Seriaが業績を伸ばしています。
Seriaをご存じない方もいらっしゃるかもしれませんが、100円均一ショップ業界2位の大手企業です。もちろん業界一位はダイソーであり、3位のキャンドゥとともに全国で熾烈な競争が展開されていることはご存じの通です。業界一位のダイソーは、2014年3月期の売上3,763億円、店舗数2,800店と非常に大きいのが特徴です。Seriaも、2014年3月期の売上1,052億円、店舗数1,173店と、ダイソーの半分ほどの大きさですが、なにより特徴があるのが営業利益率です。
一般に小売業の営業利益率は2%前後といわれますが、Seriaはなんと9%もの営業利益率を上げています。ダイソーは非公開企業のなので営業利益率は分かりませんが、Seriaほどは高くないと思われます。またSeriaは年々売上と同時に営業利益率、在庫回転率を上げており、順調に業績を伸ばしていることは間違いありません。
もともとこういった100円均一ショップのビジネスモデルは、徹底したコスト削減にあります。自社発注品、業者持ち込み品、ナショナルブランドなどがありますが、すべて大量製造・大量仕入れによって1個あたりのコストを削減しています。また物流も極力大ロット一括で行うことで、一つ一つの商品あたりのコストを削減します。また広告宣伝にコストをかけませんし、少ない社員数で店舗を運営します。うちの子供も某100円均一ショップでアルバイトをしていましのでよく知っていますが、店舗運営は本当に省コストで行われますし、逆に一人あたりの労働負荷は決して低くありません。
また商品についても、粗利率にものすごく差があるのが特徴とも言えます。製造原価が10円以下のものもあれば、限界である100円を超えるものもあるようですから、相当なばらつきがあります。つまり原価率の高いものだけを選ばれると経営上非常に苦しくなるのが、このビジネスモデルの特徴と言えるのです。しかしそれを解消する工夫が、100円という単価であり、ほとんどの方がこのマジックに乗ってしまうのです。原価率の高い、逆にいえばスーパーマーケットで非常に高い値付けの商品があります。当然半額以下でしょうから、その商品に手を伸ばす方は多いでしょう。しかしその商品だけを購入するのも何ですから、ついつい他の商品も「ついでに」買ってしまいます。となると、結果として原価率の低い商品も手に取っていることになりますから、店にとっての平均原価率は低くなり、もうけが出るのがこの仕組みです。実際某100円ショップは、原価率の高い商品が売り切れるとその販売を取りやめ、より原価率の低いチープな商品に切り替えたり、200円〜500円の値付けに変更して商品を販売することで、相対的な利益を確保しています。
このような100円均一ショップのビジネスモデルをSeriaは採用していますが、その中で差別化を図っているのがPOSシステムのようです。SeriaはPOSシステムを通して、「自律仮説検証モデル」といわれる仕組みを実現しており、より高い売上を上げるレイアウトや商品の品揃えを行っているようです。これはPOSを利用することで、1000人あたりの売上数をカウントし、それを店舗や他商品と比較する仕組みのようです。
ある店舗の売り上げと他店の売り上げに差があった場合は、その販売方法やレイアウトを変更し、売上の向上を目指します。それでも伸びない場合は代替商品を手当てし、その商品を店舗から下げます。同様にすべての店舗で売上が上がらない商品はそれの販売を中止し、新規の商品といれかえていく、こういった仕組みのようです。これによって店舗内にそのエリアにあった商品をならべ、より高い売上をめざすのがSeriaのPOSシステムです。
業界一位のダイソーは長らくPOSを導入せず、各店舗に単純なレジスターだけを置いていました。したがってレジで決済する際には、「100円商品が何点」「200円商品が何点」というカウントをしており、一つ一つの商品の売り上げは把握できていませんでした。最近になってPOSを導入した店舗が増えつつあるようですが、それでもまだまだレジが残っているのが実態です。
このようにSeriaはITを積極利用することで業績を伸ばしてきた、というのは事実でしょうが、それ以上に面白いのが、やはり店舗に並ぶ商品です。恥ずかしながらSeriaの存在を知ったのは1〜2年前なのですが、その店舗や商品が特徴的であることに、かなりの驚きを覚えたのは事実です。もし訪問したことがない方は是非とも実際の店舗をご覧いただきたいのですが、他の100円均一ショップとは一線を画す、ビジネスモデルを持っていることに気づかされます。それは何かというと、付加価値高い商品をならべ、顧客そのものがさらなる付加価値を
創造できるという点です。これはこれまでの100円均一ショップとは明らかに違う特徴と言えるでしょう。
具体的にはというと、若い女性を中心とした層に受けるよう、商品一つ一つが非常に可愛らしいということです。従来の百円均一ショップのように、従来製品の廉価版というだけでなく、そこにデザインや配色といった新しい付加価値を加えることで、他社との明確な差別化を図っています。実際手芸品や製菓用品が充実しており、非常に多岐にわたる商品展開を行っていますし、食器も女性向きの明るい配色や可愛いデザインのものが豊富です。こういった品揃えは、デンマークのFlying
Tigerと同じようなコンセプトですが、Flying
Tigerの海外商品特有のおおざっぱなデザインに対し、日本の女性に特化している点がSeriaの特徴のように思います。
さらに素晴らしいのが、購入者がさらなる付加価値を高められる点です。Seriaではこれまでの100円均一ショップのような「ついで買い」の惹起から、目的に合わせた複数商品の購入が促されており、結果として顧客は自分自身で付加価値を創出できるのです。具体的には、木箱二個と蝶番(ちょうつがい)、デコレーションテープ、ドアノブを使って、オリジナルの木箱ケースを作ることが可能です。そのほかにもインテリアとして複数商品を組み合わせたり、バッグ等を装飾したりと、今までとは明らかに異なった利用目的での購入者を増やしているのがSeriaの特徴と言えるでしょう。実際Amazonをのぞいてみると、Seriaの雑貨を組み合わせた紹介書籍が複数販売されており、その人気の高さを証明しています。
このように既存商品の廉価版としてではなく、100円均一商品の新しい価値を創造したSeriaという企業には感心しますし、「自分オリジナルの」商品を購入者が自ら創出できるという点は、きわめて画期的なことに思われます。小売りという枠を越えた発想が新しいビジネスを育てるまさに実例と言えるでしょうし、その裏で精密かつ厳格に利用されいるPOSとビッグデータ分析の仕組みが、それを実現していることを我々は忘れてはなりません。