国土交通省が17日、6月からミラーレス車の公道走行を認めることを決定しました。これによりサイドミラーやルームミラーがなくある、あるいはモニターに置き換わる車が次々と発売されるようです。
自動車を運転中に車線変更する場合、変更する側の車線に車がいるかを確認する必要があります。例えば高速道路で走行車線を走っている場合、追い越し車線に車線変更する際には右側の高速車線を走ってくる後続車両との位置関係に注意しなければなりません。その際自分の車の右後方を走っている車を確認するためには、車内のルームミラーをみればその存在を確認できます。しかしルームミラーは自分の車のはるか後方しか映らないため、自車の右側側面近くの後方を走っている車を認識することはできません。そこで運転者はドアについているドアミラーを使って後方を確認しますが、これも万全ではありません。ドアミラーの死角の真横近くにバイクなどの小型車両が走っているとその存在に気付かず、車線変更をしてしまう可能性があるからです。そのため教習所では、首を回して目視で後方を確認することを教えます。
ところがこの方法にも、問題があります。右後方を目視で見ようとすると、ドアピラー(窓枠)や屋根を支えるピラー、そしてシートベルトそのものにも視線を遮られ死角が生まれてしまうからです。さらにそれらを避けるためには、首の位置を横にスライドする必要がありますが、そうなると前方を注視していない時間が長くなります。これでは車線変更に気を取られ前方の車とぶつかったり、前方を意識することで後方の注意が怠り車を擦ったりする可能性がでてしまうのです。
このような問題を解消する目的で導入されるのが、今回のミラーレス車です。もともとルームミラーに死角があるのが問題ですから、ルームミラーを液晶モニターに変更し、ドア両側につけたカメラ映像を合成して車の後方全体を写すようにするのであれば、ドアミラーは不要で安全に運転することができるようになります。さらにいえば、カメラの位置はドアである必要もないため、車のデザインがよくなり空力特性もよくなるでしょう。もっといえば、現在は確認しにくいドアの真下や車後方の真下など車の死角部分が事実上なくなるでしょうから、運転の安全性はより高まることになります。さらに自動ブレーキや自動運転、各種警告装置を搭載すれば、これまで数多く起きた自宅のガレージ付近で小さい子をはねるといった事故も確実に解消できるでしょう。
こういった電子化された装置によって、自動車の安全性は年々高まっています。前方のピラーも右左折時の死角になることから、ここに液晶モニターをつけようとするメーカーもあります。車のドアを含めて壁面や天井が全てモニター化されれば、日焼けや風の心配のないオープンカーを作ることもできるようになりますから、いろいろな意味で楽しみになるかもしれません。(もちろん見る位置からの角度をどう考えるかは今後の課題でしょうが…)
しかしこういった風潮が強まれば強まるほど、我々は新たな問題に気付かなければなりません。というのもこういった情報技術が満載された車に慣れた運転者は、旧来の車の運転が相対的に下手になるということなのです。私が若かりし頃は、オートマチックのミッションが付いた車は、非常に稀でした。車はマニュアルが基本であり、高級なオプションとしてオートマチックミッションがあったのです。私でいうと、結婚の際家内が持ってきた車がオートマチックであったためそこで初めて運転するようになりましたが、便利である反面クラッチのないバックなどずいぶん戸惑ったことを覚えています。
しかし何より驚いたのは、数年後兄の車を借りた時に、満足にクラッチが踏めない自分がいたことです。前進は問題がありませんが、バックの際についついクラッチを踏み忘れ、ギアがいれられないのです。
このような経験は、マニュアル車で育った我々世代の人間は、間違いなく体験していると思います。恐ろしいのは、これと同じことが今後さまざまな車で起きる可能性が高いということです。私自身来週いよいよ半自動の車が納車されますが、家内の車は旧来の手動の車です。ブレーキのアシストもなければ、バックモニターもありません。となると、半自動の新車に慣れた私は、今後満足に家内の車を運転できるか非常に疑問を持っています。もちろん家内も私の車を使うでしょうから、私以上に家内が自分の車で事故を起こす可能性は高いと思うのです。
技術の変革期には、こういったことがつきまといます。未だに電話をかけるジェスチャーを、ダイヤルを回すポーズをする中年(初老?)男性がいるように、習慣となったことを単純に新しいものに置き換えたり、両者を同時に使いこなせる人はそれほど多くないように思えるのです。となると、安全なずなこのような仕組みが実は安全を潜在的に脅かす可能性があることに気づかなければなりませんし、それに対して積極的な手段を打っていかないと、その危険性が年々高まっていくことを我々は忘れてはなりません。
日本中の全ての車にこういった装置の搭載を義務づけ、一斉に動かせれば問題は起きません。しかしそれは不可能であることは、誰もがわかることです。となると、手動と半自動、自動が混在する中でどのようなルールや制度を作ることが望ましいかを考えていく必要があるのです。もちろん短絡的・画期的な方法は、現在の私には思いつきません。ただしその意識を持ったプロが集まって検討すれば、完全でなくても少しはマシなヒントは見つかるように思うのです。その上でそれを試し、実効性と効率性の観点から順次見直す。不具合があっても簡単にあきらめることなく、より良い方法をみんなで考え続ける。これ以外に、この問題に対抗する手段を私には思い当たりません。
今回は自動車の問題ですが、すべての企業や環境できるIT化の流れが、同様の事象を引き起こします。まずは今回の件で頭を鍛え、明日起きる未来の事件に対するヒントをよりおおく思い浮かべる努力が、今まさにITエンジニアに求められ始めています。