先日ソニー生命保険が中心となり、中高生対象に「将来つきたい職業」の調査が行われました。中学生200名、高校生800名が対象だったようですが、男子のランキング一位に、なんと「ITエンジニア・プログラマー」が選ばれたようです。中学生の第二位、高校生の第三位は「ゲームクリエーター」ですからいわゆるビジネス系のITエンジニアを想像しているとは思えませんが、それでもITエンジニアがあこがれの職業になったと言うことはある意味驚きです。
現在の中高生は間違いなくデジタルネイティブですし、生まれたときからIT仕立ての便利な環境で育ってきました。おもちゃもデジタル系のモノが大半でしょうし、そこで必ずITが利用されていることは十分理解出来るということなのでしょう。今後益々IT化は進化しますから、それを担う若い世代が沢山生まれるのは嬉しいことですが、反面現在のIT業界の実情を考えるとやや暗い気分になることも事実です。
私が就職活動をした30年以上前から、IT分野の仕事は将来性が高いといわれていました。私がコンピュータに出会ったのは中学生の時であり、高校に入ってインベーダーゲームがゲームセンターに並んだときには本当に衝撃を受けました。高校の友人はテニスゲームを自作つくり、部活の部屋で日が暮れるまでずっと遊んだものです。コンピュータ好きが高じて就活で消極的選択からSEになりましたが、ビジネスで使われるプログラム開発はゲーム等で触れていたコンピュータのプログラム開発とはまったく違った世界でした。
研修までは面白かったプログラム開発も、実務となると地味でつまらない仕事ばかりでした。自分ではきちんと作ったつもりでもさまざまな難癖を付けられますし、先輩の設計やプログラムをみるとその実力差が埋まる気がまったくしませんでした。とはいえ技術は盗むものであり、先輩からきちんと指摘や修正方法を指示されるわけでも、実力を高めるための技術習得の方法を教えてもらえるわけではありません。何年か仕事をすれば自然と覚えられるし、覚えられなければ他の仕事を探せばいいとばかりに、放置されていたことを思い出します。自分なりの努力では微々たる成長しかありませんし、結局私にはあまり向かないいじめの横行する職場でしたので、結果的に4年足らずで退職することになりました。
その後はさまざまなチャンスに恵まれましたが、もしあのときとIT業界が大きく変わっていないのであれば、今の若者のほうがずっと失望感が大きいように思われます。何か新しいもの、世の中に役立つものを創り出そうと高い志と仕事に対する熱意を持ってIT業界に入ったにもかかわらず、結局自己責任の名の下に放置さるのであれば挫折は目に見えています。他にやりたいことがなければ違うと思いながらもずるずる仕事をつづけるか、さっさとやめてフリーターになるか、といったことになりかねません。そして何より恐れるのは、その中で出口のない迷路でもがき苦しみ、やがて心や体を病んでしまうことです。体中を痛め、その上起死念慮が常につきまとっていた若者の気持ちを知る私としては、そのような若者が生まれる可能性そのものに目を覆いたくなります。
IT業界の仕事はどんどん世界に流れ出し、付加価値の低い仕事で日本は食べていくことが出来ません。付加価値の高い仕事はきわめて難しいですが、それにチャレンジしない限り日本のIT業界の明日はありません。無謀に近いチャレンジを行うのであればあるほど、そのチャレンジに向いているのは若者です。もちろん新人が無謀なチャレンジをすることは自滅行為ですが、数年の後にそのチャンスにチャレンジさせるならばIT業界の新人研修から受け入れの業務体制、基本的なビジネスの考え方など今の時代に合った育成メカニズムを新たに考え出さなければなりません。逆にこのままのやり方で新人を向かい入れて育てるつもりであれば、ますますチャレンジとはほどとおい人材が作られてしまうことを真剣に考えなければならないのです。
IT業界に人気がある今だからこそ、出来ることがあるはずです。昨日の連続としての今日や明日を考えるのではなく、これからの新しい時代に向けた人材を育成するメカニズムを作り、心ある若者を向かい入れる決意が、我々には求められています。