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Weekly report

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 April Fourth week

 2016年度も終わり、各社が年度決算に向けた最終調整を行っています。監査法人の意見無しで決算を発表する予定の東芝は異例ですが、それでも2016年度の決算は海外子会社の問題による不振を発表する企業が増えそうです。

 まずは富士フイルムホールディングスが、決算発表を延期しました。海外子会社の販売方法に誤りがあり、会計処理に問題が発覚したためです。時同じくして日本郵政も、オーストラリアで買収した物流会社の経営不振により、数千億円の損失を計上することを発表しました。

 これらすべて、日本での成長が望めない各社が、新しい市場展開を図るために海外企業の買収に出た結果といえます。もちろん海外企業の買収を成功している企業も少なからずありますが、東芝の件も含め海外企業の買収(M&A)にはこれまでの日本企業での経験を生かせない様々な難しさがあるようです。東芝の例がそうであったように、買収側である日本企業は日本での事業展開ベースに海外企業の展開を考えます。しかしそれぞれの国にはそれぞれの事情があり、日本のやり方が必ずしも巧くいくわけではありません。そのため現地の統括だけ日本人が担当し実際の経営は現地の人間に任せるといった方法を考えて、なるべく現地の事情にあったビジネスを展開する必要があります。さらに買収企業には買収される理由が必ずあり、それがリスクとなってしまいます。となるとそのリスクを事前に洗い出し、買収する場合もその後どのような対応をするかを十分検討しなければなりません。

 「コア・コンピタンス経営」を記したC・K・プラハラード氏は「ネクスト・マーケット」という著書において、海外進出のポイントと「商品の現地化」「販売方法の現地化」「商品の販売と一体化した啓蒙活動」が必要としています。海外で成功したヤクルトはまさにこのポイントをきちんと守っており、販売方法の現地化によって成功しました。同様に成功したのは味の素であり、各国の事情に合わせたパッケージングや販売促進によって大きなシェアを握っています。しかしこの二社は自社商品を海外展開したのであり、今回の失敗のようなM&Aによる成功ではありません。

 では日本でM&Aに成功した企業を考えてみると、JTが挙げられます。米国と英国のたばこ会社を買収しましたが、両社とも旧経営者にビジネスを任せ支援に徹したことが成功のポイントのようです。しかしそれ以外に目覚ましい成功例は少なく、日本企業がM&Aによる海外進出することが難しい事が解ります。その原因を考えてみると、さきほどのリスクの見落としが原因のように思えます。

 日本は信頼の国ですし、相手が誠実で正直であることを前提としたつきあいをします。しかし海外は基本的に初めての相手は信頼できないというスタンスを取りますし、長いつきあいの中で徐々に打ち解け信頼を得ていく努力をします。その違いがM&Aで悪い意味で出てしまい、相手を信頼したものの意図した通りの活動をしたり成績を残すことが出来ず、結果として大きな損失に繋がってしまうように思えます。さらに買収前の調査を行うコンサルタントや法律事務所の意見も信頼して鵜呑みにしてしまうため、買収後に大きな問題が発覚してしまうことも多いように思えます。いずれにせよこのような事態が起きる日本企業は少なからずあるでしょうし、それが大幅に決算結果を及ぼす可能性は高いように思えます。

 私はM&Aの専門家ではありませんから、今後日本企業がどのような舵取りをすべきかはよくわかりません。しかしその日本企業に勤める多くの社員のことを考えると、こういった取り組みによって業績が悪化し、結果として自らの職を危うくされてしまうことに問題を感じざるを得ません。かつての日本企業は、家族主義的経営によって経済を盛り上げてきました。さらに「ジャパン・アズ・ナンバー1」に記されたように高い学習意欲と読書週間、さらにそれを支える精神性が、日本の高度成長を実現してきました。

 しかし団塊の世代が取り入れた株主を重視する米国的経営が、それまでの日本的経営のあり方をかえてしまいました。より高い業績を出し続け、それを株主に評価してもらい企業価値を高めることに執心し続けた結果が今日の日本企業の状況のように見えます。

 グーグルやアップルなどの新しい米国企業をみるたび、高度成長を実現したかつての日本的経営の良いところを取り入れ、新しい価値を生み続けているように思えます。自らのビジネスを展開するために海外企業を買収しますが、それは人材やビジネス展開速度を高めるための方法であり、その企業の業績を手に入れるための買収ではありません。さらに自らは家族的な雰囲気を残しつつ生産性や想像力を高める工夫をし、これまでになかった新しいビジネスをつぎつぎ生み出しているように思えるのです。

 大企業が大幅に方針を転換し、今のあらゆるビジネスモデルを見直すとは思えません。しかしこのまま何もしなければ、大幅な損失や業績の低下も防げないように思います。会社は株主のものかも知れませんが、同時に働くすべての社員のものでもあります。業績至上主義を改め、既存のビジネスモデルをもう一度見直し、市場規模ではなく新たな市場を生み出せるような大企業が出現することを心から願っていますし、会社に所属する全社員が、失敗を恐れずそれらの取り組みを始めることを熱望しています。