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 November Third week

 11月もとうとう折り返し。いよいよ恐怖の年末年始が近づいてきました。油断をするとあっという間に一年ですから、いよいよ棺桶の縁が見えてきたように思います。

 さて先週末に岸田総理が、デジタル化人材を育成するために3年間で4000億円の予算を計画することを発表しました。内容はまだ決まっていないものの、国を挙げてデジタル化人材の育成にかかるようです。これでまた多くの研修会社やIT企業がこの予算に群がるのでしょうし、結果パソコン教室程度の教育でお茶が濁されることになると私は思います。

 私自身10年ほど前に掲げたコンセプトは、やはり間違っていなかったことを痛感しています。当時は時代が早すぎましたが、この数年いよいよそのコンセプトが多くの企業で実現されるようになってきました。当時私はこの動きを「BIZIT」を名付けて育てていましたが、笑われるだけ笑われて現実にはできませんでした。しかしその考えが間違っていなかったことを、今更ながらに確認しています。

 とはいいながら現在のデジタル人材育成は、すべてのビジネスパーソンがプログラミングを覚えよう、という誤った方向に行っているように思います。世界的に建築がブームになったら、すべてのビジネスパーソンにDIYや大工仕事を教えよう、という動きに見えてしまうのです。建築ブームになって建設会社や大工が忙しくなっても、自分で家を建てることが合理的でも迅速でもないことは考えてみればすぐにわかります。ところが現在の多くの企業は、社員ひとりひとりがプログラミングを覚えればイノベーションが起きると考えているようであり、その根本が何か間違っている気がします。結果的にIT業界に40年ほど浸かった私からすると、今大事なことはプログラムを覚えることとはとても思えません。これを推し進めても結局Excelのマクロが上手に組める社員が生まれるだけで、本当に望まれるイノベーションにはつながらないように思います。

 かつてEUC(End User Computing)などという言葉が流行したこともありますが、Excelの普及によってシステム部の雑魚プロというような一時限りのプログラムの必要性が減ったのは事実と思います。しかしそれによって実現されたのは、システム部門のプログラム作成コストが下がったことと、業務の効率化や省力化が図られただけのように思います。すでにあるデータを眺めてなにかを新たに気づく感性がそだたなければ、EUCを導入しても効率化や省力化が実現されるだけです。企業にとってはそれも大事でしょうが、それを社員にさせてもあまり意味はありませんし、当の社員にとっても自らの仕事を減らしてリストラにつながるだけと気づくべきと私は思います。

 今大事なことは、ITを理解することで何ができるのか、何をすればもっとビジネスが展開し顧客を引きつけられるのかといったアイディアです。プログラミングではなく、ITでできることとできないことを明らかにし、今までできないと思い込んでいたことをいかに実現するかというアイディアの力が重要になるのです。

 たとえばこのところ続いている列車内の犯罪被害を軽減するために、社内にカメラを導入するというのは一つのアイディアです。しかし社内すべてのカメラを車掌が四六時中見張ることは不可能・不合理ですし、何かが起きたときの対応も1人ではムリです。となると、カメラ映像をAIで分析し、異常を発見した場合に管制センターに動画とともに連絡をさせるべきです。管制センターでは状況をいち早くつかみ、対処の方法と運行をどうするかの判断を迅速に下し、運転手と車掌に連絡すべきです。同時に付近の警察や救急などに連絡し、いち早く具体的な対応ができるようにすべきでしょう。もちろん他の電車を止めたり、駅に警備員を急行させて列車の到着を待つといったことも必要です。となるとプログラミングがどうこう、というのではなく、緊急事態にどのような行動が必要であり、その順序や連絡方法、具体的な対処を考え、それをシステムとして鉄道会社に導入しなければならないのです。この発見や判断、連絡をするのがこれからの情報システムのあり方です。

 こういったコンセプトを作り、その具体的手順と方法を決める。まさにシステム化のアイディアと要求分析を行うことがビジネスに精通した社員に求められているのであり、そのプログラムをつくることを期待されているわけではありません。

 またテクノロジーに関しても、電車から外部の通信プロトコルを設計することなど要求されているわけがありません。必要なのは一編成の列車に複数のカメラがあり、それをリアルタイム動画で送るために5Gが必要になる、異常か否かを判断するために、どのような動きをAIに学習させるべきである、列車を効率的に停止しても復旧を迅速にするために、どの範囲まで停車を命じることが合理的になる、など、何をベースに判断できるかが考えつくことがビジネスパーソンに求められているのです。それが明確になれば、ITの専門家が効率よく信頼性の高いシステムを、安価に構築することができるようになります。

 このようにデジタル化人材の方向性をあきらかにしなければ、4000億円の投資はPC教室で終わります。それを防ぐためには、デジタル庁を含めた国のIT化を考える人間が、正しい方向を打ち出さなければならないと私は考えています。