震災から約一ヶ月経ちますが、まだまだ被災地の復興に向けた取り組みは十分に実施できていないようです。津波により家屋を失った方への仮設住宅の建設も遅々として進みませんし、物資の供給ですら十分とはいえない状況のようです。7日におきた余震も新たな被害を生んでいますし、復興に向けた力強い取り組みが始まるまでには相当な時間がかかりそうです。
とはいえ我々エンジニアは、神様にもらったこの猶予を積極的に活用し、東南海地震や東海地震に向けた具体的な取り組みやアイディアを創造し始めなければなりません。それらは確実に起きるものですし、今回新たに学んだ津波の脅威も、かなりの確率で発生する可能性が高いためです。自然災害の発生をとどめることは、現代の技術を持ってしても不可能です。しかし我々は過去から学んだ貴重な経験をもとに、新たな対策を講じることはできるのです。もちろんそれは本当に素晴らし
くめざましい機能を発揮するかは誰にもわかりませんし、ほんの少しの人々や資源を守れるだけかもしれません。それでもただその到来を漫然と待ち
想定外の害を受けるより、はるかにましであることは間違いありません。
私自身、今回の災害から学んだのは、「人は記憶を求める」ということでした。津波により大切な家族を失った被災者の方が、跡形もなく流された自宅あとで思い出の品を探す姿が、脳裏から離れることはありません。「たった一枚でいいから、家族の写真があれば
...」遺体すら見つけられない中で、ご自分と家族が幸せに生きた証しを手に入れたい。この被災者の方の悲痛な思いが、私には忘れられないのです。自分をよく知っている家族や友だちを全て失い、自分にまつわるあらゆる品物が失われた時、人はどのようにして自分を
自分として認識できるのか、私にはわかりません。自分が自分であることを誰も証明出来ないとき、本当に自分は自分なのか、
また自分は本当に存在していた人間なのか、それをどうやって確認したらよいのか私には想像もつかないのです。
だからこそ、その記憶を留め自らを認識できる確実な記録が必要と、私は考えます。
自分自身が自分を認識するためには、記憶を裏付ける記録が必要となります。たった一枚の写真であっても、そこに生きた自分と家族、そして友人の記録が残るのです。誰も知らない自分であっても、かつて自分を知っている多くの人がいたことが自ら確認できるのです。そしてもし
それが本当に多くの人々にとって必要な物なのであれば、我々は今すぐにでもそういった仕組みを生み出さなければならないと私は考えます。
一眼レフのデジカメが売れたとき、人間の記憶の性質を私は学びました。
人の記憶は動画ではなく、静止画から展開される前後数秒の映像であることを。だからこそビデオの精密な映像は人の想像力を刺激しませんし、強く感情を揺さぶることも少ないのです。逆に写真は
限られた情報をもつ静的な記録であるがこそ人間の記憶を呼び起こしますし、想像力も刺激します。写真をきっかけとして、様々なことを思い出させるのです。さらに
それぞれが思い出した記憶をお互いに話すことで、忘れかけていた映像以外の感情、音や匂い、肌の感覚を思い出すことができるのです。となれば、写真が一枚あれば、自分が自分であること、自分がどのような世界で生きてきたかを思い出し、証明することができるのです。集合写真の片隅に写った自分でも、自分の確かな存在を証明でき
ますし、かけがえのない家族や友達との関係を記録を通して確認することができるのです。
今回の震災でもまさにこのことを思い出させてくれましたし、その結果として今後の我々の記憶の蓄積場所がはっきりみえてきました。それはなにかといえば、ネットワークストレージなのです。家族の写真や映像をネットワークにおけば、それが
完全に消失する可能性は極めて低くなります。さらにそういった仕組みは有事の際に活用できるだけではなく、普段の生活においても非常に便利な道具となります。
子供の運動会の写真を、携帯で友達に見せる。これから海外に出かける友人に、かつて訪れたおいしい店をスマートフォンの画面を使って教えることができる
。子供のちょっとした出来事を、おじいちゃんやおばあちゃんの家でテレビをつかって見せることができる。ネットワークストレージに画像データを確保しておけば、こんな使い方ができるのです。さらに将来画像情報の検索システムが発達した際には、すべてのデータベースの中から、自分や家族の写真を探すことができるようになるでしょう。となればこうした災害や火災で写真を失ってしまっても、またそれらを取り戻すことが可能になるのです。
かつて日本には、記憶をなくした街が二つあります。それは長崎と広島です。その二つの街は、原爆という兵器によって建物や家屋が失われただけでなく、
そこに住んでいたすべての人々とともに記憶を奪い去られてしまいました。さらにその記憶を再現するさまざまな資料や身の回りのもの全てが、その記憶と共に失われてしまったのです。今回の東北の津波は、これに匹敵するものなのでしょう。
すべての記憶が一瞬にして失われる。そしてなんとしてでも思い出のかけらを探そうとする人が、今もがれきが積もる廃墟に絶えることがない。このようなことが二度と起きないことを
、私は心から願っています。だからこそ我々はITを活用した仕組みを作り、来るべき日に備えて一人でも多くの人々の記憶をネットワークに保存する必要があるのかもしれません。
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先週面白かった日経産業新聞の記事は、以下の通りです。
・JT、7銘柄出荷再開 11日から 2工場はメド立たず
・トップら復興誓う 異例の入社式相次ぐ 事業継続が使命/不屈の精神を/再生の原動力に
・非常時の新年度 幕開け ドコモ、SIMロック解除 海外端末に脚光 回線転入増期待
・中小液晶の生産再開 TDMと日立DP、月末までに 震災前9割に回復
・IT各社が復興支援 日本HP:ネット会議無償で供与 CTC:機器修理を減額
・原発メジャー、収拾急ぐ 米GE・仏アレバ首脳 緊急来日 「福島」長期化の逆風懸念
・車や生活品、影響鮮明 電力不足、対策焦点に 消費者心理を直撃
・半導体、夏へ備え 電力不足対策急ピッチ ルネサス:米社に生産委託 東芝:西日本にシフト
・3年連続で市場縮小 家庭用ゲーム ハード・ソフト、13%減
・現代自 HVレース猛追 中型車、米韓で発売へ 大災害「影響ほぼなし」
・携帯純増数 ソフトバンクが首位 3月、12ヶ月連続で維持
・防災時計、中国で増産 来月に7万個 携帯充電機能で人気
・MS 巨人連合に走る トヨタにクラウド技術 省エネ分野や車載情報システム 世界標準へ布石
今週は、どんな一週間なのでしょうか。