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 February First week

  スカイマークが破綻しました。負債総額は であり、上場廃止後民事再生を図るようです。日本の元祖のLCCも、急速な経営環境の悪化と経営判断の問題で苦難の道を歩き始めたようです。

 スカイマークエアラインズは、1996年にHISの澤田氏が始めた航空会社です。当初は順調でしたが既存航空会社の追従があり、徐々に赤字が増えていきました。累積赤字が130億円に達した頃、先日退任した西久保氏が出資を行い経営の立て直しを図りました。その対策が少しずつ効果を発揮し始めた矢先、LCCの増加とともにエアバスとの問題が発生し、結果として今回の破綻につながったようです。新聞等では、エアバスへの違約金と現有機ボーイング737とエアバス330との入れ替えが原因とされていますが、今後再生の過程で明らかになっていくでしょう。

 こういった大型の破綻は、複合要因によるものが多いです。一言で言えば市場環境の変化ということですが、よく考えてみると変化は常に不可避です。となると、やはり大きな問題は、環境の変数をいかに折り込んで意思決定するかに思われます。

 今回のケースを考えてみると、外部要因としては以下のような環境変化がありました。

  1. 80円の円高から120円の円安に為替が動いたこと
  2. ライバルである大手航空会社が、値下げに追従してきたこと
  3. 国内外から国内線LCCが数多く参入してきたこと
  4. コードシェアをANAと協議したものの国土交通省の横やりが入り、JALとの協議も必要になったこと
  5. この数年、原油高が続き燃料代が高騰したこと
  6. 結果として海外就航用のA380の受取が出来ず、大きな違約金が発生したこと

 一方、内部要因には以下のような環境変化がありました。

  1. ボーイング社の機体から、エアバス社の機体(A33O)に変更されたこと
  2. エアバスの整備の習熟に手間取り、就航が遅れたこと
  3. パイロットの数がそろえられなかったこと

  このように見てみると、外部要因の影響が大きかったことは否めませんし、それが事実今回の破綻につながった可能性があります。しかしそれらはある程度予測が可能なものでありl、それが決定的な要因になったというのは疑問が残ります。

 第一に為替については、異常な円高であることは誰でも理解できますし、その状態が維持できると考える根拠は希薄です。となると為替変動は織り込み済みで、あえて投機的な取引を行おうとして失敗した、と考えることが出来るかもしれません。資金に余裕があれば、A380購入代金を先付けで支払ってしまえば、今回のような違約金は発生しなかったでしょう。すくなくとも発注数の半分でもこういう対応をすれば、為替が有利なうちに機体を入手できた可能性はあります。しかしそれはギャンブルを意味しますので、今回のような結果は想定されるはずです。ましてやもともと手持ち資金が少ない新興赤字企業ですから、投機的な取引を積極的に進める理由は見当たりません。

 第二に大手の格安料金や新規LCCの参入ですが、大手の格安料金は以前から取られていた手法であり、これを理由に競争に負ける、というのは考えにくいでしょう。またLCCそのものの考え方は真似ることは可能ですし、整備手順や発見、情報システムなどのノウハウも先行事例から学ぶ、あるいは海外LCCの日本への参入は可能と考えたはずです。となると、これを理由とした失敗、というのも今ひとつ考えにくいところです。

 第三にA380の生産遅れはあったものの、直接スカイマークに影響があった形跡はありません。エアバス社として生産の遅れがあったことは事実ですし、機体のトラブルも少なからず発生しています。しかしスカイマークへの引き渡しが遅れたわけではありませんので、それを理由とした失敗とも考えられます。

 となると、外部的な環境変化が大きな理由というよりも、やはり意思決定の方法に大きな問題があったように私には思えます。

 前社長の独断で、A330とA380の導入が決定してしまったようです。もともとスカイマークはボーイングの機体を使っていましたので、エアバスの機体を導入することは整備負荷が高まります。かつてのJALも、日本エアバスが持っていた多種のメーカの機器に整備負荷が高まり、結果として破綻の一因となりました。その後JALは基本的にボーイングの機体に集中し、現在に至っています。エアバスのA330は若干燃費の問題はあるようですが、それでも初号機が生産されてから20年以上経っていますので、比較的改良の進んだ信頼性の高い機体のようです。しかしそれまでボーイング社の機体整備になれた整備員の負荷が高まることは予想できたにも関わらず、それを甘く見た結果があるように思われます。

 またサービスを簡素化し航空運賃を安くする、というのがLCCの基本であるにもかかわらず、その点についてのぶれも問題のような気がします。一機あたりの乗客数を増やせばコストに対する売上は相対的に高まりますので、A380のような大型機を利用してそれを実現する、というのは理解できます。 ところがスカイマークは、A380の席数を通常より少なくし、プレミアムサービスを提供することで乗客を増やそうとしました。

 しかしよく考えてみると価格性向の強い乗客は通常のエコノミーシートでより安い価格のほうが望ましいですし、プレミアムサービスを求める乗客は、高いコストを払ってでもよいサービスを提供する既存の航空会社を選ぶはずです。となるとその中間層は、ある程度のサービスを安く受けたい、という一般乗客になるのですが、この層はそれほど海外旅行をしたがるわけではない、という点を読み違えたように思うのです。私自身、ちょうどその層にあたると思うのですが、その層は海外旅行は一つのレジャーに過ぎず、年1度程度しか海外旅行にいかないと思われます。となると、仮にA380を就航しても、実際はそれほど稼働率が上がるとは余り思えません。

 ではビジネス客を考えてみると、,経費節減の折から安い航空会社を選ぶ可能性はありますし、体の負担の軽いサービスを選びたい、となるのかもしれません。しかしそういった客は就航に保証がある既存ラインを選ぶと思われますので、機材トラブル等に弱いLCCを選ぶ理由はやはり希薄に感じてしまいます。となると、足を引っ張ったA380の発注そのものが、やはり経営判断のミスといわざるを得ないように思います。

 さらに国内線に関しても、路線の確保が前提で稼働率の低さが問題です。以下に航空機やパイロットの稼働率を上げても、実際に乗る客数が少ないのであれば、やはり売上につながりません。移動の目的と背景を考えると、国内は 観光よりビジネスが優先すると思われますので、地方に産業が少ない現在、地方空港からの乗客を期待するのは甘いとしか言えないと思うのです。

 このように今回の破綻を考えると、環境変化では説明がつかない多くの疑問が残ります。となると、その意思決定のもととなったデータをどのように集め、どのように判断したかが私の最大の興味になっています。過去データを収集・分析した結果そのものに意思決定の判断を誤らせた原因があるとすると..... これは我々の問題かもしれません。そしてそれが理由となった場合に、IT業界にも責任追及が始まる可能性もあることを我々は忘れてはなりません。