三社の事業統合が噂されています。
先日の新聞により、ノートPC事業を有する富士通、東芝、VAIOの三社が、パソコン事業を統合する動きがあることが報じられました。翌日には各社とも統合を否定していますが、どうも具体的な動きはあるようです。
私がコンピュータの触れたのは高校生の頃であり、当時はマイコンと呼ばれていました。時代は1970年代であり、NECが発売したTK−80などが当時の少年の心をわしづかみしました。明けて1980年代からは、シャープのMZ−2000や富士通のFM、Appleコンピュータなどが一気に発売され、回路むき出しのTK-80とは違う、現在のデスクトップパソコンの原型のような姿で普及を始めました。もちろん価格は非常に高く、大学生でも2〜3ヶ月アルバイトをしないと買えないほど高価なしろものでした。
私が社会人になった80年代半ばには、それまでの8ビットパソコンの性能を遙かに超える16ビットパソコンが発売され、ビジネスの世界でも使われるようになりました。この頃に8ビットのPC−8800の後継機である16ビットのPC−9800シリーズが発売され、日本のパソコン市場を席巻していきました。80年後半には可搬型のラップトップPCが発売され、80年代末にはさらに小型化されたノートPCが、東芝からDynabookという名称で発売されました。J−3100SSという機種でしたが、駆け出しのコンサルタントしてずいぶんこの機種にはお世話になりました。今思えばハードディスクの搭載はなくMS-DOSを焼いたROMとフロッピーディスクしかついていない機種でしたが、それでもラップトップに比べ半分以下の重量であり、鞄の中に常にPCが入っている状態が始まったのはこの頃であったことを思い出します。
90年代にはDOS/Vという新しい波が押し寄せ、誰でも気軽にPCを組み立てることが出来る時代になりました。国内市場の大半を握っていたPC98の牙城が崩れだし、多くのPC企業が参入してきました。さらにPCを身近にしたのはWindows3.1というOSであり、COMPAQやGATEWAY、DELLといった海外PC企業もこの時期に数多く日本に入ってきたように思います。
同時にインターネットが普及し、一般家庭にもPCが買われるようになり、ビジネスや趣味の世界から一気に消費財になっていきます。さまざまなソフトの価格も安くなり、多くの人が使える環境になったといっても過言ではないでしょう。こうして世の中は電子化していき始めます。
同時に90年代には携帯電話も普及を始め、廉価機としてPHSも普及しました。当初は電話機の牛か持たなかった携帯電話でしたが、90年代末のiモードサービスの開始とともに、ネットワーク端末としての機能も持ち始めます。PCに比べて簡単な機能やプログラムしか動きませんでしたが、重たい機器を持ち運ばなくてもさまざまなサービスが受けられるようになり、多くの端末が対応機種に買い換えられました。
2000年代に入って、こうした高機能な携帯電話が次々発表され、現在のスマートフォンの原型ができあがっていきます。この時代には、シャープがザウルスというPDAで培った技術を使ったZERO-3という機種を販売し、一世を風靡しました。携帯電話の通信機能に加えて電子手帳機能をもった端末であり、その機能の豊富さと利用範囲の広さから、スマートフォンの原型といってもいい機械だった記憶があります。その後2000年代後半にいよいよiPhoneが発売され、携帯電話がスマートフォンへと変化を向かえます。Android携帯も発売され、現在のスマホ隆盛期が生まれて現在までその時代は続いていると言えます。
2010年に入っていよいよiPadが登場し、タブレットPCなる機械が世の中に普及を始めます。ノートPCのようにキーボードは持ちませんが、最初からスマホ同様に通信機能を持っており、その可搬性の高さと操作性の良さから、さまざまな分野で活用が始まります。当初はスマートフォンとの棲み分けのために大きな画面を持っていましたが、その後は利用価値の高さから大型化が進んでおり、iPadもProという名称で13インチのものを発表し、Surfaceも12インチ強の機器を発売するようになります。この画面のサイズはノートPCと遜色はなく、今後はノートPCの最大サイズである15インチクラスのタブレットPCが提供されることも間違いないのでしょう。
こうして過去を俯瞰してみると、大きな流れが見えてきます。つまり1980年代に生まれたPCは、30年以上の時を経ていよいよ終焉を迎えているという事実です。正確にはデスクトップPCは20年間、ノートPCも20年感で隆盛の時期を終えたということです。かさなる時期があったとしても、確実にその隆盛期は通り過ぎ、2010年代にはその主役の座を終えたと言うことなのでしょう。逆にその主役として名乗りを上げたのがタブレットPCであり、この流れは止められないでしょう。iPadユーザであった私も、先日Windows10が動くタブレットPCを購入しましたが、正直タブレットなのかPCなのかの区別が付かないような製品であることを痛感しています。つまりノートPCでしかできなかった企業でのプレゼンテーションも、パワーポイントを利用して問題なく実施できるようなり、その重さが400gぐらいと非常に軽量ですから、ヘビーな仕事をこなそうとしない限りこれでまったく問題がなくなってしまったのです。
このようにPCを凌駕する機器が登場し発展している以上、PCがこれ以上の隆盛を誇ることは不可能でしょう。名前は何であればタブレット化していくのでしょうし、そうなるとPC事業そのものは完全に終焉を迎えることになります。こう考えてみると、冒頭の三社による事業統合も可能性が高いと思われますし、統合しても結局はそのまま存続することは不可能であることに気づかされます。
私の個人的な希望を述べれば、三社が統合しもういちどエンジニアが新たな夢を見ることです。スティックPCが登場したように、これまでとは違った形での生き残りを考えると、ウェアラブルデバイスのハブとして機能する可搬型機器としての未来は残されている気がします。タブレットとの競争に消耗戦を仕掛けるではなく、新たな夢を描いてそれを実現するためにPCというコンセプトを利用する。これ以外に、三社統合の行く末はないのではないかと私は考えています。