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Weekly report

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 February Fifth week

 遅れましたが二月最後、それも閏日の更新です。

 シャープが再建策のパートナーとして、鴻海を選びました。産業再生機構の分割案ではなく、一括救済策を提示した鴻海を選んだことで、東芝のような事業の切り売りをすることなく、再建を図るようです。ただし以前もこじれた鴻海との交渉ですから、今後も様々な障害が予想されますし、本当に一括再建が図れるのは予断を許さない状況です。

 ご存じの通りシャープは、早川式操出鉛筆を発明した早川氏が大阪に起こした総合電機メーカーです。早川式操出鉛筆はシャープペンシルと呼ばれ、現在の社名の起源となっています。その後戦争中に通信機でその勢力を伸ばし、戦後に総合電機メーカとして成長してきました。それでもSONYや同じ大阪起源の松下電器とはその差を詰められず、戦後しばらく二流家電メーカーの地位で甘んじてきました。その昔は三菱や日立の方々はシャープ製のテレビを「温泉テレビ」と揶揄していたようですが、一流家電メーカーのテレビは一般家庭に普及しても、シャープのテレビは受け入れられることなく、結果として安宿の部屋のテレビが主たる市場であった時期もあったようです。

 しかし「目の付け所がシャープでしょ」というCMもあったように、電卓で磨いた液晶技術がシャープを一流家電メーカに押し上げました。テレビで強かったトリニトロンのSONYは、4:3ブラウン管からワイドブラウン管へ時代は変わると市場を読み、WEGAという最高峰のワイドブラウン管テレビを生み出しました。その技術水準の高さから圧倒的に普及し、他のワイドブラウン管テレビは市場を大きく失うことになりました。しかしシャープはワイドブラウン管に投資することなく液晶技術に投資を行い、当時はあり得なかった薄型の小型液晶テレビを開発します。画面は小さく非常に高価であったもののその薄型と商品性能の高さで市場を大きく獲得していきます。当初は高かった液晶盤も量産効果が生まれ、大きさと反比例して値段が下がり、あっという間にワイドブラウン管市場を奪っていきました。

 その後パナソニックのプラズマディスプレイとの競争にも勝ち、液晶テレビ市場で圧倒的な強さを見せつけました。ちなみにそれによって大打撃をうけたSONYは、液晶テレビのプロジェクトの立ち上げの際、シャープの液晶テレビを追撃する意味でプロジェクトBRを立ち上げます。つまりシャープの液晶テレビの製品名であるAQUOSを一歩越えるために、アルファベットのAQを一文字ずらしたBR(A→B、Q→R)としたそうです。

 しかし徐々に他メーカ、特に海外メーカーの追撃が始まり、シャープの優位性は失われていきます。逆に日本での生産にこだわったため、海外製品との価格差が大きくなり、シャープは苦境に陥ります。さらに液晶での成功体験が強かったため、液晶事業を縮小したり他社へのOEM供給なども十分に行えず、結果として巨額の赤字を生んでいくことになりました。さらに起死回生策として講じた太陽電池パネルも採算がでず、結局外部の力に頼った再建を行わざるを得ない状況になりました。

 一度は鴻海による出資に合意をしたものの、シャープの経営内容に疑問を生じた鴻海側が出資を取りやめ、問題はこじれました。今回は鴻海による全面買収と産業再生機構による事業の分割・売却による再建案とで経営会議を二分しましたが、産業再生機構の二倍の出資額を経営陣は選んだようです。しかしその履行を前にして、前回同様シャープの経営内容に再度疑義が持ち上がり、すんなりと出資という形にはなりそうもありません。下手をすると鴻海側は、シャープの持っている価値ある技術のみを取り上げ、その後は事業縮小や売却も考えられますから、経営陣の思惑通りに再建が進むと考えるのは楽観的すぎるように思われます。

 これらのシャープの失敗は、市場環境の変化だけとは言い切れない可能性が高いように思われます。やはりイノベーションのジレンマ通り、その成功体験を忘れられなかった経営陣の迷走が今日の状況を生み出しているように思いますし、その結果として雇用されている従業員の運命も翻弄されているように思われます。

 シャープで起きていることは、今後IT業界でも十分に起きうることと私は考えています。人月による精算と多重の下請けによる買差で利益を出してきた多くのIT企業は、明日のシャープの状況です。そこに雇用されている多くの従業員の職も、残念ながら世界競争の中であっという間に失われてしまうのが近未来の予想です。だからこそ、まだ余力のある今のうちにIT業界はイノベーションを起こしていかなければなりませんし、それが不可能であるのなら、2/3のIT企業は確実に消滅することを我々は忘れてはなりません。

 IT企業の経営陣が一日も早くこのことに気付き、事業構造や人材育成を劇的に変革させることを心から願っています。さらに優秀な経営者を創出することが、日本にとって急務です。