ITの世界で、新しい動きがありました。今回の主役は中国のLenovoであり、このところ立て続けに新たな動きを見せています。
もともとLenovoは、1980年代に生まれた中国のPCブランドでした。当初は違った名前で製品を発表していたためあまり有名ではありませんでしたが、2004年のIBM社のPC事業買収により、世界に名だたるトップブランドに躍り出ました。IBMのThinkPadブランドを踏襲しそのブランドを生かした展開を行ったため、2013年にはPCのシェアでHPを抜いてトップとなりました。ThinkPadと平行して自社ブランドのデスクトップPCやサーバ類も提供していますが、やはり一般ユーザに一番受け入れられるのはThinkPadだったようです。
そのLenovoが、一月末に大型の買収を発表しました。再びIBM社から、PCサーバ事業を買収したのです。買収額は23億ドルと、非常に大きな買収となりました。さらに一週間後、Google社からモトローラの携帯電話事業をさらに買収しました。今回の買収額も29億ドルと非常に大きなものであり、この資金力と積極性にはさすがに驚かされました。
元々ノートPCやタブレットPCでシェアを持っていたLenovoがPCサーバや携帯電話事業を入手したことが意味するのは、総合IT企業としての進化なのでしょう。PCサーバ事業や携帯事業は、ITの世界の先端ビジネスではありません。むしろ価格競争の進む枯れた技術というべきものであり、今後大きな進歩を見せることは考えにくい分野です。となると、なぜこの時期にこういった事業を買収したのかを考えてみると、Lenovoのしたたかさと今後の展開が予測できます。
ITの総合企業として一番代表的なのは、IBM社でしょう。大型汎用機からその勢力を拡大し、最盛期にはスーパーコンピュータからPCまでをフルラインナップで顧客に提供し、その巨大なプラットフォームで動くアプリケーションシステムを開発することで、非常に大きなシェアを握りました。しかしその後の競争の中で高い次元のサービスを強化せざるを得なくなり、コンサル会社の買収など高度ITサービスの提供に向けた事業展開に転換してきました。その中で普及品として価格競争が激化したノートPCやプリンター事業を次々と売却し、今回利幅の低いPCサーバ事業も売却する結果となったようです。脱ハードウェアビジネスにより次世代のIT総合企業としての脱皮の最中といえるのかもしれません。
かつてIBMのビジネスモデルをまねようとしたのが、PCブランドとして非常に高いシェアを握ったCOMPAQという会社です。Lenovoと同時期に創業したこの会社は、企業向けPCブランドとしてシェアを拡大していきました。やがてタンデムという並列機メーカや、ミニコンで広いシェアを持つDECという会社を次々と買収し、IBM同様フルラインナップのサービスを展開しようとしました。しかし製品の品質問題とITバブルの崩壊によりそのポジションを失い、HPに買収された時点でITの総合企業としての幕を閉じる結果となりました。買収したHPに関しても、同様の動きの中でPCのポジションを失い、現在は再建の途上にあります。
このようにかつてのコンピュータメーカーは、ITの総合企業として広く市場を席巻しようと試みました。オラクルによるERPパッケージメーカやサンマイクロシステムズの買収のように、現在もその途中にある企業もありますが、基本的にはそのモデルには限界があることを多くの企業が示しています。しかしLenovoの動きは、まさに多くの企業が失敗したITの総合企業となるべく動きであり、なぜこのような失敗ビジネスモデルを選択しようとするのか今後が注目されます。
私の予想では、Lenovoの狙う市場に特徴があり、この失敗ビジネスモデルを成功に向けられると考えているように思われます。すなわち枯れた技術を集めてフルラインナップのサービスを展開しますが、その価格は枯れている技術であるが故に非常に安価に提供できるという点が、彼らの特徴のように思われるのです。そしてその提供先は、技術競争と革新の激しい先進国ではなく、アジアやアフリカなどのとりあえずそういった技術を手に入れたい途上国を対象としているように思えるのです。まだまだ貧しいそれらの国の政府や企業は、価格が安く安定した仕組みを導入したいという要望は強いはずです。そのニーズに応えるられるだけでなく、それらの国々の成長にともなってより充実したサービスを展開していけば、その収益は年々大きくできるというのがLenovoの読みのような気がします。となると、それらの国々の成長にともなってその時点で先進国では価格競争に入った技術を買収していけば、厳しいITの先端技術争いに参加しなくても、その規模を拡大できるというのがLenovoの戦略のように思えるのです。
ところがこういう考えをしているうちに、Lenovoは日本で新たなサービスを展開しようとしていることがわかりました。PCプラスと名付けたこのサービスですが、企業向けに先日買収したサーバを含めた多様なサービスを提供する考えのようです。景気回復の波に乗り切れていない日本の中小企業にとって、このサービスが魅力的なことは理解できますし、今後の消費税問題などを含めたITの切り替えに対して、クラウド同様有力な選択肢の一つになることは間違いなく、その中でサービスの品質を磨きアジアやアフリカに展開しようとするLenovoのたくましさには感心させられました。
日本企業も同様に世界を見据えたビジネスをすべきなのですが、SONYがVAIO事業の売却を発表するなど、選択と集中という一昔前の戦略をとるので精一杯のようです。まだ見ぬ日本初の新しいベンチャー企業が、世界を見据えた新しいビジネスモデルを見せてくれることを、老頭児として願わざるを得ません。
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先週面白かった日経産業新聞の記事は、以下の通りです。
・テレビはどこへ パナ「コア事業でない」 新たな収益モデル手探り
・スマホ「実質ゼロ円」重荷 4〜12月 ドコモ、営業益2%減
・Amazon、成長に陰り 10〜12月 2割増収 市場の予測を下回る
・タブレットで電子契約書 AOS、幅広い業種照準 専用アプリで入力 送信証明書も作成
・車いすの電動アシスト装置 坂道・じゅうたん楽々 介護者の負担軽減 課題
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・iPadをタイムカードに シュッタキンや休暇 顔撮影 プログラム、専用装置不要
・スマホを介し医師にデータ スマートハート:心電図の異常即座に マシモジャパン:メールに簡単に送信
・IT大手の争奪戦 開幕 日本取引所システム刷新へ デリバティブ売買向け 100億円規模
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・シャープ 薄氷のV字回復 今期:営業益1000億円 最終は50億円 利払い重荷、改革は途上
・再生医療 起業に保険商品 参入促す仕組み、世界が注目
・ノキアから独立 携帯ベンチャー ヨーラ スマホ「第三極」めざす オープンソースOS
・ATMの秘匿性悪用 横浜銀のデータ不正取得 NTTデータ「体重委託、起因ではない」
・机をタッチパネルに 埼玉大、天板さわりPC操作 家具へ応用狙う
・グッバイ、ビル? ゲイツ氏、MS会長退任 技術顧問でなお影響力 株主、カリスマ頼り懸念
・ツイッター、早くも成熟化? 10〜12月売上高 倍増でも株急落
・タウ、事故車査定にタブレット 販売情報を即日掲載
・好調な富士重、浮かぶ課題 在庫不足、HVは利益低く
・「買い」はソニーかパナか パソコン売却・TV分社化 やっと改革加速 反動懸念も
今週は、どんな一週間なのでしょうか。