日本でも司法取引ができるようになりました。司法取引とは米国の映画などで知られているように検察官と被告人が取引を行い、捜査協力や共犯者の告発、積極的な罪状を認めることで求刑の軽減、いくつかの罪状の取り下げなどを行う制度です。司法取引を使うことで犯罪捜査の範囲や迅速性、有効性が高まるため、日本での導入も期待されていました。
先日の国会で刑事訴訟法が改正され、以下の罪での司法取引が可能になりました。
(1)贈収賄や詐欺など刑法上の一定の犯罪
(2)組織的詐欺など組織犯罪処罰法上の一定の犯罪
(3)財政経済関係犯罪として政令で定める罪
(4)一定の薬物銃器犯罪
(5)これらにかかる証拠隠滅などの司法妨害の罪
何かと制約の多い日本の捜査について、一定の権限が与えられるのは一つの希望となります。もちろん司法取引には利点だけでなく危険な側面があります。自分の罪を軽減する、あるいは逃れるために無関係の他人を告発したり、無実の罪で重罪を求刑されることを回避するため、行っていない犯罪を認めてしまうというえん罪の可能性も発生してしまいます。したがって運用には厳密なルールを導入すると同時に、客観的な監視ができるような仕組みを考える必要はありますが、それでもこれによって犯罪捜査の有効性が高まることは良いことだと思っています。
昔日本の警察は優秀と言われていましたが、今では世界でも平均水準の検挙率しかないことが知られています。件数の少ない殺人事件等の検挙率は高いですが、高度化・複雑化する犯罪状況を背景に、全体的な検挙率は下がっています。これは警察組織の能力の問題だけではなく、人数や予算的な制約、専門官の育成の難しさなど様々な理由が複合的に重なったものです。さらに世界に比べ法律上・制度上の制約も多く、現行法下では対応しきれない案件が増えているのも事実です。
たとえば、日本では麻薬取締官や海上保安官などの一部の人間にしか、おとり捜査の権限をもっていません。さらに増えゆく特殊詐欺などの新しいメディアや技術を使った犯罪にも、技術的にも人員的にも対応出来ません。ネットでの誹謗中傷などについても十分な対応が出来ませんし、どんなにリスクが高くても実害が起きない限り積極的な捜査も難しい状況です。このように警察の権限の弱さが、現在の日本の犯罪増加を招いていることは事実ですし、犯罪を犯す可能性がほとんどない一般的国民にとっては、憂慮すべき事態のように思われます。
もちろん警察権力を無防備に強化すれば、えん罪や警察職員による違法捜査や不正が生まれる可能性があることも事実です。しかしそれらを恐れるが故に一般市民の生活に対する脅威を放置するのは、やはり大きな問題があると思うのです。大切なことは権力の増大ではなく捜査能力の向上と人員や予算の増加であり、一つの組織の肥大化や強大な権力を作り上げることではありません。
そのためには、現在の警察の機能をいくつかに分割し、それぞれが専門性の高い捜査能力を持たせることのように私には思えます。一般的な刑事犯罪ではない特殊詐欺やインターネットを利用したような犯罪には、現行の警察とは別の警察組織を作るべきと思います。どうようにテロに対する備えも、現行の警察機能とは分けるべきと思われます。さらに官僚や企業による知能犯罪も、いわゆる暴力的な犯罪と別の組織が担当すべきです。その上でそれらの捜査活動を監視する第三者組織をつくり、相互の連携を推し進め不正を防いでいくことが大切なように思われます。
司法試験の簡略化により増えている司法試験合格者の中から、より多くの検察官を任命すべきですし、検察官の活動範囲と有効性ももっと高めるべきです。それによって一件あたりの裁判に関する時間を短縮し、より効率の良い量刑判断が出来るようにもすべきと思います。もちろんそれらを有効かつ円滑に支援するための情報技術の活用も必須ですし、AIをつかったさまざまな仕組みも完備すべきと思います。
大切なことは国民の幸福を実現することであり、国民の活動を監視することではありません。幸福を阻害し社会的な不安定を生む要素を積極的に排除し、豊かで住みやすい社会を実現するために、この国は警察を含めた組織のあり方と実効性の高い捜査方法を真剣に論じるべき時期に来たように私には思えます。