マクドナルドの業績悪化が止まりません。
今期の最終赤字は380億円で、二期連続の赤字のようです。昨年は218億円の赤字ですから、業績の不振は深刻のようです。これに伴い全国で130店あまりの店舗の閉鎖が決定したようですし、希望退職も募るようです。マクドナルドが再生するまでには、まだまだ苦難の道が続きそうです。
日本マクドナルドは、昭和46年に銀座で第一号店を開業しました。アメリカのハンバーガーチェーンであるMcDonald'sのシステムに興味を持った貿易商だった藤田田氏がフランチャイズ契約を結び、日本でチェーンショップとして成長してきました。それまでなじみのなかったハンバーガーという食品を日本人に認知させた功績は非常に大きく、1980年代に全国に展開されていきました。その後もセット商品などの新しい販売形態を生み出し、バブル崩壊後もデフレの勝ち組として成長を続けました。しかし2000年代に入って成長も止まり販売不振が続いたため、日本の創業者となる藤田田氏との関係を清算し、アメリカ本部主導のビジネス展開を行いました。藤田氏の腹心が二年ほど社長を続けましたが、その後日本アップル社から原田泳幸氏を招き経営を一新しました。
原田氏は従来のビジネスモデルを大幅に変更し、直営店とマクドナルドOBによるフランチャイズ方式を改めました。直営店は外部のフランチャイズに売却し、その比率を7:3から3:7まで変えていきました。直営店の売却益はでたものの、これによってマクドナルド方式に慣れないフランチャイズが増え、結果として店舗運営の品質が低下しました。さらに藤田氏の作り上げた教育システムもほぼ破壊してしまい、優秀な店長やエリアマネージャがそだちにくい環境を作り出してしまったようです。さらに藤田氏の経営を支えた腹心の取締役を次々更迭し、アメリカ本部の意向で徹底的な合理化を図ったようです。
売上と利益追求のために内部コストをさげ、さらに店舗を24時間化することで売上の増大を狙いました。商品提供のスピードアップを追求し、メニューの廃止や即時オペレーションの徹底などを行っていきました。しかしながらこれらの施策によって店舗は徐々に荒れ始め、統制の効かないフランチャイズ店の品質が徐々に下がり始めます。アルバイトや店員のモラルも低下し、効率化のかげて調理や清掃の手抜きや店舗のホスピタリティの低下がおき、結果として売上を落としていったようです。結果として各店舗で発生した異物混入という事態を引きおこしていますし、これは店舗の管理水準の低下、ならびにアルバイトや社員のモラリティ低下の結果であることは間違いありません。さらに最近では強引に喫煙を排除したため、サラリーマンの午後の喫茶店需要も失ってしまっていますし、どうもビジネスの方向が定まっていない印象が強いです。
このように、今回の売り上げ不振の背景には、藤田氏引退後のマクドナルドの施策に大きな問題があり、それが異物混入騒ぎという形で露呈したに過ぎない、というのが今回の真実のようです。
私自身ほとんどマクドナルドは行きませんが、数年前、顧客のそばのスタバがなくなってから数回利用したことがあります。そのとき感じた店舗のひどさには、さすがに驚きました。まずはソファーのビニールが至るところで破け、ガムテープで補修してあったことです。さらにペーパーナプキン立ても壊れており、ゴミ箱周りも非常に汚い印象でした。昔のマクドナルドならあり得ない店舗レベルであり、他のチェーンのハンバーガーショップでも見かけない風景でした。
これが郊外店ならば、荒れた若者の仕業と考えることも出来るのですが、23区内のビジネス街の有名駅前の店舗ですから信じられません。朝食時間で賑わってはいましたが、この店舗の荒れ方はそう短期に起こりえることではありませんし、逆にビジネス街の繁盛店で長期間このような状態を放置しておくのも非常に奇異に感じます。
今回の経営状況を考えてみると、2000年以降のアメリカ主導になってから徐々に積もってきた問題のように感じますし、米国も日本と同様売上を大幅に落としていることから、マクドナルド全体の問題といわざるを得ません。
原田氏の後任としてCEOについたサラ・カサノバ氏の手腕も、疑問視されています。カナダ出身のカサノバ氏ですが、MBA取得後各国のマクドナルドで手腕を発揮し、日本マクドナルドでもメガマック等のヒット商品のマーケティングにかかわっていたようです。その後シンガポールで手腕を発揮した後、日本マクドナルドのトップを原田氏から引き継ぎました。しかしその後の対応を見る限り、米国流のやり方を日本で強引に押し通しているだけで、日本の消費者に会った経営を出来ているかはかなり疑問です。異物混入騒ぎの際にも当事者としての説明を行わず、生産工場の品質管理の悪さを指摘するだけで、多くの日本人にとっては責任回避ととられてしまいました。
ハンバーガー業界そのものは、決してビジネスチャンスがなくなっていません。事実アメリカの大手チェーンであるカールス・ジュニアは先日再上陸を果たしましたし、数年前にはバーガーキングやウェンディーズも日本に再参入しています。新規にシェイク・ジャックなどの企業も上陸していますから、プレミアム路線はむしろこれからの状況です。
しかしマクドナルドは廉価なハンバーガーとしてのイメージが強いですし、いったん地に落ちた品質イメージを元に戻せるかは疑問です。とりあえず非採算店を閉鎖し、残った店舗は新しいスタイルに改装することになっています。しかしいったん設備投資を行っても、それを維持向上するモチベーションが低ければ数年で同じ結果を将来するでしょうし、店舗管理の問題が大きいとすれば、日本の事情にあった新しいチェーンオペレーションのあり方を考えなければなりません。しかしながら低価格低利益のなかでそれを行っていくのは非常に困難でしょうし、高級路線に転換するのも現在の店舗数では不可能に近いと思われます。
日米を問わず、マクドナルドの苦難の道は始まったばかりのようです。