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 October Third week

 ギャラクシーノート7(Galaxy Note 7)の問題が治まりません。

 ことの起こりは今年の8月17日、全世界で発売されたサムスンのギャラクシーノート7が発売されたことです。AppleのiPhone7に対抗するため実現できる可能な限りの機能を満載し、iPhoneより安く早く発売する、というのが今回のサムソンの狙いのようでした。スマートフォンの世界的なシェアを見るとアンドロイドが8割前後と、iOSに対して圧倒的に高いシェアを持っています。そのアンドロイド陣営の中で最大のシェアを占めるのがサムスンであり、スマートフォン全体のシェアで考えてもトップの座を占めています。企業単体で考えるとその次に継ぐのがAppleであり、この市場を奪うのがサムスンにとってシェア拡大の最大のチャンスであることは間違いありません。

 アップルに対するライバル意識が出ているのは、ギャラクシーノート7(Galaxy Note 7)という名前からも分かります。ギャラクシーノートの前のシリーズはギャラクシーノート5であり、本来であれば今回の製品名はギャラクシーノート6になるはずです。しかしライバルのiPhoneが7である以上、その名前で後れをとることすら嫌ったようです。

 結果として当初非常に高い売れ行きを示したようですが、その直後から各国でギャラクシーノート7の発火事故の報告が上がります。サムスンは事態を静観していたようですが、世界での被害の拡大が相次ぎ、9月2日に中国と韓国以外での発売を中止し、リコールを始めました。原因分析の結果バッテリーの軽微な不良が見つかり、充電中にドライヤーの熱風を当てたり、暖まった電子機器の上で充電すると本体が過熱し、発火するとの見解を示しました。バッテリーの7割がサムスンの子会社が製造したものであり、この中に不良が含まれていることから別の3割をしめるバッテリーの製造会社が作成した新しいバッテリーへの交換プログラムを開始し、10月1日には再び販売を開始しました。これを受けて航空各社は機内での発火を恐れ、預け荷物に含めること、機内での利用、電源の投入、充電のすべてを行わないよう利用者に呼びかけました。

 ところが10月4日、駐機中の航空機の機内でバッテリーを交換した機種からも発火が見つかり、その後も交換後製品からの発火が相次いだことから、とうとう10月11日に発売が中止されました。部品を提供した各社に対しパーツ供給の停止を依頼したことから、このまま製造が中止されるようです。これから全世界で発売した製品の回収に入るようですし、しばらくは混乱が続くようです。さらに先日14日、米国運輸省は同製品の機内持ち込みを全面的に禁止し、持ち込んだ場合は罰金を課すという厳しい通達も発令されました。

 今回の件でサムスンは製品の全面回収のコストを賄う必要が出てきましたし、実際に火災を起こした製品に関する賠償、設計製造コストの未回収など多くのコストを計上することになります。サムスンの収益の柱がスマートフォン事業ですので、今回の件がサムスンに大きな影響を残しますし、毀損したブランドと失ったシェアをどう奪還していくかが見物となります。

 市場的に見ますと、アーキテクチャの違うiPhoneに多くのユーザが移るとは考えにくいと思われます。おそらくは他のアンドロイド陣営の製品がシェアを埋めていくのでしょうし、サムスンの相対的な市場力は失われると思われます。ただしこれによって世界のスマートフォンシェアと考えると、Appleのほうが上位になるかもしれません。サムスンはAppleと飛躍的な差を生もうとしてきましたが、今回の件でその差を付けることが難しくなりました。とはいえAppleそのものも日本市場を強化してシェアを確保しようとしているだけで、世界的にはシェアを失っています。今後のスマホ業界の競争は激化しそうですし、行方も楽しみになりました。

 しかし今回の件で気になるのは、拙速なサムスンの対応です。シェアの拡大やブランドのさらなる成長、韓国経済に対する影響などさまざまなポイントが指摘されています。しかし多機能高品質の商品展開、トラブル時の拙速な対応ともに、かつての日本の電機メーカーと同じ奢りを感じるのです。

 かつて韓国は、米国を目指した日本同様日本企業をターゲットにビジネスを展開していきました。日本製品がどのように海外市場を占めていったか、日本製品の多様な機能拡充はどうして行われるのか、コストダウンや新製品開発がどのように行われるのかを綿密に調べ、それを凌駕する仕組みを作り出してきたといえます。しかし皮肉なことに、米国企業をターゲットにしてきた日本企業が追い抜いたときに起きたように、日本企業を追い抜いた韓国企業はその目標を失い、新たな目標を自ら作り出していかなければならなくなったのです。となると、新しい機能の品質や製品の充実度を判断できるのは自社だけになります。かつてのようにターゲットとなるべき製品があればそれを凌駕する品質や機能は判断できますが、自らの品質や充実度を判断することはきわめて困難です。従来よりもはるかに厳しいチェックをしない限り自らの製品の品質や充実度が判断できないはずなのですが、そこに焦りと奢りが生まれます。どこにもない機能だからこれで十分、誰も使ってもみてもいないものだからこの品質でも許される、といった奢りが、今回の騒動の原因のように思えるのです。

 その慢心を行った日本の電機メーカーは、事業縮小や分割でどうにか生き残ろうとしています。財閥系であるサムスンも、今後日本の企業と同様の道を歩む可能性は極めて高いと思いますし、韓国経済や社会を考えると、日本以上に現在の能力を喪失していく可能性もあると思っています。

 我々がターゲットとした米国は、イノベーションによって新たな可能性を自ら広げています。既存の製造業に期待することなく、新しい世界での新しいビジネスをあり方を模索しています。欧州企業もそれにならい、自らの強みを活かすべく製造業や金融業を中心とした米国とは異なるイノベーションに邁進しています。日本でもその必要性が叫ばれていますが、日本の産業としてのイノベーション速度はそれらに比べてはるかに遅いでしょう。となると韓国は、日本同様迷い続けて失速していくか、米国や欧州と同じイノベーションを見つけて、自ら産業形態を変革させていくかでしょう。

 いずれにせよ今回のサムスン問題は、かつて日本企業で起きたことであり、他の韓国企業でも起こることです。この教訓に対し、韓国産業がどのような動きをとってくるか、当面興味を持って見守りたいと思います。