今回は私的な話題です。
ご存じの方もいらっしゃると思いますが、
今から遡ること25年ほど前、とあるドイツの時計ブランドの存在を知りました。昔から腕時計が好きであり、社会人になってある程度の給料が入るようになってメジャーな海外ブランドの時計を始めて購入しました。それからは毎日するほど愛用していたのですが、ある日ひょんなことでこの時計ブランドの存在知り、カタログを眺めながらいつかは購入してみたいと思っていました。
インターネットが普及した20年ほど前からインターネットオークションを始めましたが、そこでその時計ブランドの時計を見かけ、その機能美に惹かれてオークションで購入してみました。大手の時計ブランドではないためほとんど見かけないデザインだったのですが、一部のマニアには人気のある時計で非常に気に入ったことを覚えています。それからその時計ブランドについていろいろと調べているうちに、そのブランドはある一人の時計作家が構築したものであることを知ります。その方は第二次大戦のドイツの勇者であり、ユンカースという急降下爆撃機のパイロットでした。ロシア戦線で戦っていた時に撃墜されたのですが九死に一生を得ることができ、その後も飛行教官として参戦されていました。終戦後進駐軍相手の目覚まし時計販売を始め、そこから徐々にご自分でデザイン・制作された時計を販売されるようになったようです。その後私が生まれた年にご自分の名前をつけた会社を興し、やがてドイツやアメリカなど世界で人気を博するブランドとなりました。スペースシャトルの時代には、このブランドの自動巻時計をつけた宇宙飛行士が宇宙で活動されており、宇宙で使われた初めての自動巻時計になったそうです。日本ではmonoショップが独占販売していたため、5年ほど前までは銀座の松坂屋別館の地下1階にそのブランドの独立した販売コーナーまでありました。
やがて私はその方の時計づくりの特徴として、大手のブランドにもかかわらず最終工程は必ずご自分が製品をチェックし、場合によってはある種の細工をして販売されているということを知ります。その細工とは、時計の針を微妙に文字盤側に曲げることです。時計は文字盤の上で長短針が回転しますが、腕時計は腕の確度が時計を見る時々で変わるため、斜めから見ると本当に針が指し示している位置から多少ずれて見えてしまうことがあります。昔のパイロットは電子機器がなかったため、スピードや燃料残量を時計で知ることが多く、その意味で見え方のズレ(視認差といいます)が問題なってしまうことがあるそうです。それを防ぐためには、文字盤近くに針を置くことなのですが、文字盤から短針、長針、秒針の順で針は設置されるため、長針はどうしても文字盤から離れてしまうのです。したがってこの方は、出荷の前に気に入った時計は、長針の先端をほんの少し曲げて、文字盤ぎりぎりを指し示すように細工されていたそうです。それを知った私はこのブランドに強く興味を持ち、徐々にコレクションとなっていきました。
私がこのブランドを知った当時は日本で20種類ほどの機種を販売していました。ところがネットを調べてみると、ドイツのオークションではかなりの人気があり、70年代頃からのそのブランドが作った時計が少数ではありますが取引されていることを知ります。昔は本当に手作りだったため、70年代に作成された時計は機種毎の生産数が少なく、完全な形で残っているものも少なかったのですが、それでも当時の時計はその方自らの手作りのものが多く、針の細工はもちろんのこと時計の裏蓋にサインを入れてあるものもありました。当時のドイツのオークションはドイツ国内専用の流通が多かったのですが、それでもドイツ語はかなりの苦手でしたので逡巡したのですが、念のため出品しているドイツ人に英語でメールを送ると、意外と取引に応じてもらえることが多く、結果として一つ、また一つとその方が作った時計を一つずつ収集していくことができました。
当時多くの海外時計ブランドは、それほど多くの種類の機種を生産していませんでした。現在でもロレックスなどは20種類ぐらいですし、オメガも文字盤の違いを除けばその程度の種類の機種しか生産はしていませんし、大幅なモデルチェンジも自動車以上に少ないことが特徴です。そのメーカも当時は20種類ほどですから、その歴史を知っていた私としても30年といってもそれほどの種類はないだろうと高をくくっていたのですが、集めているうちに恐ろしいほどの種類の時計が作られていたことを知ります。中にはワンオフ(一品生産)に近いものもあり、結果として私のコレクションの数も徐々に増えてきました。
