日立製作所は、4月1日から情報・通信システム社(通称:マル情)を解体することを正式に決定しました。解体後のマル情は、それぞれの事業部門と融合し、すべての事業でITを融合したサービスを提案営業していくようです。その上でそれぞれの事業を支えるユニットを統合し、サービス&プラットフォームビジネスユニットとして再統合し、すべての事業のインフラとしてITを利用していく考えのようです。
元々マル情は、日立製作所の顧客のシステムを請け負ってきました。その売上は2兆円強であり、日立製作所の中では社会・産業システム部門と並ぶ稼ぎ頭です。その部門を解体してでも各業種を担当する部門と融合することで、ITを利用した様々な機器やサービスを統合的に提供する体制に変革するようです。その成否は今後の興味となりますが、これだけ大胆な取り組みを行わなければならないぐらい、強い危機感を日立製作所は持っていることになります。
これまでも再三このページにてご説明してきたとおり、情報技術が電力と並ぶ産業のインフラになることは間違いありません。もちろん生活にも様々な形で浸透し、それは今後も進み続けるでしょう。今後起きるであろうイノベーションも、何らかの形で情報技術を利用せざるをえないでしょうし、それを使わずにイノベーションを起こすことは不可能と断言しても過言ではありません。情報技術を直接提供する企業であれば単独でビジネスを行うことは十分に考えられますが、日立製作所のようにさまざまな製品やサービスを提供している企業とすると、この状態で情報技術を単独で商材とすることは、全社的なシナジー効果を埋めないことになります。
逆に今回のように再編することで、さまざまな製品・サービスを組み合わせる仕組みや基盤として情報技術を提供出来ますし、単独では成しえなかったさまざまな範囲を網羅したサービスを提供することが可能になります。またそれが大きな仕組みであればあるほど、その後の運用コストも稼ぐことが出来ますから、非常に大きな見返りがあることになります。そして最終的にはイノベーションの起点として情報技術を担当する人間がアイディアを提供し、それを実現する仕組みとして製品・サービスが開発されるようになれば、世界でもまれに見るイノベーションカンパニーに変革することが可能になるかもしれません。
このように今回の再編は、すべての業界に波及する大きな動きの起点となる可能性があるため、私は期待と興味を持ってこの成功を見守りたいと思っています。
こうして考えてみると、いよいよ情報技術の役割が大きな転換点を迎えてきているように思えてなりません。これまでのIT部門は、企業内の各部門の様々な業務要求をとりまとめたり、効率化のためのシステム改変を行ったり、既存システムの保守を行うといった側面が強かったと思われます。ずいぶん昔から、言葉では戦略的に情報システム部門を利用したい、という企業は多かったと思いますが、本当の意味でそういった利用を実現してきた企業はほとんどなかったように思われます。従前から申し上げているとおり、情報システム部門が各部門から具体的なニーズを聞き出してシステムを構築・更改する「御用聞型」のビジネスモデルが続いてきたように思うのです。
ところが今回の件は、いよいよさまざまな製品・サービスの融合点として情報技術が本格的に使われるようになる可能性があります。具体的なビジネスに組み込まれることで、これまでのように御用が出来てからシステム化を具体的に検討するのではなく、さまざまなビジネスにおける商材を融合させ、新しい仕組みを顧客に提供するイノベーションの起点として、情報技術が使われる可能性が高まったのです。さらに申し上げれば、その過程で新たな製品やサービスが必要となることから、新しい製品やサービスの開発起点としても情報技術が働きかける可能性すら出てきたように思われます。
となると、これが成功すれば、いよいよSIerを含めた大きな構造改革が起きる可能性がでてくるように私には思えるのです。前述したとおり、これまでのSIerの大半も、顧客企業の具体的ニーズをIT化することがそのビジネスの中心となってきました。平素私が喧伝しているとおり、具体的ニーズをIT化するのであれば、単価の安いオフショア企業のほうが絶対的に有利です。すなわち御用聞型産業としてIT業界が変化しないのであれば、早晩我々の仕事はなくなることは間違いないのです。しかし今回をきっかけにSIerが本格的にビジネスのイノベーションを起こすアイディアを出せるようになれば、日本のビジネスに精通し様々な情報技術の利便性を体感している日本のSIerにこそ、絶対的なアドバンテージが生じる事は間違いないのです。
もしそれが一部のSIerに留まったとしても、多くの事業会社のIT部門がこれに気づいて自らのスタンスを変え始めれば、間違いなく日本のビジネスは変わります。これまで見たこともない新しい仕組みやサービスが次々と提供され、まさに2020年には世界の誰もが想像できなかった新しいスマートシティが動き始めているのかもしれません。
今回の件を、どのぐらいのSIerの経営陣や一般企業のCEOが本気で考えられるのかは私には分かりません。しかしその出現率が低ければ、私の予言であるIT業界に属する企業数は現在の1/3になる、という予言が当たってしまう可能性が高まります。反対にこれに危機感を感じて自らを変革させようとする企業が数多く現れたのであれば、日本のIT産業は当面安泰なだけでなく、世界の旗手になれる可能性も十分にあると私は考えています。