4月に入りました。社会に出られた新入社員の皆様、本当におめでとうございます。いつもなら晴れやかなこのシーズンなのですが、今年はいつもとは違った年になってしまいました。若い力を信じ、力強い復興を心から願っていますが、まだまだ気の休まらない日々が続きそうです。
地球が安定していたこの百年ほどの時期は、歴史上本当に珍しいのかもしれません。昔はそれこそたくさんの天変地異が生じたのでしょうが、人間の文明が急速に発達したこの100年間は、それらを押さえ込めるぐらい技術が進んだのかもしれません。天気はかなりの確率で予測可能になりましたし、台風などの動きも衛星を使ってリアルタイムに観測可能です。あらゆる護岸が工事され洪水は減りましたし、地震や火山活動の予測さえできるようになりました。建物は耐震化され、サッシ窓により冬の寒さを十二分に防げる密閉構造となりました。冷蔵庫やクーラーはもはや当たり前のものであり、ないことが想像すらできないようになっています。
しかしそういった文明の発達が自然をねじ曲げ、新たな変化を引き起こしてしまったことは本当に皮肉です。安定した時代を享受するのではなく、新たな変化を人間自らが起こしてしまう。まさに人類の浅知恵は、大自然の前に無力であることを痛感させられてしまいます。多くの化石エネルギーにより文明は発達しましたが、地球温暖化という現象を引き起こします。森を切り開き海を埋めることが、土壌の弱さや液状化の可能性を高めてしまいます。耐震構造とクーラーの増加は、ヒートアイランド現象の一端となっていますし、空気の汚染と荒れた山により花粉の大量発生などの現象すら生んでいるのです。
21世紀になって、やっと一部の文明国で自然との共生を考えるようになりました。文明の利益を十二分に享受し、さらにそれを享受し続けている中での共生の検討ですから、その利益を享受していない多くの国がその
気持ちになるまでに、まだまだ長き年月がかかることは間違いないでしょう。今歯止めをかけなければ、取り返しの付かないことになるというのは誰にでも理解できるのですが、理解と実感は違います。戦争経験も被災経験もない我々は、災害の怖さと復旧の大変さを阪神大震災で知っていながら、この震災の影響を停電や物不足で実感するようなものなのです。となると、やはり自然の変化を止めることは当面難しいのでしょう。
自然には劇的な力があることを、我々は災害を通して学びます。しかしその力の大きさや怖さを、多くの人はいつしか忘れてしまいます。だからこそ我々技術者は自然の恐ろしさを忘れることなく、その脅威に対してそれぞれの技術分野で実効性のある策を考え続けなければなりません。当然IT技術者は、情報技術を駆使した自然災害の対策を考えなければならないのです。
今回甚大な被害の原因となったのは、津波です。津波の発生は予測されたことであったにもかかわらず、避難などの対応が遅れたのがここまでの被害を生んでしまいました。しかしその伏線には、津波警報の精度の問題があったことを忘れてはなりません。一定規模の地震が発生した場合、津波警報が出されます。しかしその予測潮位も誤差が大きく、まったく外れることもあります。さらに今回の津波では、当初3メートルほどとの警告がなされたところもあり、それを信じてゆっくり避難する、あるいはまったく避難行動を取らなかった方もいたようです。まさに
予測精度の低い津波警報が「オオカミ少年」のようになってしまい、被害を大きくしてしまいました。とすれば、このような津波警報の予測精度を高めていくのは、まさに我々が命をかけて行うべき仕事といえます。
今回残念なのは、福島原発の対応もそうです。日本は世界に名だたるロボット大国であったにもかかわらず、今回の原発事故についてそれらが使われた形跡は全くありません。それどころか、ロボットの提供を申し出た米国が福島原発までロボットを搬入したにもかかわらず、結果として利用されていないようです。利用できない環境だから仕方がない、ではなく、どのように利用したらよいかが解らないというのが現実のようですし、もちろん水の深い場所では利用できないといった理由もあります。だからこそ我々には、こういった機器の積極的な開発が求められているのです。放射能があり危険だからこそ、数千万円の機器でも無造作に投入すべきなのです。なぜならそれによって作業員の安全が守られるだけでなく、無造作ゆえの迅速さで現状をより正確に把握し、より適切な対策が講じられる可能性が生じるからなのです。ビジネスの世界ではQuick
&
Dirtyといわれますが、より精度の高い仕事を時間をかけて行うより、とりあえずやっつける仕事も大切にしなければなりません。まさにこのような仕事に機械を投入すべきですし、それが結果として質の高い対応につながることは間違いありません。こういった機器や設備がたくさん準備されていれば、ひょっとすると福島原発はここまで深刻な状況にならなかったかもしれません。だからこそ現在の東京電力の対応を単純に批判するのではなく、今後起きる可能性があるさまざまな事象に、我々は立ち向かっていかなければならないのです。
我々技術者が明日の夢を見ることは、より平和で安全な社会を生み出すことになります。明日の夢を見るのであれば、常識に染まった年寄りよりも若者のほうが、より斬新で大きな夢を見られるはずです。
そんな大きな夢を見られる若者の出現を、心から願っています。
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先週面白かった日経産業新聞の記事は、以下の通りです。
・携帯各社、基地局9割復旧 エリア正常化には長期間 固定、なお8万件不通
・ビクター「再生」かすむ 名門の縮小スパイラル 主力技術者ら700人超退職
・リコー、代替生産も検討 事務機大手、復旧急ぐ 富士ゼロックス 部品会社支援
・イーベイ、米社を買収 電子商取引支援 総額1950億円 アマゾンに対抗
・懐中電灯の国内生産再開 旭電機化成 5万個、10年前の金型活用
・「工場被害、特損扱い」 見舞金や宿泊代も 公認会計士協が指針
・アマゾン、米で一番乗り クラウドを使い音楽配信 訴訟リスクも
・東電に最大4万キロワット供給 東燃ゼネ 川崎の自家発電フル稼働
・家電の電力 PCで管理 日本MS・富士ソフト 簡単に「見える化」節電促す
・放射線・停電 見やすく表示 ヤフーやgoo、情報再加工し提供 地図やグラフ活用
・住生活、流通で稼ぐ 「他社製品扱う量販店」 人材を集中投入
今週は、どんな一週間なのでしょうか。