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 September Fourth week

VWが揺れています。

 事の発端は9月18日に米国環境保護局から発表された、環境基準に適合させるようVWのディーゼルエンジン車に「無効化機能:ディフィート・デバイス(Defeat Device)」というプログラムを搭載していたということでした。

 ご存じの通りディーゼルエンジンは軽油を利用するため、ランニングコストがガソリンに比べて安くなるメリットがあります。ただしディーゼルエンジンは、ガソリンエンジン同様CO2を排出するだけでなく、多くの窒素酸化物や粒子状物質を排出します。これはスモッグの原因ともなるもので、人間の健康にも多くの影響を与えます。したがって欧米や日本などの先進国では、年々ディーゼルエンジンに対する規制を強めてきました。これに対して自動車メーカーは、各種の触媒やメカニズムを利用して窒素酸化物の低減と吸収を行うことで、厳しくなる環境基準をクリアしてきました。この問題に対して日本の自動車メーカーは燃焼効率を高めることで、窒素酸化物の吸収が基本的に必要がなくなるようなシステムを考案し普及させていますが、海外メーカは基本的に、窒素酸化物を後処理として吸収する方法をとってきたようです。

 しかしこの窒素酸化物を吸収するシステムは、エンジン性能の低下を招いてしまうことが欠点です。加速が落ちたり馬力が下がったりと、自動車の基本性能そのものに影響してしまうようです。そこで今回の問題が発生してしまいます。

 自動車の環境基準検査は、自動車メーカーから提出された特別仕様車で行われる訳ではありませんから、特定の車両だけに不正プログラムを組み込むことは不可能です。そこでVWは、ディーゼルエンジンを搭載した車すべてに不正プログラムを組み込み、プログラムが試験走行と判断した場合のみに窒素酸化物を吸収するシステムを起動させ、その他の通常運転時にはそのシステムをカットするようにしていたようです。

 この事実に気づいた米国環境保護局は1年をかけて徹底的に分析を行い、今回の不正が明らかになったようです。当初はVW側も強く否定していたようですが、その後の検証で不正が事実であることを認めたようです。この件で米国は環境保護局は、最大180億ドルの罰金を課すようですし、今後はユーザによる集団訴訟が頻発しそうな雰囲気であるため、VWは非常に大きなダメージを受けることは間違いありません。飛び火は自動車メーカー全体に及んでいますし、場合によっては他社のシステムでもこのような不正が発見される可能性もあるため、今後の動向が注目されます。

 今回の件は、米国におけるVWの環境車のシェアを拡大しようとする思惑があったように思われます。米国の環境基準は欧州に比べて非常に厳しいようであり、そのため欧州の基準で販売できる車両も、そのままでは米国では販売できないことがあるそうです。となると、環境車の市場は日本の自動車メーカーが持つハイブリッド技術に占有されてしまうため、その打開策として今回の不正が発生したようです。

 私にとって非常に興味深いのは、自動車のさまざまな機能はコンピュータプログラムで制御されているということであり、その工夫によっては今回のように試験と実際の走行の違いですら割り出すことが出来る、という事実です。ユーザーの利用状況に応じて最適な出力や燃費を計算し、環境に優しく燃費のよい走行状態をプログラムそのものが作り出せるのが、現在の多くの車です。しかし一旦何らかの悪意を持てば、今回のように試験走行を割り出し、そこに不正ができるということが、私には非常に恐ろしく感じられました。

 たとえば高級車両で、その車が大企業や観光庁の駐車場に止まっていることをGPSから判断できます。搭載重量から通常2名以上の乗車が判れば、おそらくは公用車や社用車で運転手付きの役職者が乗っている可能性が高いことが判ります。となると、先日の自動車に対するハッキングのように誰かが悪意を持ってプログラムを書き換えれば、テロや犯罪を自動的に起こすことが可能になるということです。

 このようにセンサーがあらゆるモノに組み込まれ、そこで様々なコンピュータプログラムを介した動作ができるようになると、善意・悪意を問わずこれまで予想もしなかったようなことができるようになります。さらにその手口は巧妙に画すことができ、一般の人が気づかないうちにさまざまな動作を行ったり、情報を送ることが可能になります。我々エンジニアは、その新しい時代に向けてもう一度自らの倫理観を見直すだけでなく、想像すらしなかった事象を想像し、よりよい社会のためにさまざまなアイディアを積極的に出さなければなりません。