先週の続きはお休みして、今週はちょっと違った観点でのお話です。
市場からバターが消えています。
ことは昨年に遡りますが、昨年夏の猛暑によって牛の乳房炎が増大し、生産量の落ち込みにつながったようです。牛から捕れる生乳は、鮮度の要求される牛乳から生産が始まります。牛乳の生産が終わった残りの生乳は、バターやチーズなどの加工食品になっていきます。バターやチーズは保存が効きますので、余剰の生乳をこれらに変えることで在庫が生まれ、生乳の生産量に増減があっても一定量のバターやチーズが出荷できたようです。
ところが今回は年々酪農業者の数が落ち込んでいるところに生産量の減少が重なったことから、これだけの品薄状態が発生してしまったようです。クリスマスに向けてケーキ業界はバター確保に奔走しているようですが、生乳の生産量が増えないので品薄はまったく解消されていません。農水省は海外から輸入枠を増やしたりメーカーに増産するよう依頼をしているようですが、近隣のスーパーを見る限り状況は変わらず、相変わらずの状況になっているようです。
たしかに品薄は5年ほど前から始まっているので、生産量の落ち込みは事実なのでしょう。ところがちょっと調べてみると、つじつまの合わない事実がいろいろとでてきますので、どうもこの状況は作為的に作られている感じを受けてしまいます。
まずは不足分は、輸入に頼るべきではと考えてみます。世界的な生乳やバター不足は言われていませんし、バターの連産品であるチーズはスーパーにあふれています。であれば、チーズ同様輸入バターでこの状況を一変できるはずです。ところがここに、大きなカラクリがあるようです。
まずは関税の問題です。バターを海外から輸入すると、なんと35%もの関税がかかるのです。さらに1kgあたり1159円もの税金もかかるため、輸入価格に対して販売価格がとんでもないことになります。たとえば1kg300円のバターを輸入したとします。しかしながら税金が35%の105円+1159円かかりますので、ここでなんと、1564円になってしまいます。さらに1kgあたりの送料は仮に100円とすると、単純原価で1kgあたり1664円もの価格になってしまうのです。そうなると利益を20%載せて販売すると、1kg2000円のバターになります。通常のバターは一本あたり200g前後で300円〜400円ですので、1kg2000円とすると1本あたりの販売価格は400円ぐらいですから、これでちょうどバランスが取れます。しかしよくよく考えてみると、この無茶苦茶な税がなければ、もっともっと安く輸入バターを買うことが出来るのです。
仮に35%だけの関税で考えてみると1kgあたり850円になりますから、1本あたり200円弱で販売することが可能です。しかしこの値段で販売すると、日本の生乳でバターを作っても利益が出ないことになります。つまりこの関税が効果を発揮し、日本の畜産業者を守ることが出来るわけです。となると、仕組みとしてある意味仕方がないように思えるところもあります。
ところがよくよく考えてみると、販売単価が同じになるのなら、不足時には輸入を増やしても問題は無いことになります。つまり日本の生乳の生産量が減ったのであれば、その不足分を輸入しても畜産業者には影響がありません。市場の価格も安定しますので国民生活にも支障はでないですし、誰も困らないはずです。
どうも今回の件は、ここにカラクリがあるようです。実はこのことを考えてみると、1993年に起きた米不足を思い出してしまいます。冷夏によって異常に落ち込んだ生産高から、日本中で米の不足が発生しました。国内が米不足ですったもんだした上で、結局タイ米などを緊急輸入し、その急場を凌いだことがあります。本来であればジャポニカ米を生産しているアメリカや類似品種を生産している中国から輸入すればよいのに、輸入量が見合わないとのことでタイ米が多く輸入されました。しかしタイ米は日本人の口に合わなかったことから、事実販売は伸びず最終的には廃棄という結果になりました。そのためタイの日本に対する国民感情は大きく損なわれましたし、日本にとっても急場をしのげないという残念な結果が残りました。さらに輸入の米は美味しくない、やはり米は日本で作るべき、という国民の総意も生まれてしまったように思います。
このときも変だと思ったのは、なぜタイ米が輸入されたか、という点です。タイ米が日本人の口に合わないことは、最初から分かっている事実です。それであれば米国や中国との枠をもっと広げて...というところにカラクリがあるようです。つまり輸入先を決定する権限を持っているのは、農林水産省であるということです。日本の農家や畜産業を保護する、という名目で活動するのはよいのですが、そこに大きな利権や権益が存在するようです。事実今回のバターに関しても、国内業者が自由に輸入することは出来ず、農水省の外郭団体である農畜産業振興機構が、独占的に輸入量を決定しているようなのです。農水省の天下り組織がこれを決定するということは、農水省が農家や畜産業者に支払う補助金の原資を作り出すことになりますし、補助金をにぎるということは、生産業者にさまざまな制約をかけることが出来るということでもあります。となると、この権益を手放さないために、今回の少量の輸入拡大決定の意味が透けて見えてきます。
さらにTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)においても、農水省は基本的に反対の立場をとっているようですから、この権益を守りたいと思っている節が見え隠れします。農水省が管轄する生鮮食品の輸入自由化が起きれば多くの農家や畜産業が成り立たなくなることは目に見える事実ですし、結果として補助金が不要になると、農水省の権力や権益は大きく損なわれることは間違いないからです。
食品の安定供給は、国民生活を守るために大切なことであることは間違いありません。しかしそこに権力や権益等の問題が絡むとなると、かならずしも正しい行政のありかたとはいえないでしょう。権力や権益保護は官僚の出世術なのかもしれませんが、公僕である以上そこに国民の不在があってはいけませんし、納税者である国民の生活を無視した行政のあり方は、強く非難されるべきと私は考えます。
クリスマスシーズン。多くの国民がクリスマスケーキを家族で囲み、幸せな時間が送って欲しいと願います。そのケーキが親子合作の手作りであれば、これ以上の幸せはないでしょう。バターの問題は、そのテーブルを囲む家族の幸せの問題です。
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先週面白かった日経産業新聞の記事は、以下の通りです。
・原則年内はお休みします。
今週は、どんな一週間なのでしょうか。