Onomura System Consulting Office       

osco top


Weekly report
next

back

 

 

 

 

osco top

 July First week

 音楽配信のビジネスがいよいよ佳境に入りました。

 先日発表のあったアップルミュージックは、定額制サービスと開始後3ヶ月の無料配信で話題になりました。しかし米国のミュージシャンから無料配信時に配信された楽曲の著作権料を払わないと指摘され問題になりましたが、即時に著作権料を支払う意図をSNSで発表するなどして、定額配信が健全なサービスであることを訴えています。

 日本では、エーベックス社とサイバーエージェント社が30日にAWAというサービスを発表し、話題になっています。アップルの配信曲数は3000万曲と圧倒的な規模を持っていますが、AWAは国内を中心に500万曲をそろえる予定であり、今後のビジネスが注目されます。

 エーベックス社が自社でシステムを開発することなくサーバーエージェント社と組んだという点が非常に興味深く、今後の音楽配信の姿が垣間見えてきます。つまり単なる音楽配信と定額課金であればそれほど難しいシステムではないので、わざわざ外部IT企業と組む必要がありません。自社のホームページ等の制作を行っているIT企業に依頼するか、クラウドの仕組みをもっている海外業者と組めばそれですむように思われます。ところがサイバーエージェント社のように新しいIT企業と組んだのは、新しいサービスを指向している結果と思われるのです。

 例えば音楽の配信を受ける環境として、自動車の中があります。今日は日帰りの観光で景勝地に向かいますから、ナビゲーションのセットを行います。ドライブ中は車載の時計やライト点灯装置の照度センサーで、周りの明るさや時刻がわかります。GPSによれば、海沿いのハイウェイを走っているようですし、目的地や日付を考えるとドライブのようです。音楽デバイスの持ち主はジャズが好きのようですし、どちらかというとスローなアコースティックなものが好みです。となると、スピーカーからはピアノをベースとしたスローなメロディ、例えばマイ・ファニー・バレンタインが流れてくる、といった仕組みをおそらく考えていると思われるのです。つまり視聴者の好みやTPOを捕捉して、最適な曲を流す、その中で反応をあった曲をベースにより好みの選曲を行う、といったパーソナルなDJ機能をもった配信サービスのようなものを構築していくのだろうと想像できるのです。

 しかしこれまでも申し上げてきたとおり、日本の音楽業界はCD等のアルバム収入で成り立ってきた経緯があります。人気曲が収録されたアルバムが売れることで、収録された他の曲分の著作権料等が入ってくるため、アーティストはビジネスとして音楽ビジネスを行ってこられました。しかし音楽配信が中心となると、ダウンロードされた一曲のみの収入となるため、ビジネスとして成り立たせることが難しくなります。作詞・作曲の著作権料全体の市場規模が小さくなることも考えられますし、海外アーティストとの競争も激しくなるのでしょう。好みの曲を自動的に選曲する、となると、配信者の恣意的な選曲も可能になりますから、配信会社によりサービスを提供する歌手やプロダクションの曲が優先される可能性もあります。

 しかしながら裾野で考えてみると、過去の時代より音楽を一般に配信する手段が増えたため、多くのアーチストが従来に比べ参入しやすくなったのも事実です。インディーズでCD等を発表するだけでなく、ネットの動画配信サイトや音楽配信サイトを使って音楽を発表することもできますし、そこでの人気がプロへのサクセスストーリーとなることも十分に考えられます。
 このように音楽配信の定額化は、音楽業界にさまざまな可能性と問題をもたらします。全員の幸福は難しいとしても、聴取者、配信業者、音楽家のすべての人々に不利益が少しでも少なくなるような仕組みを、今後も考えていく必要があるのでしょう。

 しかし最近の楽曲を聞いてみると、年を取ったせいか歌い継がれる名曲が減っており、音楽そのものが消費の時代に入っているようにも思われることも事実です。サザンオールスターズの「愛しのエリー」は1979年のヒット曲ですが、いまだにカラオケで歌い継がれる名曲です。何と35年以上も歌い継がれていることになりますし、著作権収入は膨大な額となっていることは想像に難くありません。こういった曲の出現を妨げているのが、現在の音楽市場の問題なのかもしれません。

 歌い継がれる名曲が、適切なタイミングで流れてくる。その中に新しい曲が入り、聴き手の感性をより育て、豊かな感情が生まれる。そんな仕組みの出現を、楽しみに待っていたいと思います。