大阪大学が、iPS細胞を使った角膜の培養と移植に成功しました。これまで他人の角膜移植しか方法のなかった治療が劇的に変化し、角膜を痛めた患者に未来が広がってきたようです。
iPS細胞は、人間の幹細胞であり、さまざまな臓器の遺伝子を組み込むことであらゆる生体組織に変化させることができる物です。京都大学の山中教授がこれを発見し、ノーベル賞を受賞したことで有名になりましたが、いよいよ実際の治療で使われ始めたようです。これにより他人の生体組織の移植以外方法のなかったさまざまな疾患が自分の細胞で直せる可能性が高まったため、今後の研究の進歩が望まれます。
以前も申し上げたとおり、生体組織や臓器の再生のための技術は日々進化しています。3Dプリンターをつかった耳や鼻などの軟骨再生は可能になってきていますし、頭蓋等の硬骨の再生も進んでいます。もともとは破損した形状にあわせた部品の作成が難しかったところがありますが、最近は3D計測できる機器やそれに合わせて部品を作成するが発達しているため、部品の形状が破損した人体の部位とぴたりと合わせることが可能になってきています。陥没や粉砕骨折等で失われてしまった骨も再生できますから、変形や欠損といった問題を解決することは困難でなくなっています。
iPS細胞は、このような骨のようなものではない人工的な組織や作成も可能にします。臓器の製作にはまだまだ時間がかかりそうですが、iPS細胞を培養した組織による置換は体中のあらゆる分野で実施されようとしています。たとえば理化学研究所は加齢黄斑変性の治療にiPS細胞を使った網膜を利用しようとしていますし、京都大学はパーキンソン病、慶応大学は脊髄損傷などが現在計画されている物です。このように多くの大学や研究機関がiPS細胞を利用した治療を考えており、この先5〜10年で実用化が見込まれています。こうなれば、これまでは治療が困難だった症例も克服できますし、なにより患者にとって元通りの生活が送れる可能性が高まったことは本当に素晴らしい事だと思います。
その後は並行して研究されている臓器の置換が始まるでしょうし、汎用iPS細胞による治療の低価格化も期待できます。オーダーメイドよりもはるかに多くの患者が安価で治療を受けられますし、競争原理が働けば生体細胞を使った治療が本当に身近な物になる可能性があります。
やがては内臓だけでなく、複数の機能を持った部位も技術の組み合わせで作成が可能になるかもしれません。人工骨と人工血管、筋肉、皮膚によって指や手足を作れる可能性が出てきますし、それらの欠損患者が健常な姿に戻れることも夢ではありません。その前には、機械とのハイブリッド型の手足が生まれる可能性も充分考えられます。たとえば自分の骨の先端に強度の高いソケットを組み付けます。ソケットには細かい神経をつなぎ、ケーブルの終端としての装置を付けます。そこに機械性の手足を組み付けると、ソケットを経由して神経とのやりとりが可能になり、自分の意志で動かすことができるようになります。また骨と直接接続するため、人工部分との接続分の痛みや組織の壊死等も防ぐことができるようになるかもしれません。手足の側にボリュームを付ければ、人間の触覚や痛覚もきちんと再生できる人工義手義足ができる可能性だってあります。
このように技術の進歩は、人間にとって数多くの選択肢を広げてくれます。諦めたり受け入れたりするのではなく、健常な人間と同じ機能をもつことができれば、さまざまな制約から解放される可能性があります。それどころか人間が本来持っている以上の機能を増設することも可能になります。逆にあるがままの自分が、藤生であっても固性ある自分と考える人が出てくる可能性もあります。いずれにせよ技術の進歩は、我々の未来に大きな選択肢を作っていることは間違いありませんし,それをどのように使いこなしていくかは個々人の課題になっていくように思われます。