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 May Fourth week

 先日某社において、「考える力の育成」講座を実施しました。

 この数年私の疑問となっていたのは、若者の質的な変化です。いつの世にも年寄りは若者の変化を嘆きますが、この数年の変化は私にとっては驚きでしたし、それをずっと研究しているうちに、デジタルネイティブという考えに出会いました。デジタルネイティブをこれまでにもご説明してきましたが、最近の若者は生まれたときから高度なIT化が進んでおり、学習や思考、日常の生活のあらゆる所でITの恩恵を受けて育ってきました。こういった世代が生まれるのは当然のことながら人類史上初めてのことであり、それ以前の人間とは大きな違いを持つ可能性があります。もちろん多くの道具が出現した都度人間の性質は変化した可能性がありますが、思考活動にまで道具の影響が及んだのは、ITが初めてだと私は考えています。私は学者ではないため、事象での説明しかできませんし、統計的なデータを取ったわけでもありません。しかし様々な受講者や研修企画担当者、人事関係者と会話を行う中で、私と同様に若者の質的な変化に気づき始めた方も少なくないことは知っていますし、その方々の多くが私と同じ不安を持っているよう なのです。

 この世代の顕著な特徴は、思考力の低下です。すべての情報がインターネットを通じて瞬時に提供されるようになったため、若者の頭脳形成期に思考の機会が失われているようなのです。さらに学校では評価のために記憶力を試す試験が相変わらず行われますので、記憶力はこれまで以上に鍛えられてしまいます。さらに学校では減点主義を取りますから、減点されないことが優秀者の条件となります。逆に検索で多くの情報を得たりより複合的な情報をえるために、検索キーワードを思いつくのは得意ですし 、画面に表示された文字を瞬時に読み取ることも上手いのかもしれません。こうした環境下では、きわめて暗記力が高く、正解の実行力が早く、聞き分けが良く、失敗しないタイプの若者が数多く生み出されます。その上彼らは文字によるコミュニケーションを得意としますので、相対的に会話でのコミュニケーション能力が弱くなってしまうようです。

 こうした状況を少しでも改善するため、いくつかの企業の協力によって今回の考える力の育成講座が実施できました。そこで少しでも若者の状況を変えるべく慎重に講座を組み立て、実施してみました。講座は無事に終了することができましたが、私の想像以上に若者の性質が変わってしまったことを実感せずにはいられませんでした。

 まずは思考力ですが、想定通りかなり弱いように感じました。フレームワークなどを使った思考をする以前に、抽象思考ができません。すなわち、漠然としたテーマを煮詰めていくことはきわめて苦手です。たとえば、「AR(拡張現実)の普及のために何をすべきか」というような漠然としたテーマを考えさせようとすると、明確な足がかりや指針がないため、考えることができないのです。彼らの言葉では「問題が曖昧すぎるから考えられない」となるのでしょう。しかし現実のシチュエーションで考える必要があるのは、こういった曖昧なテーマがほとんどのはずです。逆に明確な手がかりがあるのであれば、誰でも考えつきますので、結果の付加価値が生まれません。となると本来はこれこそが思考であり、付加価値をうむ作業であるにもかかわらず、彼らには極めて苦手な作業となってしまっているのです。さらに論理的に考えることもきわめて苦手ですし、論理の検証も自分自身では満足にできないなど、思考の訓練がほとんど行われていないことを痛切に感じる結果となりました。

 また考える際には、常に自身の考えが正当となるように前提や範囲を作って考えようとする癖も全般に見受けられます。漠然とARの普及は考えられないので、「ARを書店の在庫管理で利用する場合の具体的な普及手続きを考える」という風に、すぐに自身の結果が出しやすいように前提を作ってしまいます。さらに油断すると、「小規模で繁盛していない、ITに疎い店員が1名の書店の場合を考える」といったふうに あり得ないと同時に破綻もしない詳細な前提をどんどんつくってしまい、間違えようのない自明の状況で自身の考えの正当性や正確性を主張する方が多いの が特徴的でした。 (傘以外の雨具を持たず、途中に雨具などの購入もできない旅において風のない小雨に遭遇した場合、有効な雨具は傘である、という考え方です。破綻しようがありませんし、それ以外の有効な方法や論理も普通は組めません。)

