限定品が増えています。
なんのことかといいますと、コンビニ限定のビールのことです。近所のコンビニを回ってみるだけで、以下のような新製品や限定品を発見しました。
コンビニでビールを買う機会がなかったため、コンビニ限定ビールの存在に先日まで気づきませんでした。
この傾向に気づいたのは、今年の初めぐらいです。最近はほとんど外で飲む機会がないため、帰りにコンビニによる習慣がなくなってしまいました。週末の買い物は近所のスーパーになりますから、コンビニそのものに足をはこぶケースは非常に減っています。唯一熱川の海潜亭にいるときに
、街の商店街の定休日があるため仕方なく地元のファミマに行くことがあるぐらいです。
海潜亭のビールは複数種類を箱で購入するため、ネットでの注文が大半になっています。たまにスーパーでビールを見ることはあったのですが、かつては四季折々に新しい種類の期間限定ベールが並んだのですが、最近は発泡酒や第三のビールのほうに開発力をシフトしているのか、新しいビールを見かけることが少なくなっていました。もちろん定番ビールの上位バージョンの××プレミアム、というのは見かけますが、ほとんどが定番商品であり期間限定のものは売ってないな、というのが最近の実感でした。
ところがそれは誤りであったことを、出張先の宿泊施設そばのコンビニで気づかされました。一瞬地域限定販売なのかと思わせるような新しい商品が並んで
いました。商品をよく見ても、地域限定ではなさそうな商品ばかりです。そこで近所のコンビニに足をはこんでみると、やはり
その出張先のコンビニで見たような銘柄のビールが並んでいました。ということは、どうも製造元がコンビニ限定商品を出していることになります。このレポートを書くために今回セブンイレブン、ローソン、ファミマに行ってみましたが、実に多くの種類の新しい限定ビールがありました。
■コンビニ限定ビール各種
(左からGRAND KIRIN THE AROMA, GRAND KIRIN Bittersweet,
SUNTORY ROYAL BITTER, Asahi DRY PORTER, SUNTORY 金のビール, SAPPORO
ミュンヒナーデュンケル, Asahi THE ROYAL LABEL, GRAND KIRIN RICH MALT & DIP
HOP, SUNTORY THE PREMIUM MALTS MASTERS DREAM)
一通り飲んでみましたが、これまでの定番と違った様々な風味のビールばかりでした。全体的には定番品より香りが高く、こくがあり風味も濃いものが多いように感じました。値段はプレミアム製品と同様ぐらいですが、ビール好きの私にとっては満足度の高い商品に思えましたし、今後も機会があれば購入したいと思わせる商品が多かったように思います。ではなぜこういった商品が、最近スーパーの店頭に並ばなくなったのでしょうか。ここにはいくつかの仮説が思い浮かびます。
まず一つは、コンビニが自社独自の売れ筋商品を作り出すため、ビールメーカとタイアップして商品開発をしている、ということでしょう。コンビニの売れ筋は弁当や総菜と酒類ですので、ビールは強力な商品と言えます。そこで自社の店舗にしか並ばない商品があるというのは、顧客に対する訴求力は非常に高まるでしょう。事実、上記の「SUNTORY 金のビール」や「Asahi
THE ROYAL LABEL」、「SAPPORO ミュンヒナーデュンケル」は、セブンイレブンとの企画商品のようです。
次に考えられるのは、ビールメーカーがコンビニ専用のビールを造ることで、ビールのブランドイメージを高め、自社並びにコンビニの利益率を高めるということです。スーパーなどの量販店に並ぶビールは、どうしても値引きの対象となります。スーパーやネットの酒類量販店のようなお店でビールを発注すると、酒屋で購入するよりも安い価格で購入することが出来ます。つまりスーパーやネットの酒類量販店は、大量仕入れを前提に仕入価格を交渉し、安値で仕入れをしていると思います。しかしいつも安値というのは、ビールメーカーにとってはメリットが薄いことになりますし、自社のブランド力が低下することにつながります。
最近スーパーの店頭でも、いわゆる地ビールといわれるマイクロブリュワリー(小型ビール醸造所)の製品が、数多く並んでいます。有名なところですと私の近所にある「サンクトガーレン」や岩野の「銀河高原ビール」、埼玉の「COEDO」、長野の「よなよなエール(ヤッホーブルーイング)」などが、スパーの店頭でも購入できます。しかしそれらは350mlで300円〜500円しますので、ビールメーカの定番商品よりははるかに高い付加価値をもっていることになります。
となると、やはりビールメーカは高付加価値商品を売ることでこれらのマイクロブリュワリー製品と対抗する必要がありますし、それは結局メーカーのブランド力向上につながります。さらにコンビニは一般的に大きな値引き販売をしませんから、相互の利益拡大にもつながります。このような理由で、ビールメーカー各社がコンビニ向け商品を増やしていっているのでしょう。上記のうち「Asahi
DRY PORTER」や「SUNTORY ROYAL BITTER」、「SUNTORY THE PREMIUM MALTS
MASTERS DREAM」などがこれにあたるようです。またキリンの「GRAND
KIRIN」シリーズは、セブン・イレブン、ローソン、ファミリーマート、サークルK・サンクスのそれぞれ毎に独自のフレーバーの商品を販売していたようですから、コンビニ向けの高付加価値商品を本気で指向しているようです。
そして最後に考えられるのは、ビールのマーケティング力を高める意味で、独自商品をコンビニに向かって開発しているということです。コンビニは若者の購入者が多いですから、今後の市場を担う若者が多く訪れます。もちろん仕事帰りの女性も数多く訪れるでしょうから、スーパーに比べ男女ともより若い世代の嗜好をつかむ絶好の機会です。
全国の量販店向けに商品を企画・製造すると大量生産となりますから、企画に失敗すると多くの売れ残りを生み、最悪ブランド力の低下につながります。事実大量生産された商品はスーパーに並びますが、そこでの購入者は味覚やブランドに保守的な中高年層でしょう。となると、やはり手慣れた定番商品を並べた方が損失は少なく、確実に販売量を確保することができるのかもしれません。
ところがコンビニあれば、多少の冒険は可能です。スーパーマーケットなどで売れるほど一般性が内商品でも、期間限定でコンビニだけにならべるのであれば、様々なフレーバーや製法にチャレンジできます。もちろん製品のターゲットも若い女性など特定の層に絞ることも出来ますし、日々の売上量を把握することができますから気候や休日、さまざまなメディア露出との因果関係を分析しやすいともいえます。さらにそこで確実な売上を上げることが出来れば、消費者の傾向や好み、嗜好をダイレクトにマーケティングできますから、ビールメーカにとってのメリットはかなり大きいと言えます。
どの仮説が正しいかは私には分かりません。しかしこのような傾向が、ビール以外の商品にも広がる可能性はあります。マスマーケティングに限界のある今、こういったマーケット手法が充実していくのでしょうし、その裏にはタイムリーかつ確実なデータ分析が必須です。販売量やエリアだけでなく、個々人の嗜好や行動、そしてなにより時代の変化をつかんでいくことが、これからのモノ作りに重要な要素となることは間違いありません。それをどうやってタイムリーかつ精密に捕捉するか。ビッグデータのその次は、ここにヒントがある気がします。