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 May Third week =Reiwa=

 令和の時代に入り、とうとう社会構造も劇的な変化を向かえようとしています。

 先日トヨタ自動車の豊田章男社長は、「企業へのインセンティブがないと、終身雇用を守っていくのは難しい局面に入ってきた」と発言しました。同様の発言は4月にも経団連会長から発せられていますので、大手企業全体にこういった考えが広がっていることが解ります。

 かつて経済が活況な時代は、安定した雇用は働く人間にとっても企業にとってもメリットの大きい仕組みでした。経験のある人間が新しく入った社員を育て、その社員がまた次をといった形でノウハウを伝承すると同時に組織が拡大し、経験がある人間が組織をまとめていくやり方は、企業にとってとても効率の良い仕組みでした。同時に働く人間にとっては、知識や経験が無くても業務に参加でき、年功序列の中で徐々に責任権限が拡大し給料も増える仕組みは非常にメリットがあったように思います。終身雇用が保障されていますから与えられた命令をこなしている限り馘首はありませんし、一度や二度の失敗でその会社での地位を失うこともありませんでした。さらに基本的には年齢とともに収入も拡大しますから、あたりまえに働けば子供は育てられますし、持ち家を持つことも可能でした。

 しかし経済が停滞するにつれ、組織規模の拡大が不要になってきます。さらに情報技術の導入によって業務の効率化が進み、人数と企業の生産性との因果関係が変わっていきます。さらには事業環境の変化から経験の価値が相対的に下がり、従来型の業務を継続するのではなく常に改革が求められるようになります。さらに事業環境の変化は、新しいビジネスやサービス、商品の開発が必要になり、これまでの経験だけではないさらなる想像力や企画力が要求されます。

 かつての事業で辣腕を振るったベテランでも、新しい環境で素人になります。むしろ過去の経験を捨てられないことが、新しい環境での障壁になることもあります。成功体験が強いためプライドは高いでしょうし、そのプライドの高さ、年齢、そしてなにより新しい環境に対する対応力の低さが新しい事業での活躍の機会を奪います。かつての事業はすでになく、新しい環境で能力を発揮できないとすると、社内で活躍する余地はありません。とはいえ年功序列を変えられないとすると給料は高いですから、企業にとっては価値創造をできなくてコストの高い社員が大量に保有することになってしまいます。

 この事態は、今まさに我々IT業界で起きています。私は経験十数年のベテランの素人という言い方をしていますが、ある技術の専門家として辣腕を振るってきたベテランでも、その技術が主流でなくなると急に専門性を失うことがあります。さらなる新しい技術を学ぶにしても、古い技術が身に染みついているため相対的な覚えは悪くなります。若手は新しい技術を次々吸収する中、ベテランはその速度について行けず相対的には低い能力になってしまいます。同じ仕事をさせるならば効率の良いほうを選びますから、どうしても若手に仕事がながれ経験十数年のベテランは仕事をすることができません。結果としてベテランであっても若手より能力も経験もありませんから、社内で活躍する余地が無くなってしまいます。

 このような状況であっても日本の雇用制度は、よほど大きな過失が無い限り従業員の解雇を許しません。となると価値を生まない高給取りが、若者の生み出した価値を食い尽くすことになりますし、それに気づいた優秀な若者は早晩企業を退職してしまいます。かつてのようにリストラができれば良いのかもしれませんが、現在の社会状況ではブラック企業と呼ばれたりハラスメントの問題に発展しますから不可能といえるでしょう。

 このように現在の状況は、企業にとっても働く人間にとっても閉塞的といえます。企業にとっては負担以外の何者でもありませんし、働いている人間は先の不安を抱えながら自らが朽ちていくことを淡淡と眺めるしかありません。となると、冒頭の豊田社長や経団連会長の言葉の重みを感じざるを得ません。

 同様の状況は、バブル崩壊後のリストラで経験をしています。しかし企業側は都合のいい人減らしを行っただけであり、現実は優秀な社員の流出を招いたケースも少なくありませんでした。なぜなら同世代の人間がリストラされるのを目の当たりにすると、次は自分と感じざるを得なくなります。となると優秀な人間ほどリストラの刻印を押される前に他社に移ろうと考えますし、企業にとってはリストラしたくない優秀な人材ほど失ってしまう結果となったのです。結果として人件費というコストは下がっても次の収益が失われてしまうため、結局状況は変わらなくなりました。もちろんリストラされた人間はきわめて不幸な状況に陥りましたし、リストラ前以上の待遇で仕事を得ることは不可能に近かったと思います。最悪再就職を諦めてフリーターになった人間もいましたから、リストラは企業にとっても働く人間にとっても望ましい道ではありません。

 こうなると、この状況を打開するために、抜本的な社会構造の変革が必要になります。以前から日本企業の労働流動性の低さの問題を述べてきましたが、やはりこの機会に世界同様労働流動性を高めるべきと考えます。当面は一般職と総合職のように、入社時に終身雇用か雇用期限更新型雇用かのどちらを選択するかを選ばせるべきと思います。雇用期限更新型雇用はチャンスが多く収入も高いですが、一定の成績が残せないと解雇対象になることを前提とします。まさにプロスポーツ選手と同様に前年の成績を元に契約を更新し、不満であればフリーエージェントになるのです。逆に終身雇用は低賃金低昇給ですが、60代までの雇用を保障する制度にすべきと思います。

 同時に雇用保険を改め、再就職に向けた教育機関を立ち上げるべきと思います。企業から解雇された人は3ヶ月から1年にわたり、無償で各種の教育を受けられるようにすべきです。その間の生活費は解雇した企業が負担することにすれば国庫の負担も軽減されますし、働く人間も安心して教育を受けられるようなります。さらにその教育にて一定の成績を残した人間を、優先的に再雇用する制度も作るべきです。その仕事における専門性を持っているのですから、企業は教育の負担が少なく生産性の高い人員を確保できるわけですから、メリットは大きいと思われます。雇用期限更新型で自ら退職した人間に対しては、有償で同様の教育を受けられるようにすれば、万が一自分の専門性の必要性が下がって次の専門性を身につけられるでしょう。もちろんそれまでに他者に比べて高給をとってきたのですから、教育費、生活費は自分で負担すべきと思います。

 こうして雇用の形態に弾力性を持たされば、大企業、中小企業を問わず必要な人材を必要な時期に確保できるようになりますから、企業の効率性は高まります。さらに失敗しても次のチャンスがある社会になりますから、新しいことに対するチャレンジのリスクも下がります。いずれにせよ終身雇用は早晩崩壊するからこそ、余力のある今、社会全体が働きのあり方を考え直す良いきっかけが訪れているように私には思えます。