ついにヤマトの方針が変わりました。佐川急便撤退後Amazonの荷物をメインで運んできたヤマト運輸が、Amazonの当日配送の引き受けを徐々に減らすことを決定しました。これによってAmazonは当面物流の方針を見直さざるを得なくなりますし、他のネットショップも様々な方針を転換するタイミングとなるのかもしれません。
ネットショップの雄であるAmazonは、その配達日数の短さから顧客を獲得してきました。いわゆる通信販売という店舗以外での購入は、通常商品が到達するまで数日かかることが当たり前でした。しかしネットショップのAmazonは物流体制を整え、基本的に大半の商品を翌日配送できるようサービスを向上してきました。この数年は当日の配達体制も整え、リアルの店舗とほぼ同じ時間で商品を手に入れられる環境を次々整備してきました。その裏にはヤマト運輸や佐川急便、日本郵便などの配送業者の活躍がありました。ところがその配達量の多さと反比例する配送費の値引き攻勢によって、佐川急便はAmazonの配達から基本的に撤退し、その物流の大半を引き受けたのがヤマト運輸でした。特に当日配達に関しては、日本郵便の配達網では不可能が多くいため、ヤマト運輸に頼ってきたのが実情でしょう。
確かに振り返ってみるとヤマト運輸の問題発覚以降、Amazonの配達日数がおかしなことになっていたのは事実です。当日配送であった商品のお急ぎ便締切時刻が、軒並み24時間以上になっていたのです。例えば正午12時までにお急ぎ便で注文出来た商品を午前8時に注文する場合、「あと4時間以内で当日発送」と表示されていたものが、「あと28時間以内で翌日発送」という風に変更されていました。私が良く頼む書籍、PC関連商品で顕著に見かけましたから、当日配送の問題は水面下で交渉が行われ、それが先日の発表に繋がったように思われます。
よくよく考えてみると、当日配送の問題はAmazonプライムが原因ではないかと私は思います。もともとAmazonプライムは、1500円以下の商品を発注する場合に送料がかかることを減免する仕組みでした。私のようなヘビーユーザであれば1200円の商品に送料390円は負担が大きいため、Amazonプライムが始まってすぐ年間3900円支払いました。しかしAmazonのサービス拡大と共にお急ぎ便無料サービスが追加されるなど、各種のサービスが充実していきました。そして一番のインパクトは、プライムビデオの見放題であったと思われます。プライムビデオの見放題は、TUTAYAなどのレンタル料金よりもはるかに安く簡便ですから、テレビの有料チャンネルと同様の競争力を持ちます。定額でプライムビデオが見られ、その上送料やお急ぎ便が無料になりますから、入会者が急増するでしょう。結果として通常の商品に関しても当日お急ぎ便を選択する客が増えて物流量が急増し、今回の事態に繋がったように思われるのです。
いずれにせよ今回ヤマト運輸が引き受け量を減らすことによって、当日配送の方法を模索する必要がAmazon側に生じてきました。Amazonが別の配送業者を見つけるか、当日配送を諦めるか、あるいはまったく別の方法で当日配送を行ってくるかは非常に興味の残るところです。
一番可能性が高いのは、佐川急便の要求する配送料をのみ佐川急便にも再度参入を促すことです。佐川急便の撤退によってヤマト運輸の取扱量が急増したのですから、一時の水準に戻ればヤマト運輸の負荷も下がります。さらにヤマト運輸は物流量が減っても配送料が佐川急便同様上がりますから、再度メリットも生まれます。現実的なシナリオとして考えら得るのは、このパターンでしょう。
それ以外に考えられるのは、全国赤帽軽自動車運送協同組合連合会(通称赤帽)などの全国規模の運送組合や中小運送業者を束ねる組合を買収し、Amazon運輸という会社を作ることです。今後ドローンや自走トラックを使った配送を行っていくことは間違いありませんし、バイクを使った配達も検討されるでしょう。Amazon運輸を作ればこうした実験を積極的に行えますし、物流量の増加に対しても計画的な手がうてるようになるからです。実際限定地域で実施されているプライムナウでは、SBS速配便などの企業間運送を取り扱う業者を利用していますから、この可能性も低くはないと思われます。
あとはアメリカで実施したように、タクシー業者などと手を組む可能性もあります。もちろんそのためには法律の改正等が必要ですが、ネットショップが生活のライフラインになりつつある現状を考えると、あり得ないことではないように思われます。タクシー業界は苦境が続いていますので、こういった新しいチャンスで当面を乗り切ることは十分考えられると思われます。
とはいえ一番望ましいのは、この状況を背景にもう一度街の商店街を復活できないかということです。生鮮食料品店やさまざまな専門店がネットショップのように地元のネットサイトを構築し、近隣の人間の注文に対し配送を担当するお店がそれぞれの商材を近隣でピックアップして届けるサービスを構築すれば、地元でAmazonに対抗できる可能性が生まれます。また地元の店で購入するのであれば、近隣の希望や指向を取り入れた品揃えをすることが可能になります。値段はネットより高くても、1時間ほどで商品を届けてくれるのであればメリットはありますし、独居老人宅への訪問や子供の見回りなど、副次的な効果も生まれるでしょう。
大切なことは利便性の追求だけでなく、様々な観点から充実した生活環境をつくることだと私は考えています。新しい発想を持った企業が地元を束ね、クラウド上にシステムを構築し、Amazonに対抗できる地元の販売網を構築する。そんな未来を、私は描きたいと思います。