行動です。その行動力や発想を育むのが高度な学校教育の目的の一つなのですから、知識や他人のノウハウに偏重した試験制度は改めなければならないと私は考えてしまいます。本来的には、大学の推薦試験や一芸試験がこれを評価する仕組みであるべきとは思います。サークル活動やボランティア経験だけでなく、より高度なネットワークの利用法や新しいアイディアを持ち実行力がある、こういった若者を見いだし、正しく教育を行い、明るい社会へ送り出すことは日本のために必要と私は考えます。

 今回の件で私自身が一番危惧するのは、この若者の将来です。もともと京大を受験しようとしたぐらいの能力の高い学生なのですから、潜在的ポテンシャルは低くないと思われます。その若者が、デジタルネイティブらしい想像力のなさで起こしたこんな問題によって犯罪者のレッテルを貼られ、教育を受けることも学歴を得ることもできなくなるのは社会的損失と思います。同時に犯罪社会にとってはエリートともいえる若者ですから、そちらの世界へスカウトされることは、社会的問題を大きくすることにもなりかねません。それであればアメリカのように優秀なハッカーは懲罰として公的機関で作業をさせる、といった逆説的方法をとることで、その若者を正しい方向へ誘うのが大人の社会のあり方と私は考えます。正しい環境の中で自らの犯した罪と問題を考えさせ、それを再発しないためにどのような行動を自らに科すか考えさせることが重要と思えるのです。

 したがって私の願いは、この若者の優秀さと稚拙さを理解できる大学が、一芸入試をパスしたと判断して入学させてあげることです。若者にとっての一年は非常に大きいものですから、今回の件で不安の中二浪させるよりも、どこかの名門大学が彼を受け入れ、その能力を否定することなく正しい方向へ誘導してあげてほしいと切に願っています。それが彼のためであり、日本のためになるからです。逆にメディアの偏った報道によって、若者の稚拙な罪が過大な社会的制裁につながらないことを心から願っています。数年前の女性歌手の高齢妊婦に対する軽率な発言や、男性アイドルの飲酒での大失態など、若者の稚拙さから起きた問題を似非正義の観点でことさら裁こうとする風潮がありますが、これは改めるべき風潮と私は考えます。


 このように今回の件を考えているところへ、この数年仲良くしているIさんよりメールを頂戴しました。この件について彼と話はしておりませんでしたが、奇しくも私と同じ考えをしてたのには驚きました。時同じくして石原都知事も同じような発言をしており、私と同じような考え方をする方は少なくはないようです。


 日本のおとうさんたちも、まだ捨てたものではない。そう感じさせる事件でした。

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 先週面白かった日経産業新聞の記事は、以下の通りです。

・アップル端末で利用OK 日本の携帯向けゲーム ブロードテイルがソフト ファイル自動変換
・地域医療にIT活用 デジタル時評 診療所のPCで病院予約
・楽天とTFT、食糧支援で連携
・教育情報 公開前倒し 私立70大学など、ネットで 体裁の統一が課題に
・印刷機 デジタルの乱 コニカミノルタ、米コダックと提携 「2兆円」争奪へ合従連衡
・小型蓄電池、制御IC内蔵 電圧変換や充放電 電子機器、開発期間短く
・EV運用のシステム提供 NTTグループ7社
・高機能携帯、総力戦の春 iPhone追撃 苦肉の集客戦略
・質問サイト、防止難しく 入試問題の投稿 書き込み規制 利用者離反の恐れ
・エネゲート、組み立て中の動き撮影 ミス分析徹底、品質守る
・iPad使い、回転ずし注文 若鮨、SCで開業
・安全なネットへ 米が本腰 「サイバー兵器」に備え 軍に危機感 官民一体で技術開発
・業務プロセス 可視化で改善提案 野村総研、50社導入目指す
・ゼロスポーツ、自己破産申請へ 負債11億
・アマゾン、クラウドで攻勢 日本にデータセンター 国内勢にも値下げ圧力
・クラウド本格展開 パナソニック系 まず電子看板
・病院・薬局のデータ統合 情報VBのカナミックネットワーク 介護事業者向けも
・日本車、欧州でかすむ 小型車人気の波に乗れず 新興国シフトで手薄に
・透明太陽電池 寿命20年超 「発電する窓ガラス」に道 独自化合物で耐久性
・コンサル部門と融合カギ 野村総研「第三の創業」 システム受注を拡大
・大日印、小売りの運用代行 次世代ICカード 「フェリカ」含め3方式対応
・薬局在庫 相互に融通 jびコンシェルファーマ
・iPad2発表会にジョブス氏 景気づけ?カリスマ登壇 アップル、前方に雲なお

 今週は、どんな一週間なのでしょうか。