北陸新幹線が開業しました。
長野オリンピックによって長野まで敷かれたレールが延長され、とうとう金沢までつながりました。これによってこれまで東京から4時間ほどかかっていた金沢への旅が、2時間半で到着できることになりました。金沢や途中の富山への観光需要の増大が望まれていますし、帰省などの便もよくなることが期待されます。
かつて私も年に数回は金沢に出張しておりましたが、いつも羽田空港から小松空港に向かい、そこから電車かバスで金沢に入っていました。飛行機は1時間強ですが、羽田までの移動や待ち時間、小松から金沢の移動などで、結局4時間以上の時間がかかったことを覚えています。しかし新幹線の開通によって、場合によっては日帰りで出張することも可能になり、ビジネスとしての効果も非常に高まるように思えます。
実際開通した週末は多くの観光客で満席の状況でしたし、テレビや新聞などのメディアも、金沢の観光風景一色となっていました。我々の出張先として人気が一番高かったのは金沢でしたが、それは小京都といわれる街並みや観光の素晴らしさ、近江町市場の海産物を含めた土産物の多様さ、そして何より片町・香林坊界隈の飲み屋の提供する料理の美味しさが人気の秘訣でした。四季毎の海産物や加賀料理は未だに忘れられませんし、北陸の銘酒も存分に楽しめた記憶があり、いつも仕事もそこそこに繁華街に向かい、夜遅くまで飲み明かしたことを思い出します。
この北陸新幹線ですが、その歴史は非常に古いようです。東海道新幹線の開通1年後の1965年には構想がスタートしたプロジェクトのようで、さまざまな紆余曲折を経ながらその後50年かけてやっと開通にこぎ着けたようです。今後8年後の平成35年には敦賀まで延長する予定ですし、最終的には大阪までつながるようです。当面は観光需要が大きな効果を発揮するでしょうが、地震大国の日本にとって高速の移動手段が複数ルートできることは非常に望ましいことですので、今後は日本海側の動脈としての機能を果たしていくことになります。
しかし冷静に考えてみますと、ここにもまた観光地の危機が潜んでいることに気づかされます。開業から一年ぐらいは、四季折々の観光に多くの客が訪れるでしょう。現在でもキャパシティが不足している金沢は、多くのホテルの建設ラッシュとなっており、より多くの観光客の受け入れを目指すのでしょう。しかし多くの観光客は一過的なものであり、リピータとして年数回訪問する観光客はそれほど多くはないと思われます。メディアの露出中は多くの観光客が訪れるでしょうが、一年〜二年後のピークアウトの時にどのくらいの観光客が訪れるかは誰にも分かりません。とはいえ金沢は北陸の観光の要衝ですから、それなりに観光客は訪れる可能性も高いです。ところがその途中にある富山や長野などは、有力な観光資源が多いわけではないため、この危惧はつきないように思われます。
実際長野オリンピックの際に、長野の街は大幅な建設ラッシュに盛り上がりました。沢山のホテルが建ち、善光寺につながるアーケード等も大幅に改修がなされました。市内の道路は大幅に拡張され、古い家並みや多くの店が取り壊され、他の町同様コンクリートの四角いビルが増えました。予想通り新幹線の開通に伴ってオリンピック前後は非常に多くの観光客が訪れましたが、その後一年ほどで街は寂れ、開業ラッシュであふれたホテルの多くが廃業に追い込まれ空きビルとなりました。それでも新幹線の終着駅としてのメリットを享受してきましたが、今後は金沢への通過点として降車する乗客は減る可能性があります。
このことは地元のビジネスや、労働環境にも大きな影響を与えます。観光客の増加は、宿泊施設や観光施設、飲食店に大きなビジネスをもたらしますので、労働力に対する需要が増大します。仕事を求めて近隣の地域から観光地周辺に多くの労働人口が吸い上げられますから、観光地の地元経済は潤うことになるでしょう。しかし近隣の観光資源を持たない地域にとっては人口の流出を呼びますから、過疎化・高齢化が進みます。さらに観光需要がピークアウトしますと、今度はそれらの人口が余剰となり、近隣の観光地に流出が始まります。最終的に一帯の観光需要が落ち着くと、結果として職を失う人が出てきますから、それらの人材が都会に流出してしまいます。
しかし今回の長野のように再度観光需要が高まりますと、今度も労働人口が不足します。しかし近隣の地域には労働力となるべき人材はすでに流出し過疎化・高齢化が進んでいますので、それを補充することは難しくなります。観光の没落とともに結果、余剰の労働力はすでに都会に流出していますので、今度は労働力を確保する手段がなくなります。となると観光地では、十分なサービスが提供出来ず、結果として観光客を失う結果となってしまいます。この状況は現在の熱海で起きていることであり、観光客が増加傾向にあるにもかかわらずホテルや飲食店の労働力が不足しているため十分なサービスを提供出来ない、あるいは部屋が空いているもにかかわらず予約を受けられない、宿泊のみはどうにかサービスできても食事の提供はできない、といった事態が数多く発生しているようです。熱海のハローワークの求人倍率は7倍程度だそうですから、いかに労働力が不足しているかが実感できると思います。
このように大規模な交通網の整備は、地方の観光やビジネスに大きなチャンスをもたらします。しかしながら開通時とその後では客足が大幅に変わり、観光人口に大幅な増減が生まれます。それらを長期的に予測するのは難しいですから、即効性のある対策は打ちにくいのが現実です。となると我々は、そういった需要の変動に対して柔軟に労働人口やサービスを提供出来る仕組みを作り出していくしかありません。観光立国としての日本を考えると、サービスのIT化によって人的資源の省力化を図るべきですし、すべてのホテルに共通するような業務については受け皿としての全国組織のアウトソーシングビジネスを開始するなど、積極的な対策を講じるべきと考えます。逆に全国の観光地をサポートするようなアウトソーシングビジネスを展開することが、観光立国の実現に向けた我々の積極策かもしれませんし、そこには大きなビジネスチャンスが眠っているように私には思えます。