リバース・イノベーションがブームになりつつあります。リバース・イノベーションとは、途上国で生まれたイノベーション(技術革新・改革)を先進国にも適用しようとする考えです。もともとは昨年出版された「リバース・イノベーション」が日本で紹介された始まりのように思いますが、このところ各種のメディアでこの言葉をみる機会が増えてきました。
イノベーションによって新しい技術を利用した製品が先進国で生まれ、普及していきます。当初は基本的な機能しか有さず、高価な製品が多いのが一般的です。しかし市場に普及する過程で量産効果が生まれ、価格が下がっていきますので、より広範囲に普及します。さらにその市場が成長する過程で新しい機能や技術が組み込まれ、さまざまな機能を拡充していきます。同時に技術革新で製品そのものの価格も下がっていきます。こうしてイノベーションによって生まれた製品はコモディティ化し、市場が飽和していきます。やがて新たなイノベーションが生まれ、また新しい市場が展開する、というのが製品のライフサイクルです。放送局にしか存在しなかった録画技術が、イノベーションによってβマックスやVHSといった家庭用ビデオデッキという機器になり、成長の過程で高機能化し、価格が下がり、やがて生まれるDVDレコーダに取って代わられる。DVDレコーダもブルーレイに移行し、年々高機能化と価格低下が進む、というのがわかりやすい例と思われます。
しかしながら、これらが起きるのは経済的に豊かな先進国であり、途上国にとってはDVDレコーダはおろか、いまだにビデオデッキですら高価なものです
。したがって、途上国でも普及するよう付加的な機能を削った基本的な機能だけをもった製品が作られ、販売されています。先進国でライフサイクルを終えるような機器であれば価格は安くできますし、機能を削ればより安価に生産することは可能です。逆に安価であれば、途上国でもより普及していくことになります。
このようにこれまでの製品開発は、先進国でイノベーションの結果が発露され、過飽和となった市場からあふれた製品が川下である途上国に流れ
ていく、その過程で再度機能を削ることでより安価な製品が提供される、というのが一般的な考え方でした。しかしリバース・イノベーションというのは、その流れに逆流が生まれることがある、というのが基本的な
コンセプトのようです。
たとえば上記の考えによれば、先進国で過飽和となりうれなくなったノートPCでも、機能を押さえてより安価にすれば
途上国に普及していきます。しかし先進国では過飽和状態であり、市場も衰退期ですからそのような製品は売れるはずがありません。ところが実際は、途上国向けに作ったはずの機能を押さえた安価なPCを求めるユーザが、先進国にも存在することが解ってきているのです。なぜならば機能を押さえた安価なノートPCは、ネットだけを利用するユーザにとっては十分なマシンといえますし、タブレットPCよりも操作になれていますから家庭内の二台目のPCとしては最適なものになるのです。同じように、先進技術を満載した医療機器は非常に高価で大手の病院しか導入できませんが、途上国向けに基本機能だけに絞った安価な医療機器は、中小の病院でも利用することが可能になるのです。
この考えを発展させると、途上国向けに企画した商品や技術が、そのまま先進国にも適用出来る可能性も増えますし、先進国で全く新しい製品やビジネスモデルとなる可能性もあります。上記の書籍で紹介されている事例にも、インドの眼科医院で白内障手術のコストを下げるために、医療業務そのものを工業化・効率化した例がありましたが、このやり方を先進国に持ってくれば、白内障患者の負担が軽減し、手術機会を相対的に増やせる可能性もあるのです。
こうやって考えてみると、我々が扱うITの世界も、リバース・イノベーションのチャンスがあるかもしれません。Fericaのように、日本ではついつい高精度・高機能のものばかり考えがちですが、途上国に普及する安価な情報技術を組み込めばもっともっと広く効率的な情報システムを開発・普及させることが可能になるかもしれません。となると、新たな眼で世界を観察すると、日本のIT環境を劇的に変革できるチャンスがあるかもしれませんし、それをつかめば世の中はより便利で安全に出来る可能性があるのです。
これから出かける海外でのバケーションやビジネスでの経験が、ひょっとすると日本を激変させるリバース・イノベーションをもたらす可能性がある
かもしれません。ビジネスのチャンスは、つねに我々の周りに存在していることを忘れてはなりません。
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今週は、どんな一週間なのでしょうか。