しかしドイツのホームページを調べているうちに、その時計作家の方は20年ほど前にそのメーカを副社長に譲り、新たな独立工房を作られたことを知ります。もともと時計生産をはじめた時からのつきあいのあった時計会社を合併し、新たな時計づくりを始められたことを知ります。しかしその年齢が80才を越えてですので、本当にそのバイタリティーには驚かされますし、その情熱にも頭が下がる思いです。その工房の確立後独自機構をもった非常にユニークな時計を開発されるなど、老いても尚新しい発想でメカニズムを生み出し、それを実際に作り出す力に本当に感服のみしかありません。その工房は本当に少数生産のためなかなか手に入れにくい時計だったのですが、直接その方にメールをしてみると日本からでも注文で譲っていただけることを知り、いくつかの機種を注文しました。基本の機種はあるのですが針の色や裏蓋など、いくつかの点で注文を受けていただけるなど、個人の作家らしくきめ細かなサービスをしていただけたのも驚きでした。また後日には直接ご連絡をいただき、新たに開発した機種のファーストロットを譲っていただけることもでき、世界でも4人目ぐらいに新しい時計をさせていただくことができました。
そんな縁からドイツ大使館主催で日本で開かれたドイツフェアーで日本に出品され来日された際、直接お会いしてお話しさせていただき、写真も撮らせていただいたのは良い思い出です。そのときでもう90才近かったのですがお元気であり、ひとしきりドイツからの道のりが遠く席が堅かったと文句を言われていたのが面白かった記憶があります。その方は80才まで飛行機も飛ばしていたそうですが、さすがに年齢で危ないのでやめたとおっしゃっていましたが、周りのスタッフの方は未だにアウトバーンを200km近い速度で車を飛ばすので危ないとおっしゃっていました。帰りがけ握手をしていただいたのですが、その手の小ささに驚いて見てみると、利き手である右手の指が一本欠けてらっしゃいました。それに気づいたその方は、「この指はロシア軍にとられた」とおっしゃっていました。なんと撃墜された時に失ったそうです。指がかけていてもあれだけの細かいメカニズムを作り続けたことは、なによりも驚きとしかいえません。
時は流れ、その方はもうすぐ100才を迎えることになり、残念なことに高齢を理由にこの6月で独立工房を閉じる決断をされたことです。そのブランドの時計はとうとう幻になり、記憶の世界になってしまうようです。しかしその作品は数多くの方の元で後世に受け継がれていくでしょうし、私もコレクターとして、その手助けをしていきたいと思っています。

優れた製品を作り出す職人の魂は、その製品にやどり生き残っていきます。我々ITエンジニアの作り出すものにその魂はやどっているか、その魂は本当に後世に受け継がれていくのか、我々は真剣に考えなければならないのかもしれません。先日アメリカで一日だけ発売されたグーグルグラスには、マッキントッシュのSE30のように、多くの技術者の魂がこもっているのでしょうか。
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先週面白かった日経産業新聞の記事は、以下の通りです。
・我が家 アプリで節電 エリナス、家電スマホ制御 自動消灯・空調調節 新築導入増える
・「リーフ」走行情報を提供 日産、保険・住宅関連などに 新サービス開発促す
・運転時の運転傾向把握 車線逸脱など→警報・記録 ジャパン・トゥエンティワン
・病院の役割 社会へ分散 医療のパラダイムシフト 自動車・車・カラダ どこでも診断・検査
・ミャンマーの系座特区法改正 税優遇、ラオスに見劣り 「街作り」の観点では優位
・Xp搭載機 高まる危険性 アスサポート終了 システム全体の盲点に
・クラウド攻勢へ本社移転 通信系システム開発2社 ソフトバンク系SBTとIIJ 増床、人員も積極拡大
・阪急不、全戸に燃料電池 環境配慮型マンション 電力購入、年80%減
・アマゾンに美酒 日本の規制越え 酒類すべて販売
・マッキンゼー卒 実力は 即断即決の理論経営 「高い、若い、よく言うよ」の声も 日本の体質に風案
・ロボVB 争奪戦 日本勢に次々触手
・MS「挑戦者側に」 ノキアの携帯再建 課題 新CEO「OS無償提供」
・空飛び 人は入れない場所へ 千葉大、ダム点検・線量測定
・うつ 血液で見抜く 早期発見・治療期間短縮へ 酸素用いて安価で測定
・むなしいSTAP論争 科学ほど遠く 「STAPある」改めて主張 小保方氏、論文撤回を否定
・うつ 血液で見抜く 早期発見・治療期間短縮へ 酵素用いて安価で測定
・インフル予測 情報源広がる 流行状況、ビッグデータで 天気・湿度やネット検索件数
・電子回路を防水 米HzO、樹脂コート技術 スマホ向けなど日本進出へ
・ベトナムの空、2社が牽引 国営航空 激突 LCC ベトジェット ベトナム航空
・組み込みOSでシンクライアント CTC系、タブレット開発 安全性高く業務ソフト追加可能
・マツキヨ、若者と「友だち」に LINEでクーポン配信 高い来店率、クチコミ期待
・運転支援技術「アイサイト」 カラー画像 情報量に対応
・メーンフレームは眠らない IBM、汎用機50年 クラウドに技術活かす ハード不振反転狙う
・うつ新薬 使いやすく 副作用押さえた製品広がる 治療で社会復帰期待
・BYOD 安全に接続 あり得る 端末にデータ残さず
・アプリ開発の黒子 脚光 データ保管や認証支える 成長期待、日米でM&A
・ポスト「京」始動 事業費1400億円、4つの壁
・羽田発 クロネコ進化 ヤマト運輸 率先垂範で法人取り込み
今週は、どんな一週間なのでしょうか。