教育現場での、タブレットPCの導入が始まっています。
先日報道されたのは佐賀県武雄市であり、来年度の小中学生全員にタブレットPC4200台の配布を決定しました。和歌山市でもマイクロソフトが提供するタブレットPCで実験が始まったようですし、荒川区でも来年度に1万2千台の配布を決めているようです。もちろん私立大学や高校でもタブレットPCの配布は行われていますが、公立の学校でこうした動きが始まったということは教育の現場が本格的に変わりつつあるということでしょう。
こうした動きは世界でも始まっており、一番有名なのはタイです。タイでは昨年の新入生80万人に一斉にタブレットPCを配布しましたし、今年も170万台の提供が決まっているなど、本気で教育の現場でタブレットPCを利用しはじめているようです。もちろんタイで配布されたタブレットPCは中国製の安い機器だったためバッテリーの維持時間が短く、放課後先生は担当クラス分の充電に翻弄されているなど問題は少なくないようですが、国としての英断は刮目に値します。同様な動きはアメリカやヨーロッパの先進国や、韓国や中国などのアジア諸国でも始まっていますので、もはや世界的なトレンドといえるのでしょう。
公立学校にタブレットPCを導入することによって、教科書の印刷や運搬、配布のコストを削減することが可能になります。また仮に教科書に誤植などのミスがあったとしても、瞬時に修正が可能です。また教科書コンテンツをマルチメディア化することで教育効果は上がる可能性がありますし、電子黒板とのセットで学習方法そのものが変わる可能性もあります。当然ネットワーク接続をしていますから、瞬時に様々なことをインターネットを通して学ぶことも可能です。ウィルスやセキュリティについても実地で学ぶことが出来ますし、危険回避の必要性を小さい頃から身をもって知ることができるようになるでしょう。
このように教育現場へのタブレットPCの導入は、教育のあり方そのものを変える可能性があります。これまでのように教師が教科書に書いてあることを解説し覚えさせることではなく、生徒が物事に興味を持ちそれを追求する探求心を育てるようにしていく必要があります。同時にインターネットを通じて流れてくる沢山の情報から、真理や本質を学ぶ姿勢を身につけさせなければなりません。試験もこれまでのように暗記した内容を再現させるのではなく、与えられた情報から分析結果や思考結果を表現するように変えていく必要があるでしょう。さらに体育でさえ動画を活用した実践的なものに変わる可能性がありますし、結果がきちんと記録されることから身体能力の向上についても興味をもてるようになれると思われます。
これまでもPCを使った教育が行われてきましたが、あくまでも表計算やワープロなどのアプリケーションレベルの操作や、自由にインターネットを使わせるといった情報リテラシー向上の目的が中心となっていました。しかしタブレットPCの導入は、本格的に教育を変革させる可能性があります。世界の国々がこれに気づいている以上、日本も積極的にこの取り組みを行い、教育を質的に転換させなければなりません。
しかしこうなると一番の問題は、教師のあり方になっていきます。これまでの教師の中には、試験や内申を楯に自らの指導技術を高めてこなかった人もいますし、ただただ教科書の内容を機械的に解説するだけの人も少なからず存在しました。よっぽどの失態がない限り職業を罷免されない公務員と同じであり、競争原理が働かなかったのも事実です。もちろん極めて高い技術ややる気をもった教師もいますが、自分や子供を通して振り返ると、そのような教師がまれであることは事実と思われます。現に高校の学科に情報が取り入れられた際にも、真面目に取り組んだ教師は少なかったですし、生徒のほうがずっと高い情報リテラシーを備えているのでその時間は放置、という状況も見られました。
しかしこういったタブレットPCなどの情報機器をベースとした教育を考えると、このような教師の存在意義そのものが失われることに気づかされます。インターネットは教師よりずっと多くの情報を提供しますし、さまざまなスキルやノウハウを身につけるための方法が沢山提示されています。なにより多くの動画が知りたいことを知らせてくれますし、インタラクティブな練習環境も提供してくれます。さらに優れた教科書コンテンツが次々開発されるでしょうから、教師そのものが発揮できる力が限定的になることは間違いありません。知識の過多が能力を証明するのではなく、散在する大量の知識をいかに活用できるかが個人の能力の証明となりますから、それを育てられ、公正な評価が出来る人材のみが教師と呼ばれることになります。
今後の教師は、ものごとを学ぶことに興味を持たせたり、興味を持った事象を発展させる手助けをするなど、新しい役割を担っていかなければなりません。フィンランドのように、教師としての専門性を習得しない限り現場に立てないといった制限を用いて、劇的に教師のあり方を変えていく必要が日本にも生じているのです。現状の教師も期間を決めて再教育を行い、それに従えない教師は離職を勧告するといったフィンランド同様の厳しい手段を講じる必要がありますし、不足する教師数に対し諸外国のように職業をもった人間が交代で教育の現場に立てるようにする、という方法もとって行かざるを得ないと思います。
今回のタブレットPCの導入によって、現状の教育のあり方を抜本的に見直し、教育そのものを立て直す良いきっかけが訪れています。そのきっかけを生かせるか、導入そのものを目的としてしまい結局諸外国に負けていくのか、今まさに厳しい選択肢が突きつけられています。そして正しい選択を今しなければ、確実に日本は衰退します。
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先週面白かった日経産業新聞の記事は、以下の通りです。
・「未来予測」身近な技術に 埋蔵データ、学習で光る
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・武田「特許切れの谷」正念場 前期営業益54%減の1225億円 収益回復の起爆剤に
今週は、どんな一週間なのでしょうか。