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 February Second week

 Googleグラスの販売が終了しました。

 2013年に提供が始まったこのウェアラブルデバイスは、当初は画期的なデバイスといわれました。しかしそそのデザインやプライバシーの問題があるのか、それとも1,500ドルという価格の高さが問題になったのか、一般販売がふるわず今回の決定につながったようです。

 Googleグラスは、基本的に三つの機能を持っていました。一つは、カメラ機能です。静止画のみならず動画をとることもできますので、見ている風景を通してさまざまな可能性をもたらします。人の顔を映せば、顔認証プログラムで人物を特定できますし、商品を映せばその商品をネットで購入することを可能にします。目の「まばたき」がシャッター代わりになりますから、特別な操作をしなくても画像の取得が可能です。

 二つ目に表示機能があります。フレームの右側についた小さな液晶板を通して、さまざま情報を表示できます。スマートフォンのように持ち歩く必要もありませんから、歩きながら、あるいは狭い空間で画像に写る情報を読み取ることが出来ます。

 三つ目がWifi機能です。デバイスとインターネットをつなぐためにWifi機能をもっており、グラス内のメモリーと併せてさまざまな情報のやりとりが可能になります。メモリーも16ギガと十分にありますから、Android OSをあわせて非常に拡張性が高いデバイスと言えます。

 しかしながらそれだけの機能を有していても、結局今回の発売中止の決定に至りました。結果としてこのプロダクトが失敗であったことはGoogle社の幹部が認めていますが、その本当の理由はまだ分かっていません。さまざまなメディアで調べてみる限り、失敗の原因には以下のようなものが考えられるようです。

 まず一つは、価格の高さです。一応開発者向けという建前になっていますが、やはり1,500ドルのデバイスは普及するには余りに高いように思われます。同機能を有したスマホであれば、1/3以下の価格でより以上の機能を入手できますので、このデバイスに1,500ドル払おうとする強いモチベーションがわかないというのが、一つの理由のようです。しかしよくよく考えてみると、普及が見込めれば量産効果で価格は下がるはずですので、売れないと分かればGoogleは価格を下げてくるはずです。適正な価格で売れ出せばさらに価格は下がりますし、利用されているパーツ類に特に高額なものはありませんから、値段が高いから売れず、発売中止につながったというのは積極的な理由にはならないと思われます。

 次に考えられるのは、利用できるアプリケーションの少なさです。サードパーティのソフトハウスは 、このデバイスに対する新規プログラムの開発を見合わせたようで、十分な種類のソフトウェアが提供されませんでした。さまざまな機能の可能性はあっても、本当に投資に見合う回収が見込めるのか、また他のソフトウェアよりも優れた使い道をどのように考え出すか、というような点が難しかったのでしょう。結果としてGoogleグラスを持っていても基本的な機能しか使えませんから、ユーザにとってあまり魅力のある製品にならなかった可能性もあります。ただしこの点についても、デバイスの初期はこういったことがおきますから、それを予測できなかったとは考えにくいでしょう。さらにこのデバイスはAndroid OSがベースになっていますから、スマートフォン用のソフトウェアから基本的な機能は流用できたはずです。となると、アプリの少なさが積極的な理由とも考えにくいところがあります。

 その次に考えられるのは、格好悪さです。レンズの着いていない眼鏡で、目の上部に中途半端な出っ張りが来ます。ツルは鼻あてで支えていますから、レンズがついていないとそれも目立ちます。Googleグラスを装着している型はほとんどいませんから、やはり目立つことは間違いないでしょう。発売当初は装着している人から強奪する事件もありましたから、やはりいろいろな意味で目立ってしまいます。とはいえそれは、すべてのデバイスに共通することで、これも理由とは考えにくいところがあります。私も携帯電話の初期ユーザの一人ですが、購入した当初はすっかり変なおじさん扱いでじろじろ見られることが多かった記憶があります。駅などでは恥ずかしいため公衆電話の横で電話をかけていましたが、よくその後ろに列が出来てしまったこともありました。iPhoneを購入した際も、多くの型がのぞき込むように私の手元を見ていましたし、何を持っているのか興味津々といった視線もずいぶん感じました。それでもそれは普及とともに当たり前の風景になりますから、かっこの悪さや違和感が、発売中止の理由とはなりにくいように思われます。

 最後に考えられるのが、盗撮などの問題です。本人にその気が全くないとしても、Googleグラスを装着した人間がエレベータの下にいると、不安を感じる女性はいるかもしれません。内部の撮影を禁じている店舗も少なからずありますから、そういったトラブルの可能性もあります。しかしながらこれらも、スマートフォンで起きうることですから、Googleグラスだけに限った問題ではありませんから、やはり理由にはなりにくいような気もします。

 もちろんこれ以外にもバッテリーの持続時間や操作性も指摘されていますが、本当にそれだけの理由で発売が中止されたというのも私には考えにくいところです。

 本当の原因は当面分からないかもしれませんが、私自身はこの手の眼鏡型デバイスの根本問題を解決できなかったのが、原因のように思えるのです。人は手元と遠方の両方に焦点を合わせることは出来ませんし、片眼ずつ別々に焦点を合わせることも出来ません。となると、このデバイスでディスプレイを眺めると、焦点がそこに合ってしまい、前方に対する視界がなくなってしまいます。スマートフォンでもこれは起きますが、それでも歩きながら、あるいは車を操作しながらそれらを操作する人は多くはありません。ところがこのデバイスは歩きながら使うことが前提ですから、その一番重要な機能を使えないというのは矛盾が生じてしまうのです。止まって使うのであればわざわざ眼鏡型デバイスでなくスマートフォンでよいのですから、これだけの投資をしても結局大きなメリットは生まれないと判断されてしまったのではないでしょうか。

 眼鏡型デバイスは、この二重焦点の問題を解決しなければなりません。20年ほど前に発売されたSONYのゴーグル型デバイスを試した私の友人が指摘してくれた問題ですが、これだけの時間がかかっても積極的な解決方法がないのが事実なのでしょう。もちろん先日東京大学が開発した網膜照射型デバイスがその問題を解決する可能性が高いのですが、まだまだ表示画素数が低いので、十分な性能にはなっていません。となると眼鏡型デバイスも、少なくともアウトプット(画像表示)の面では、クリアしなければいけない技術的な壁が存在し、これが今回の発売中止の最大の理由のように私には思えます。

 ウェアラブルコンピュータは、今後もさまざまな形で普及していきます。この春発売が予定されているApple Watchもその一つですが、体の様々な箇所で位置取り、我々のビジネスや生活をサポートしてくれる可能性が高いです。 しかし本当に人間の体の器官と同様以上の機能を発揮するためには、まだまだ技術的に解決しなければならない問題がたくさんあります。その不便さに気付き、それをクリアするためにいろいろなアプローチが生まれる。その中で最も合理的で便利な技術が残り、さらに新しい技術が生まれる。このサイクルがウェアラブルデバイスの普及を進める原動力になることは間違いありませんから、我々ITエンジニアは数多くの豊かなアイディアを想像し、それらを実現することを求められていることを忘れてはなりません。