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Weekly report

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 August Fourth week

 ニューヨーク大学の医学部が、学生の授業料免除の施策を実施するようです。

 8月16日の臨床学習を開始する白衣授与式の席で、全学生を対象とする授業料免除の方針をニューヨーク大学が発表しました。その財源は全国からの寄付のようですが、そのうち100億円を住宅リフォーム・建築資材等の小売りチェーンであるホーム・デポが負担するようであり、本当に米国のこういった寄付の状況には感心します。現在こうして財源として必要な額の80%程度が確保できたことから実施に移ったようであり、この施策が多くの医者を生むことを期待したいと思います。

 現在ニューヨーク大学で医師資格を取ろうとすると、卒業時には平均2240万円の借金が卒業者の肩にのしかかるようです。それを早期に返済するためには、安全で高収入が保証される分野へ進む卒業者が多くなり、安全ではない、あるいは高収入が保証されない地域診療、小児科医、研究分野へ新しい医者が増えない結果になるようです。となると、そういった分野の人手不足からまた総合病院の稼働があがり、十分な診療が行えないと同時に医療費の高騰を招く結果となります。

 医療大国の米国では、高度先端医療の発達とともに医療費の高騰が問題になっています。過去にWebで公開された例では、盲腸の手術を受けた若者がその入院治療費に600万円弱を請求されたことが話題になっていたことがあります。これがたった一泊の費用であることが驚きですが、この例が極端としてもこのように多額な請求を求めないと経営がなりたたないのが米国医療の実情なのでしょう。その裏には膨大な訴訟があり、一端ミスが見つかると懲罰的賠償と言うことで数億円の支払いが必要となりますから、こうやって保険原資を獲得しない限り医療機関を維持することが難しいのかもしれません。

 今回の施策がそいうった偏った分野への進出を防ぐものであることを期待したいと思いますが、本当にそうなるかはこの施策の行方を見据えたいところです。お金をかけずに資格を取り、より華やかで多くの報酬のあるところを狙おうとするのが人間の性ですので、上手に制度を運用しそのような問題が起きないことを期待したいと思います。

 この状況は日本では違うか、といえば、そうでもないようです。私立医大を卒業しようとすると、学費だけで最低2000万円〜4000万円かかってしまいます。この額はさすがに通常のサラリーマン家庭では捻出が難しいでしょうから、さまざまな形での借金が発生する事は間違いないでしょう。となると卒業時にはかなりの額の借金が残りますので、医者のなり手は親が医者や金持ちでなければなれないことになります。さらに親子で頑張ったとしても、卒業後の早期に借金の返済は必要となりますから、より条件のよい職場を求めることになります。報酬が高いのは都会の病院ですし、相対的に医者も多いですから一人の背負うリスクは軽減されます。そうなるとわざわざ報酬が低くてリスクの高い地方を選ぶよりも、都会の医療機関を目指す方が自然の流れになります。これが現在の状況であり、現在卒業している医者の卵の大半が都会で職を求め、地方は慢性的に医者不足の状況の原因となっています。

 さらにそのリスクと報酬のバランスから、医者の選ぶ専門にも偏りが生まれます。2004年に発生した福島大野病院事件により、大幅に産婦人科医のなり手が減少しました。出産時に急変を起こした妊婦が治療の甲斐なく死亡した件を、検察側が過失致死とし起訴を行ったためです。裁判の結果は無罪になりましたが、それでも医師が標準以上の手続きで治療を行っても、患者が死亡すれば過失致死に問われる可能性があることが多くの産婦人科医や研修医に知れ渡ってしまったため、そのなり手が激減してしまったのです。

 小児科もその診療報酬の低さからなり手が少ないと言われています。保険の基本点数は半額であり、大人と同じ診療を行っても半分の報酬しかありません。逆に子供は自分の症状を自己申告できにくく、急変しやすいと言われます。となるとリスクが高いだけでその見返りがありませんから、なり手が少なくなってしまいます。逆に基本大人相手でリスクが少ないのが内科医、眼科医、皮膚科医ですから、医者の専門分野に偏りが生まれてしまうことは現行制度上は仕方ないように思います。

 このようになり手が少ない専門分野には、制度や仕組み上の問題があります。国は積極的にそれらを改めるべきと考えますし、それによって医者のなり手を平準化する努力が求められます。同時に都会一極集中を防げるよう、地方限定の奨学金や地方の医療機関に対する補助金を手厚くするなど、若い医師のみならず中堅の医師がUターン、Iターンしやすい環境を作る必要があると思います。インターネットによって都会と地方の格差が小さくなっている今こそ、そのチャンスが到来しているのかもしれません。

 そしてニューヨーク大学同様日本の大学も、その学費のあり方を検討すべきと考えます。稼業の医者を継ぐ学生よりも、一般のサラリーマン等の家庭から石になろうとする学生の経済的負担ははるかに大きいと考えられます。そういった世帯に対し有利になるような奨学金や返済不能奨学金のあり方を我々は考えていく必要がありますし、同時にその制度に対して寄付を行うことが、企業にとって税務面のみならず名誉面でも大きな意味を持てるような社会を創り出していかなければならないと私は考えます。 

 このように社会の変革と共に、旧弊な制度や常識のあり方を変えていく必要があります。イノベーションは企業だけでなく、社会でも興すべきものです。我々は他人事と思うことなくこういった制度をよりよくするための努力が必要ですし、それが結局我々のためになることを気づかなければなりません。