クラウドが本格化しています。
IDC
Japanの調査によると、2015年までの国内のプライベートクラウドの成長率は年平均42%程度だそうであり、市場規模も9400億円超という相当な市場になることが予想されるそうです。一年前の2010年4月には国内のパブリッククラウドについて、2014年までの成長率を年平均35%程度、市場規模は1400億円超と予想していますから、両者を併せて1兆円以上の市場規模があることになります。逆にこれに伴って、いわゆる企業内でコンピュータを保有し、独自のシステムを構築する市場は、年々縮小していくのでしょう。
クラウドが始まったのは、2000年前後といわれていますが、この一年ほどで市場が大幅に拡大しています。背景にはネットワークコンピューティングの急速な進化があるのでしょうが、リーマン
・ショックに代表される世界的な不況の影響も見過ごせません。
さらに高度なITの普及によって、アプリケーションの性質や利用シーンも変化しており、これまでのようにすべてのニーズを完全に明確にしシステム化を図っていくことは事実上難しくなっています。さらにこれまでは毎年のように発生してきた既存システムの更改作業も、クラウドと高度IT化によって様相が変わってきています。こういった更改作業では、ハードウェアを含めそれまでのシステム投資以上の投資を行うことが基本
でしたが、不況は当然としても、企業環境の変化速度の向上とクラウドなどの様々な選択肢が企業にIT投資を控えさせる結果となっています。
2008年9月のリーマン・ショックは、世界経済を混乱に陥れました。その後世界は急速に回復に向けた努力を行いましたが、まだまだ安定した状態にはなく、元凶ともいえる米国経済もいまだに危機的状況を脱していません。一時は盛り返した欧州経済も、ギリシアなどを発端とする経済不安から相変わらず不安定といえますし、ECそのもののあり方さえもが問われるようになっています。その中で日本は、相変わらず方向の決まらない政治体制と積極的な対策を打てない経済政策によって、一向に経済が回復する気配もないまま2011年を向かえてしまいました。そして311によって日本全体が大きなダメージを受け、半年経った今でも経済を好転させる積極的な施策を打つ気配さえありません。
それでも311がなければ、2011年度に多くの企業が回復傾向に向かうはずでした。この数年控えてきた設備投資も限界となり、そろそろ新しい投資をしなければ世界経済が回復傾向になった時に追いつけなくなってしまうためです。その結果IT産業でも、2011年度の下期から情報化投資が復活すると信じられてきたようであり、多くのSIerが仕事の激減に苦しみながらも保有した人材のリストラは行ってきませんでした。ところが311によってそのタイミングが相当に遠のいてしまったため、どうやら余剰人員を抱えているSIerの体力が持たなくなってしまったようです。TISは9月末で400名以上のリストラを発表していますし、今後さまざまなSIerでリストラが始まる気配があります。労働市場に余裕がない現状におけるリストラは、対象者と家族の死を意味しますので、その事態が回避されることを私は真剣に願っています。
日本のSIerは近年、NTTデータのように合併と買収によって大規模化し、世界を含めたすべての市場で覇権をふるうのが基本思想になっていたような気がします。TISはインテックと経営統合し、ITホールディングスというSIerグループを作り出しました。その後ソラン、ユーフィットなども合併し、大規模SIerの道を歩み出しました。この10月には住商情報とCSKが合併し、やはり大規模SIerとしての道を踏み出すようです。
しかしITの変化は想像以上であり、日本のSIerの強みである「大規模IT環境の構築」と「信頼性確保の技術」は、クラウド環境に奪われようとしています。クラウドの仮想化技術と冗長性が、それらの多くを実現してしまうためです。逆にその強みを奪われた日本のSIerは、この先の新しい情報化の波に乗りきれない可能性が多分にあると私は思っています。もともと大規模組織は装甲性には優れますが、機動性には問題があります。多少の変化があっても全体の能力で乗り切ることはできますが、変化の速度が速い場合はそれに対応しつづけることが難しいのが大規模組織の特徴です。逆に小規模組織は、その強みを生かせる環境以外で生き延びる事は難しいですが、劇的な変化にも対応できる機敏性を持っています。となると、変化が遅い場合は、大規模組織がさまざまな価値観のある国際社会で活躍することは可能ですが、これだけ世の中の変化が激しいと、生き残ることすら難しくなると思われるのです。その意味で、日本のSIerの大規模化は非常に危険な側面を持っているといえますし、その資源を活かす国際化への道のりは遠いとしかいいようがありません。
かつて世界で栄華を誇ったIBMも、オープン環境というIT環境の劇的な変化に苦しみました。その中で彼らは「選択と集中」の道を選び、大胆なリストラと事業売却、必要事業の買収などの積極的手法によって生き延びました。日本のSIerも、それ以上の考えと覚悟、そしてなにより強力なリーダシップを伴った積極的行動を行わなければ、全滅する可能性があります。日本企業のIT化は日本のSIerのみが行いうる、という慢心を捨て、新しく高度なIT社会を世界で築くために何をしうるか真剣に考えたときに初めて、IT業界の再生が始まるような気がします。
その日が一日も早く到来することを、そしてすべての日本のSIerが気づくことを、切に願うだけです。
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今週は、どんな一週間なのでしょうか。