Onomura System Consulting Office       

osco top


Weekly report

next

back

 

 

 

 

osco top

 October Third week

  先週富士山で痛ましい事故がありました。須走口からつづら折りの坂を下りていたバスが横転し、一人が亡くなり多くの方が怪我を負いました。事故の原因はブレーキのフェード現象のようですが、本当に気の毒な秋の行楽となってしまいました。

 富士山は世界でも珍しい単独峰です。その登山口は4カ所ほどありますが、そのすべては近隣の高速道路や鉄道駅と連なる道とつながっています。日本最高峰の山ですので、登山口から麓までの距離も結構ありますし、坂の勾配も強いです。人間の眼は、東名高速の大和トンネルのように周りの風景に騙されがちです。今回の事故現場も勾配の強さを感じにくく、予想以上にスピードが出てしまったのでしょう。

 さらに今回事故を起こした運転手ですが、年齢が若く経験も浅いようで今回の山道を走るのも初めてだったようです。周りの車はバスが非常にゆっくりした速度で慎重に走っていたと証言していますし、決して速度超過や乱暴な運転をしていたようには思われません。しかし経験の浅さから長く続く急勾配の坂の下り方を分かっていなかったようで、ブレーキを踏み続けてブレーキパッドが熱を持ちフェード現象を起こしてしまったようです。

 坂道を下る際にブレーキを踏み続けると、ブレーキパッドが熱を持って摩擦力がなくなるフェード現象が起きます。さらにブレーキオイルにも熱が伝わると、ブレーキが沸騰してオイル中の空気が気化しベイパーロック現象も起きてしまいます。両方とも起きてしまうと熱を冷ますしかなくなりますから、平らな場所で車を止めて熱を冷ますしかなくなります。しかし下りの坂道ではどうにもなりませんし、今回のように熱を持ってしまうと車両を止めることが難しくなります。

 こういった現象を防ぐため、下り坂ではエンジンブレーキを使うことが求められます。昔は変速機を1〜2速に落としましたが、オートマチックの場合はドライブレンジからスポーツレンジやエンジンブレーキレンジに切り替えることでエンジンブレーキが効くようになります。それによってフットブレーキの利用率を下げ、フェード現象を防ぐことが可能になります。

 それでも万が一に備えて、勾配の強い坂道には緊急避難レーンが準備されているケースが多いです。路肩に軟らかい土で坂を作り、そこに乗り上げることでブレーキの効かなくなった車両を強制的に止めることができます。バンパーが痛んだり車を引き出すためにレッカーが必要になるケースもありますが、今回のような事故を防ぐためには仕方のない方法といえます。

 今回はフェードして効きにくくなったブレーキに焦って、路肩の傾斜に斜めに突っ込んでしまったことが横転につながったように思います。最悪まっすぐ傾斜に突っ込んでいれば、バス前面が大破して運転手が怪我をしても、乗客の大きな怪我につながることは避けられたように思います。

 今回の件で被害者やご家族は本当に気の毒と思いますが、事故を起こした若い運転手も気の毒に思います。自分の技術が至らなかったための事故ですが、それでもその人生すべてが否定されるべきではないように思います。彼が事故を乗り越えて再起を図れることを、心から願いたいと思います 。