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Weekly report

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 August Fourth week

 八月もいよいよ終盤。八月最後のウィークリーリポートです。

 さてユニクロを運営するファーストリテイリングが、IT技術者の採用を拡大しているようです。これまでの基幹業務やビジネスの効率化だけでなく、ITを使った新しい技術やサービスを開発するようです。「ソフトバンクとも競合する」との柳井氏の発言もあるようですから、本格的にIT化を推進するのかも知れません。

 もともとユニクロは、二年ほど前にアクセンチュアと合弁でデジタルテクノロジーを活用した新サービスの研究・開発会社を設立するぐらい、IT化に対して非常に熱心でした。したがって今回のIT技術者採用の拡大は驚くべき事ではないのかも知れませんが、私にとってはやや頭の痛い事態が発生したように思われます。

 ユニクロの動きは別に特殊なことではなく、どこの企業もが考え始めていることに過ぎないということです。イノベーションはIT抜きに実現することは非常に難しい事は間違いありませんが、社内のIT技術者は既存システムのメンテナンスや運用業務が中心で、それらの業務を担うことは難しいといえます。それならばSIerがイノベーションアイディアを提供すれば良いわけですが、ビジネスの精通度が高くなく、ましてや新しいビジネスの企画などやったことがありませんから、こういった業務を担うことはできません。コンサルティング会社に依頼しても同様であり、世界で既に利用されているアイディアや今までのイノベーションをすこしだけ違えたアイディアしか提供出来ませんから、本物のイノベーションには繋がらないのです。

 となると、残る方法としては、自社内でそういったIT技術者を確保し育成するという方法になります。本当に巧くいくかは誰にも保証できませんが、何もしないわけにはいかないのであればこういった方法を採らざるを得ないのです。研究開発投資と思えばコストもやりくりできるでしょうし、仮に巧くいかなくてもそういった経験を持ったIT技術者であれば解雇したとしても他企業での採用もあり得るでしょう。その採用規模が大きければ大きいほど確率論的に実力のあるIT技術者の育成に成功するでしょうし、結果として今まであり得なかったITの活用方法やイノベーションに繋がる可能性が高まります。となると今回のファーストリテイリングの動きは氷山の一角に過ぎず、有力な企業が今後続々とIT技術者の採用と育成を行う動きが強まると思います。

 ではなぜこの問題が頭の痛さに繋がるのかといえば、要するに一般事業会社がSIerに対して期待を持たなくなったことの証左であるからです。本来新しい技術やビジネスへの活用方法を提供してきたのは、SIerの仕事でした。世界中の製品や技術に対して情報を有し、それを導入するための要因とノウハウを提供してきたのがSIerの重要な業務だったのです。ところがこれだけ世界中で新しい情報技術やITを利用したイノベーションが生まれているにもかかわらず、現在のSIerがこれらについて積極的に顧客に紹介したり、ビジネスでの活用を提案するケースはまれです。それどころか顧客から具体的な相談を受けても答えられない、酷い場合には「時期尚早」や「技術的に未成熟」という言葉で要望を拒否することすらあるようです。つまりSIerがまったく機能していないということなのであり、顧客である一般事業会社の多くがSIerがこういった事業に積極的になることは期待薄と思っていたり、まったく期待を持っていない可能性が高いということなのです。

 この数年私は、SIerは5年以内に1/3の規模になるとさまざまなセミナーで予言してきました。この数年のビジネスとIT、ならびにSIerの動きを考えると、それを否定する明確な理由が見つからなかったからです。今回の件はどうもこの予想の論理的根拠となるべき重要な出来事のように思われますし、今後大きな流れが出来てしまうことを意味しているように思えるのです。

 現状SIerに所属するIT技術者の何パーセントがこの事態に気づくか、私には解りません。しかしその数が少しずつ増えることは間違いありませんし、その流れを止めることも出来ないでしょう。その流れが大きくなったとき、SIerの崩壊が急速に始まることを我々は覚悟しなければなりませんし、その流れが始まる前に我々は今後どうするべきなのかを真剣に考えなければならないと私は考えています。

 滅び行くSIerや業界と共に一緒に仕事を失うのか、それとも流れに乗って一般事業会社に転職するのか、まったく違ったビジネスに転職するのか、起業するのか。それとも今の我々のあり方を真剣に考え、仲間と一緒にSIerとしての新しい姿を創り出していくのか。その選択は、皆さまに委ねられています。一人でも多くのIT技術者がこのことを知り、自分自身の問題として考え始めることを私は切に願っています。