 さらに全般的にオーラルによるコミュニケーション能力が低く、他者の意見を理解し瞬時に反論したり、他人の意見を参考にして考えを発展させることが不得意なようでした。文字は瞬時に頭に入る反面、会話の内容、それもグループのような複数の人数が発する情報がなかなか頭に入らず、言葉のやりとりといった基本的なコミュニケーションが苦手なようでした。

 もう一点気になったのは、失敗や減点を極端に恐れるということです。論点や思考過程の瑕疵を指摘すると、必死に言い訳をしたり前言を翻す若者が少なからずいました。逆にそういった指摘をまぬがれるために、極めて記号化された抽象的な言葉で説明を行う方も多いように思いました。(ARの普及には、多くの職業人の努力と改善が必要です。という感じ)

 思いつきを考えといったり、思考停止して何かを思いつくことを考えというなど、当初の想定通りの若者は当然多かったのですが、予想以上に結論のでない モヤモヤした状態に耐えられないというのも今回の発見だったのかもしれません。

 こうした状況は、若者だけに限らず多くの日本人で発生している現象かもしれません。ただしかつてその状況を体験してきた人間と、まったく体験していない人間との間には、大きな隔たりがあるように私には思えるのです。 なぜならば今は忘れてしまったことであっても、過去に経験があれば思い出せる可能性があるからなのです。逆にそういった経験のない若者は、今まさに訓練をしなければ考える力は未発達のままになりますし、その経験すらない人間が社会の中心になることは、文明的な衰退をもたらしてしまう可能性もあります。

 私は、思考は訓練と思っています。肉体的な体力同様、知的な体力も訓練によって体得出来ると考えています。一億総思考停止の時代といわれている今、我々はもう一度思考の習慣を思い出し、訓練を始める時期がきているように私には思えるのです。

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 先週面白かった日経産業新聞の記事は、以下の通りです。

・X線画像、3Dで診断 P・S・P 臓器など細部見やすく 400万円、診療所も導入可能
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・高機能携帯で中古車査定 カーセブン 車検証QRコード読み取り 整備工場など開拓
・NTT後継 3つのカギ 首脳人事 震災で凍結 スマートフォン・クラウド・グローバル
・パソコン 節電競う 東芝など:夜に電力の一部充電 富士通:席離れると画面暗く
・高評価の空港ノウハウ伝授 韓国・仁川 中国や仏などに 収益源に育てる
・ソニー流出、「ボット」使用か 「種」潜入 情報乗っ取る 変幻自在、発見難しく
・ICタグ 金属容器対応 トッパン・フォームズ 電波障害を克服
・ソニー、8月に輪番停電 節電対策、夏時間も実施
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・スマートフォンに護送船団きしむ ドコモ・KDDI:利幅大きく[鞍替え」端末各社:単価減、海外勢と競合
・接続料対立、ドコモが新手 総務省に情報開示あっせん申請 強制力なく長期化も
・公表に1週間「早いほう」 ソニー情報流出 ストリンガー会長会見
・クラウドで時間貸し 基幹システム ソフトバンク ハード・ソフト一体
・アスベスト その場で無害に 産総研と大成建設が装置開発
・クリーンルーム節電制御 日立電線 年1000万円削減も 全空調24時間管理
・スマートメーター普及追い風 東芝、世界最大手の買収発表 発送電分離論も後押し
・NTTデータ 英社買収 独子会社通じ システム事業強化
・仮設住宅、まさかの過剰 被災地の要請2万戸源 業界、在庫リスク懸念

 今週は、どんな一週間なのでしょうか。