早くも二月に入りました。気をつけないと、今年もあっという間に年末になりそうな気配です。
さてAmazonがまた仕掛けてきました。先日の報道によると、Amazonが現在の書籍取次店を経由した書籍の調達ではなく、出版社から直接買い取る方法を試行することを発表しました。これによって書籍の返品率が下がることから出版社の負担は軽減されますが、売れ残った書籍の廉価販売が始まる可能性がありますから、日本の再販制度がいよいよ見直されることになるかもしれません。
日本では、再販売価格維持のため再販制度が導入されており、一定の指定品目は小売店が売価を決めることができません。価格.comが存在するのは、電化製品などの多くの製品が小売店が価格を決められるためであり、他店より安価な価格を付けることでより多くの顧客を獲得することができます。しかし小売店は余り安価な価格を付けると利幅が狭まってしまうため、他店の値引き状況を判断しながら価格を散り決めることになります。
製品を提供するメーカーは、卸値で販売すれば原則返品はないため、適正な利益を確保することができます。但しあまり早く新製品を作ってライフサイクルを短くしたり、多種の製品を作って競合商品を作ると相対的に製品の流通在庫が増えてしまい、小売店が新製品を引き取らなくなります。したがってメーカーは一定のタイミングで適正量の新製品を供給し、極力流通在庫が残らないようにします。一方販売店は一定の利幅を持って販売しますが、売れ残った場合は在庫負担となるため自社で大幅な値引きで販売する、あるいは在庫品を安価でも大量に引き取ってくれるディスカウントショップ等に売却して不良在庫を処分します。これによってメーカーは適正量の製品を市場に供給することで一定の利益を確保し、小売店も様々な製品全体によって利益を確保できる、というのが一般の製品です。
これに対し書籍は、定価で販売されます。小売店は返品が可能ですので、より多くの種類の書籍を置きたがります。出版社は返品のリスクはあっても一定量を売れば利益が確保できるため、より多くの書籍を出版し店頭に並べたほうがより多くの売上が確保できます。一般の製品は製品の種類や量が多いと流通在庫の問題が生じるため種類や量が増えすぎることはありませんが、書籍は小売店が返品でき、出版社は全体で一定量の売上が上がれば利益が確保できることから書籍や雑誌の種類や量が無限に増えていきます。
しかしAmazonのような大型の書店は、これまでの大型書店よりもはるかに多くの在庫を確保しようとします。取次店はより多くの書籍をAmazonに回すと一般の小売店に書籍を回すことできなくなります。かといってAmazonの要求をはねのけるとかつての大阪屋のように取次店を外されることもありますから、ついつい出版社側により多くの冊数を印刷するよう依頼します。出版社としては返品がなければ問題ありませんが、Amazonがその保有した在庫を大量に返品してくると、もともとの想定よりも原価をかけて多くの部数を印刷していますから、出版社としては非常に大きな負担になります。全国の書店数は減っていますから、取次店は返品された書籍を他の小売店に再度出荷することもできませんので、出版社の負担はさらに大きなものになってしまいます。
このような状況を変えるため、Amazonは今回取次店を使わない買い取りを行うことを始めたようです。Amazonがより多くの部数を求めても買い取りとなれば、出版社の負担は下がります。しかしAmazonが買い取った商品が売れ残ると在庫負担が大きくなるため、Amazonは値引き等の廉価販売を行う権利を出版社に求めます。出版社がそれを認めなければAmazonはその出版社との取引を辞める可能性がありますから、よほど人気作家を有した出版社以外はAmazonの値引き要請に従うしかなくなるでしょう。
しかし一端値引きが始まれば、新刊以外の書籍はAmazonで購入した方が一般の書店より安く書籍を購入することが可能になります。一般書店は返品が可能でも在庫する書籍が売れる可能性が減りますので、新刊以外の書籍を扱わないか、Amazon同様値引きをするかの選択になってしまいます。実際には、取次店は複数の新刊をセットにして自動的に小売店に書籍を配本しますので、小売店は新刊以外の注文ができるだけのことが多いです。となると、自ずから小売店と取次店はいままでのやり方を変えざるを得なくなります。
このように今回のAmazonの取り組みは、日本の出版市場に大きな変革をもたらす可能性があります。これを加速させるのは楽天ブックスや紀伊國屋などの大型書店になるでしょうが、書店と出版社の系列化が進む現在、変化が加速する可能性のほうがはるかに高いように思います。
こうして日本の出版業界、取次店、書店の様相が大きく変わりそうです。本をこよなく愛す私にとって、あまり面白くない状況がいよいよ始まりそうです。